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風の薬師  作者: ダイフク
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第20話 魔物の核


ルルーシュの街に滞在して三日目。


トイスとアマーリエはこの街で別れてから姿を消したままだ。ロルカとイヴァンは領主館に二人の消息を訪ねに行ったが、人が出払った後で、小者しか残って居なかった。

彼に聞くと、急に全員戦支度で出かけ、いつ戻るか、どこへ行ったのかも分からないという。


ロルカ達は現在、為す術もなく宿で領主館からの連絡を待っている。

イヴァンは時々、ポケットをそっと上から抑えながら、俯いていて、大きな体が随分小さく見える。


「なぁ、イヴァン、宿に手紙を残して、俺達で探しに行こうか?」

「どうやって?俺達はこの国の地理に弱い。」

「そうだな。お師匠様達が向かったんなら、きっと何か悪い事が起きているんだろう。危ないから案内は頼めない。」

「うん。」

「乗った事はないけど、クシュカに乗せてもらって上空から確認しようと思う。」

「上空、そうか!人が集まっているところを探すんだな?」


ロルカが力強く頷き、二人同時に立ち上がった。思い立ったら直ぐに行動だ。


しかし、そこで問題が起きた。十分育って二人乗れるかと思ったクシュカがイヴァンを乗せるのを拒否したのだ。イヴァンが乗ろうとすると、いきなり足で蹴ろうとする。これでは近づくことさえ出来そうにない。


「クシュカぁ、乗せてくれよ。俺は、アマーリエを探しに行きたいんだ。」


イヴァンに乗られないように逃げていたクシュカだったが必死のイヴァンの願いを聞きながら、ちょっと悩むような仕草をした。

乗せてもらえるかと期待したのだが、クシュカは羽を広げて飛んで行ってしまった。


「駄目か。仕方ない。クシュカが戻ったら俺一人で偵察してくる。見つかったら直ぐに戻ってくるからここで待っててくれ。」

「・・・わかった。」


待つ程もなく、クシュカは戻って来た。別の飛竜を一体従わせて。

ロルカはその飛竜がクシュカに従う姿を見て驚いた。


――なんだか偉そう。可愛かったクシュカじゃないみたいなのは・・・


連れてこられた飛竜は不服そうなのだが、クシュカに従ってイヴァンを乗せてくれた。

ロルカはクシュカに乗って、初めての大空に舞い上がった。



飛竜に鞍もなく載っているので、二人とも最初は危なげだったが、流石は一流の剣士、直ぐにコツを掴んで安定した騎竜ができるようになった。


ルルーシュの上をゆっくり旋回してから、少し上空に上がることにした。

山で育ったロルカは人並み外れて視力がいい。かなり遠い所まで見通すことができる。


ゆっくり大きく旋回しながら周りを見回すと、東部の山に向かう一軍を発見した。

上空では中々言葉が届かないので、身振りで方向を示し、イヴァンと共に、その方向を目指す。まだ人影ははっきりしないし、師匠達の姿も確認できない。


しかし、近づいたらその山の上空に土の四聖の飛竜であるカナーンも居ることがわかった。そして、魔物の気配と覚えのある師匠の風魔法の魔力。


「イヴァン、あそこだ!」

「チイッ、どうやってあそこに降りたら良いんだよ!」

「もう少し高度を下げたら飛び降りよう!」

「俺は、3メートルが限界だぞ!」

「大丈夫、あそこに3メートル程の魔物がいる。あいつに降りよう。」

「は?」

「行くぞ、イヴァン!」


ロルカはクシュカを魔物の近くに誘導し、魔物の頭部目掛けて飛び降りた。イヴァンを乗せていた飛竜は魔物に近づくのを嫌がったが、クシュカに強い声で鳴かれ、諦めたようにクシュカを真似てイヴァンを飛び降りさせてくれた。


