第21話 毒キノコ
今日も冬とは思えない程の、心地よい朝を迎え、トイス達は久しぶりに野宿をしていた。
この辺りにはハロルド王国には無い薬草の取れる林もあり、薬草採取と乾燥作業も大切なのだ。
葉の薬草よりも、キノコの薬草の宝庫で、薬草に詳しい彼らでさえ、見たことの無いキノコが生えていることがある。
中には新種と思われるキノコもあり、毒キノコか、どうかは中々見た目で判断できないため、とりあえず少量食べて、体内に取り込む事で毒の有無、効能を調べるしか無いが、キノコは処理の仕方でも効果が変わるので、最も難しい薬草と言われている。
「お師匠様、このキノコはどのような効果が?」
「うーん、見たことが無い。新種かな?」
「エビラ茸とシンメイ茸の混ざったみたいな見た目ですね。毒キノコですか?」
イヴァンも見たことが無いらしい。
「シンメイ茸に似てるなら不味そうよね。」
シンメイ茸は一般に美味しいと言われるキノコの中で不味さが群を抜いていると言われるキノコである。
極端に不味いのだが、不思議なほど体力回復の効果がある。しかし、せっかく大きな効果が見込めるも、このキノコを原料に入れるだけで、薬もとても不味くなるので、さっぱり人気が無い。
ちなみにエビラ茸は毒キノコ。どう考えてもこのキノコは毒キノコだろう。
「ロルカ、食べてみなさい。」
「はい。・・・不味いです。」
ロルカは吐きそうな顔で答えた。毒性は余り強く無いらしい。特に息苦しさも感じない。でも、なんだろう。なんか気になる、変な感じがする。
「俺も食べてみる。」
イヴァンも口にしたが、感想はロルカと一緒。やはり余り毒性は感じないらしい。
とりあえず、持って帰って、半分焼いて、半分干してみることにした。採取した量が少ないので、煮て食べたり、煮汁を確認するのは次回になる。
野宿している洞窟に戻り、採取してきたキノコの処理を始める。今では四属性が集まっているので、何をするにも手際がいい。
ロルカが洗い、イヴァンが干し台を作る。トイスがアマーリエの火の熱気を風で送り、キノコを乾かす。あっという間だ。
「なんだか、便利なんだけど、あなた達、狡くない?薬草採取の苦労、知らないでしょう。」
自分も楽をしているが、苦労も知っているアマーリエが文句を言う。トイスは自分も知っていると言わんばかりに不服そうな顔をするが、アマーリエの目は冷たい。
きっと以前にも何かやらかして居たのだろうが、話すつもりのない師匠には聞けない。
ロルカ達は黙って作業に勤しんだ。
キノコの処理を終え、食用に取ってきたキノコと、野生のイノシシを煮込んだシチューが今夜の夕飯だ。
イヴァンとロルカがイノシシを狩り、捌いて、使わない肉は干し肉に、内蔵も干して薬に変えた。
ハーブを入れ、ホロウネギを入れて煮込めば、イノシシは臭みも抜け、柔らかく美味しい肉になる。簡単に塩コショウで味を整えるだけで、イノシシの肉から出る出汁と、キノコの出汁で、滋味豊かなシチューが完成する。
この料理はロルカの師範の得意料理だった。どうしてこの料理を今日作りたくなったのかロルカ自身、分からない。今日は鉄串に肉とキノコを刺して、焼き上げる料理にするつもりだった。
でも、急にどうしてもこの料理が食べたくなったのだ。
全員の器にシチューをよそい、皆が食べ始めるのを眺めていた。
「美味い!」
イヴァンが目を輝かせて、器にがっついている。
「凄い。こんなに美味しいなんて!」
アマーリエも喜んでくれた。
トイスだけは少し心配そうにロルカを見つめている。
「お師匠様?」
声をかけて気がついた。声が少し震えている。ロルカは自分が泣いている事に気がついた。
「どうして?」
イヴァンも気づいたみたいだ。ロルカは少し恥ずかしくなったが、何故か涙が止まらない。脳裏に浮かんだのは、剣の師範の大きな手、優しい声、自分がこのシチューが大好きだったから、強請るといつも作ってくれた。
大好きな父でも、師範でもあった彼の無惨な最期。
彼の最後の言葉。家を留守にしなければ良かった。一緒に居れば良かったと言う悔悟の気持ち。
悔しくて辛すぎて、あの時は泣けなかったのに、どうして今、こんなに泣いているんだろう。
ひとしきり、涙が枯れるまで泣いた。いつの間にかトイスが隣に座って頭を撫でてくれていた。師範のようなゴツゴツした手では無かったけど、まるで師範の手のように暖かかった。
食事を終えて、ロルカは黙って鍋を片付けに行った。
「どうしたのかしら?」
「分からないな。」
「あなた、師匠なのに?」
「私は、ロルカの昔の話を何も聞いたことが無いんだ。」
「そう。」
「でも、こんな事は初めてだから、もしかしたら今日のキノコの影響かもしれないな。」
「でも、それならイヴァンも食べたでしょ?」
「うん。だから、ほら、見てご覧、」
言われてアマーリエはイヴァンの方を振り返った。
ついさっきまで普通にしていた筈なのに、イヴァンはポケットを抑えながら、背中を丸くして蹲っている。
「イヴァン、どうしたの?」
「アマーリエ、俺は、ブレゼントしたかったんだ。でも、汚れてしまって、ずっと探してるのに、これ以上似合うものが見つけられなくて、汚してしまったのが悔しい。」
何故かイヴァンも目に涙を滲ませながら唇を噛んでアマーリエを見つめてくる。
「私にプレゼントをくれるの?」
「あげたいけど、あげられない。折角綺麗に包んでもらったのに。汚れてしまったんだよ。」
「包装が汚れたぐらい気にならないわ。あなたがくれるならなんでも嬉しい。」
「アマーリエ。だけど、俺の最初の贈り物なのに。こんな・・・。」
結構、めんどくさいキノコだったんだなぁと思い、ため息が漏れそうになったアマーリエだったが、どうやらイヴァンの言うプレゼントは彼のポケットに入っているらしい。
仕方ない。強制的に奪い取ろうと、アマーリエはイヴァンに体を寄せてポケットから袋を取り出した。
慌ててイヴァンが手を伸ばすが、取られないうちに中身を取り出す。
綺麗な糸と金の飾りがついた腕飾。
「綺麗。イヴァン、ありがとう。ねぇ、付けて。私、凄く気に入ったわ。袋の汚れはこの間の魔物のものね。あなたの雄姿最高だった。あんなに激しく戦ったのに、私へのプレゼントは無くさないでくれたのね。愛しい人。」
「アマーリエ。」
二人が洞窟に消えていくのを見ながら、このキノコは捨てた方がいいかもと思うトイスだった。
翌朝、昨夜の夕飯頃からの記憶が全く無い二人が生温い目でトイスに見られ、不安を覚えたのは仕方がない事だった。




