第26話 光る石
春から初夏に移る季節にトイス達はヤクーシュ王国に入った。
本来ゆっくり辺境を回ろうと思っていたが、アマーリエの事も有り、イヴァンが一度、現火の四聖に挨拶をしたいと言い出したので、まず、王都に向かう事にした。
アマーリエは構わないと言うが、そこは男としてのケジメだと思うのだ。
「アマーリエ、四聖殿に挨拶したら、俺達結婚しよう!」
「イヴァン、嬉しい。」
「イヴァン、お前は、もう少し一人前になってから、プロポーズしなさい。半人前が生意気に。」
「お師匠様、駄目ですか?」
「駄目。お前、まだ薬師になってないだろう。」
「じゃあ、王都に着いたら調べてもらって、薬師になってたら良いですか?」
「アマーリエはそれでいいのか?イヴァンはこのまま弟子でついてくるつもりだろう?」
「あぁ、それはもちろん。だって俺、まだロルカに一回も勝てねぇもん。」
「あら、私は構わないわ。私も一緒に旅をするつもりだし、何か問題あるの?」
今でも弟子で一緒に旅をしているのに、結婚って何が変わるんだろうと不思議に思うロルカだったが、トイスは少し不愉快そうだ。
「やぁねぇ、羨ましいなら、トイスもフロアティーナにプロポーズしたらぁ?」
「私達はそんな付き合いじゃない。全く君って言う人は。」
「王都迄は後五日ぐらいね。今夜はここで野宿しましょう。」
アマーリエが野宿に選んだ場所は綺麗な清水が湧き出して小さな川が流れている畔で、程よく木々も繁り、草地もある場所だった。
早速結界を張ろうとしたその時、
『 見つけた。』
どこからとも無く声が響いた。ロルカは三人を見るが、その声はロルカにしか聞こえていないようだ。
胸元のペンダントの石が微かに光っている。
――遂に見つけた。いや、よく見つけてくれた。
ロルカの心が歓喜に震える。長かった。やっと会える。
「お師匠様、ちょっと周りを見てきます。」
「ロルカ、俺も一緒に行こうか?」
「いや、大丈夫だ。イヴァンこちらの準備を頼む。」
「分かった。もう暗くなったから、油断するなよ。」
「誰に言ってるんだ。じゃあ、行ってくる。」
ロルカは三人に迷惑を掛けたくなかった。なるべく彼らから離れなければならない。
しかし、その後ろ姿を見つめるトイスの視線にロルカは気づかなかった。
「やぁ、わざわざ一人でやって来るとはね。」
そこに居たのは、人でも魔族でもなかった。最も高位なもの。
闇色の髪に金色の目。その男から感じる圧力がその男の力の強さを物語っている。
「もちろん。あんたは俺の獲物だ。まず、ペンダントを返せ!」
「これかい?良いとも。あの男は何も持っていなかったし、一人だったから、捜し物ではないと諦めたんだが、お前は、あの時何処に隠れていたんだ?」
「村に行っていた。」
「ふん。お陰であちこち探し回ったよ。」
「俺もだ。」
「じゃあ、行こうか。」
「どこへ?」
「なんだなんだ!お前、何にも知らないのか?乳母殿は何も伝えなかったのか?道理でな。」
「乳母殿?」
「まぁ、いい。向こうでゆっくり説明してもらうといい。」
ロルカは胸元からナイフを取り出した。右手で握り、強く力を込めると、ナイフは剣に姿を変えた。
「俺はお前とはどこにもいかない。お前は、ここで死ぬんだ。」
「何を・・・。」
「お前は、俺の師範を殺した。その罪、ここで償え!」
「師範?あの男の事か?お前になんの関係もないだろう。たかが人間だ。」
「戯言はもういい。」
ロルカはゆっくりと剣を構えた。この男が魔神であると感じる。やっと見つけた仇。
魔神の方がロルカに押されていた。彼はロルカを生きたまま連れていかなければならない。本気を出して、うっかり殺してしまえば、次は自分の死だと分かっている。
しかし、手を抜いて勝てる相手でもない。
――仕方ない。一旦引くか・・・。
「ん、結界か?!まさか・・・」
「逃げれると思ったのか?」
魔神に結界を展開し、動きを止めたのはトイスだった。
「お師匠様!」
「こいつの足止めぐらいは手伝わせろ。」
ロルカは頷くと、魔神に向かって駆け出した。
魔神も、こうなっては我が身を守らなければならない。ロルカに向かって鋭く剣を突き出した。
「甘い!」
突き出された剣を交わし、背後に回ったロルカはグッと魔神の背中から全身の体重をかけるように剣を押し出した。
「ガハッ! まさかこの剣は・・・。や、止めろ!止めてくれ!!! あぁぁぁぁ。」
魔神は剣に刺された所からゆっくりと灰になり、そして、カランと音がしてペンダントが土の上に落ちた。
身をかがめてペンダントを拾うと、緑色の石は元の落ち着いた色に戻っていて、その表面に落ちる雫のあとをみて、ロルカは自分が泣いている事に気付いた。
頭の上に乗せられた手が優しくて涙が止まらない。
トイスの顔を見て、この師匠は時々、本当に優しくて、いつもは結構困った人なのに、ずるいなぁと思う。
この人と一緒に旅をしてきて良かった。
落ち着いて振り返ると、イヴァンとアマーリエは地面にしゃがみこんでいた。どうやら三人がかりで結界を張って足止めをしてくれたようだ。
「みんな、ありがとうございました。」
何の説明もしなかったのに、こうして手伝ってくれた事が嬉しい。良い仲間に巡り会えて良かったと感謝の気持ちで一杯になった。
野宿の場所に火を起こし、シチューの鍋をかけ、疲れ果てたイヴァン達を呼びに来て、と、ロルカは慌ただしく働いた。復讐が終わった途端に、日常が戻ってきた感がして、なんだか気持ちが軽くなった。
「アルマン様の敵討ちは終わったか?」
トイスの言葉にロルカは驚いた。今まで師範の話をした事も無く、もちろんアルマンの名前を出したことも無い。
「お師匠様、どうしてそれを?」
「私は見た目より長く生きているからね。昔、アルマン様が戦う姿を見た事がある。お前の太刀筋はあの方と同じだった。世間から姿を隠され、どう過ごしていらっしゃるのかと思っていたが、亡くなっていたんだな。」
「はい。」
「そうか。」
「師範、いえ、父は赤ん坊の頃から拾った俺を育ててくれました。今思えば、俺は何か訳ありの子供だったんだと思います。あちこち移動しながら暮らしていて。あの魔神も殺すのではなく、連れていこうとしていましたから。」
「ふむ。」
「俺が一緒にいると、この先、迷惑をかけてしまうかもしれません。」
「・・・。」
「でも、俺はお師匠様の弟子として、今まで通り一緒に居たいです。」
「私もせっかく育てた弟子に居なくなられては困る。」
「これからもよろしくお願いします。」
「もちろんだ。」
「お師匠様、このペンダント、貰って頂けますか?」
「?」
「この石は俺のペンダントと対になっていて、離れた時には光って場所を教えてくれます。」
「それで、あの魔神に気づいたのか・・・。」
「はい。この先、もし、先日の魔物の核討伐の時のように、お師匠様と離れてしまう事があった時に、探しに行きやすくなります。」
「ありがとう。貰おう。」
トイスは受け取ったペンダントを首にかけた。
満天の星の下、目を閉じて休みながら、ロルカはアルマンを思った。父さん、あなたの本意では無かったと思うけど、仇は打ったから、と。
父の困った奴だと言うような笑顔が見えた気がした。