イヴァンも降りた所で魔物にトドメを指し、今居る場所を確認する。


トイスの魔法を感じた場所より、かなり山の高い場所に飛び降りたらしい。

ただ、驚いたのは魔物の多さだ。山を覆うように魔物が発生している。とりあえず、ロルカは剣を抜いて片っ端から切り捨てていく。

イヴァンは大剣を取り出し、力の限り回転をかけて振り回せば、刃の届くもの全てを薙ぎ払って行った。


二人は下山して合流しようと思ったが、魔物が一方向からだけやって来ることに気づいた。


「おい、あっちに何かあるな。」

「あぁ、行くぞ!」


ロルカはイヴァンと魔物の湧く方に向かった。途中、今まで倒した事が無いほどの数の魔物を倒し、剣が切れなくなると、剣に魔法を絡ませて、魔法の威力を借り、ひたすら急所を叩き潰すようにして倒し続けた。

二人とも身体中が魔物の体液塗れになり、息も上がるが、呼吸する度、魔物の臭い匂いに吐き気がする。


クシュカもその爪で魔物を倒し、綺麗だった銀の体に魔物の血が飛び散り、斑な状態だ。


「クシュカ、無理するな。上空で少し休め!」


ロルカに言われるも、クシュカは首を振って嫌がり、ロルカ達の背後の敵に向かって行く。

遠くに感じたトイス達の気配も少し近くなった気がする時、二人の目の前に大きな木が現れた。


その木の根元の洞から魔物が湧き出している。

さほど大きくない洞なのに、出てきた魔物は出るなり巨大化していくのだ。


「ウォォオーーーー!」


イヴァンは渾身の力を振り絞り、洞を塞ぐように土の壁を作り上げる。中から出てこようとする魔物達が壁を壊そうとするので、壊された端から、更に壁を作り直す。


ロルカはイヴァンに向かう魔物のを彼に向かわせない為、水の結界を張りながら残った魔物を屠り続けた。


「くそぉ、持たない。アマーリエ!!!」


「任せて!」


いつの間にかトイスとアマーリエが二人に追いついていた。


「トイス、グラン、ロルカ、力を貸して。焼き尽くすわ!」


アマーリエの肩に手をかけた三人から力を貰ったアマーリエは、両手から紅蓮の炎を吹き出した。

大木は一気に炎に巻かれ、洞から出ようとする魔物は、必死に強化するイヴァンの壁に遮られて出る事が出来ないまま炎に巻かれ、炎が鎮まった時には、翠色の石だけがその場に残った。


「浄化!」


トイスの浄化の魔法で、その石もサラサラと崩れて消えた。



もう動くのも億劫になったロルカとイヴァンの頭をポンポンと撫ぜて、


「良くやった。」


と、いつもになく優しい声音でトイスに褒められ、ロルカは少し嬉しくなった。



「しっかし、えげつない程強えなぁ。」


グランは山頂の状況を見回しながら、ため息をついた。

自分達も相当数の魔物を倒しながらこの場に来たのだが、途中から魔物が現れなくなった為、やっと山頂に近づけたのだ。

しかし、山頂に近づいて見たら、足の踏み場もない程の魔物の死体。それをたった二人と一体でと思うと、驚きでしかない。


「あぁ、イヴァン、怪我はない?」

「俺は、大丈夫だ。怪我を治しながら戦えるようになったから問題ない。アマーリエ、お前は?その綺麗な肌にかすり傷ひとつついても嫌だ。」

「私も大丈夫。こんなに無理をして。あなたに何かあったら私生きていけないわ。わかってるでしょう?」

「俺は、お前よりも先に死んだりしないから。約束するよ。」


周りの空気を読まない二人が自分達の世界を作っているのをどうしたものかとトイスが悩んでいる時、全く空気の読めないロルカがイヴァンに声をかけた。


「魔物臭いから、帰ろう。」


二人だけでなく、トイス達も魔物臭い。確かに。


「じ、じゃあ、一番近いゴーダ街に行こうか。」



彼ら以外の軍勢は既に下山し始めているようだ。そろそろ日暮れも近い。

全員、疲れて重い足取りだが、街に向かって歩き始めた。


上空で旋回するクシュカを眺めながら、ロルカはまずクシュカを洗ってやらなきゃな、と思った。



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