第18話 火の四聖
最後の四聖、火の四聖です。
湖の浄化を終え、村にトイス達三人が戻って来ると、村の入口には更に一団体の薬師がやってきた。
トイスとロルカはイヴァンの居る畑に向かい、グランがその団体に向かった。
「あれ? アマーリエ、なんでここに居るんだ?」
「あら、グラン、何だかこちらから凄い魔力を感じたので来たんだけど、やっぱりあなただったのね。」
「いや、俺だけじゃない。トイスも一緒だ。」
「あら、久しぶり。あの、エセ天使、元気にしてる?」
「すぐこっちに来ると思うぞ。」
その時、グランの背後から声が聞こえた。
「いい女。」
呟くような声に振り向けば、イヴァンがロルカもトイスさえも突き飛ばして、駆け寄ってくるのが目に入った。
思わず避けるグランの横を駆け抜けて、イヴァンはグランの正面にたつ女性の左手を握りしめた。
「俺は、イヴァン・ローガンだ。あんた、名前は?はぁ、あんたみたいな美人、初めて見た。なぁ名前教えて貰えないか?」
「・・・アマーリエ。」
「美人は名前まで綺麗だ。アマーリエ、アマーリエ、もっと声も聞かせてくれよ。」
「止めなさい、イヴァン。彼女は火の四聖だ。」
トイスがイヴァンの襟首を後ろに引っ張り、グランが握りしめられたアマーリエの手を引こうとして、・・・引けなかった。
今度はアマーリエがイヴァンの腕を掴んだのだ。
「私も、私もよ。もっとあなたを知りたいわ。」
「おい、アマーリエ。」
「グラン、あなた邪魔。どこかに行ってちょうだい!」
「いや、アマーリエ、俺達が向こうに行こう。ここは邪魔が多すぎるから。」
「そうねイヴァン。」
二人は腕を組んで、湖の方に消えていった。呆気に取られる人々を残して。
「お、お師匠様。先程の方は火の四聖なんですよね?」
「そうだ。イヴァンのやつ、絶対に聞こえてないな。」
どうしたものかと思うが、今追っかけて行ったら、あの二人にどんな目に合わせられるか。
イヴァンは武術大会の優勝者だし、アマーリエは火の四聖だ。
アマーリエが連れてきた薬師も呆然としている。
「とりあえず、村に戻るか?」
誰にともなくグランが声をかけ、一同は村に戻ることにした。
そういえばと、ロルカがトイスに質問した。
「お師匠様、四聖の方というのは、どなたもお師匠様のように何時でも自由に各地を移動できるのですか?」
「そんなわけ無いだろう。こいつは特別だ!」
グランが憮然とし、説明してくれた。
元々、四聖は三聖で、各国の王都に一人づつ居を構えていた。彼らは居を構えるだけでなく、その存在自体が王都の守りになっている。
現在の四聖の内、水の四聖は最も体が弱く、そのせいか、守りの力が弱い為、その居住する建物で力を増幅して、守りを勤めているという。
土の四聖は力が強い為、王都を数日離れても、国内にいる限り問題が無いそうだ。
火の四聖は特殊で元々先代が亡くなった際、同時に二人が覚醒した為、より力の強い方が四聖となり、もう一人が【控え様】となった。二人体制の為、どちらか一人が王都に居れば問題は無いが、季節毎の催し毎の参加を求められる為、四聖はトイスのようにあちこち旅行する事はできないらしい。
しかし、控え様は、元々王都産まれの為、王都以外に行きたいと思わないらしい。
元拳闘家だった、現四聖は逆にあちこち動き回って、実質控え様が王都の守りを固めている。
話を聞き終え、上空を見上げれば、真紅の飛竜が目に入る。
グランは軽く指笛を鳴らした。飛竜がゆっくり降下し、グランに大きな頭を擦り付けた。
「俺の竜だ。カナーンって言うんだよ。」
ロルカのクシュカの大きくなった姿より、更に大きい。
それに顔つきも猛々しさを感じる。
そういえば、雪の中、小さくなったままクシュカは大きくならず、丸まっている。餌も余り食べない。具合が悪かったんだろうか、慌ただしくてクシュカを気にかけてやれなかった。
急いで懐から出したクシュカは眠っているようだった。
「あ、お前、竜を連れていたのか。だから湖の浄化もできたんだな。」
「? どういう事ですか?」
「その竜に力を貸して貰ったんだろう?よっぽど相性がいいんだな。」
ロルカは言われている事がわからず、思わずトイスとグランの顔を交互に見つめた。
「その竜はお前の竜なんだろう?」
「はい。」
「竜は自分の相方に力を貸してくれるんだよ。飼い主じゃなくて、相方だ。大切にしてやれよ。」
やはり言われている事がよく分からないが、クシュカがロルカに力を貸してくれた事だけはわかった。
それに今は力を使いすぎて眠っているだけだと教えられ、少しほっとした。
グランの飛竜のカナーンがクシュカを気にかけてくれているので、グランがクシュカをその首の辺りにそっと載せた。竜は竜同士で居ると回復が早いのだそうだ。
「なぁ、トイスぅ、イヴァン、アマーリエに取られたんじゃないかぁ?」
「うーん。ロルカがいる限り、離れないと思っていたんだが・・・。」
「? お師匠様、何の話ですか?」
「あぁ、イヴァンはお前にまだ一勝も出来ていないなって話だ。」
そんな話だったか? と、思うのだが、分からない。イヴァンも全然戻って来ないし、村も落ち着いたので、自分達はいつまでこうしているんだろうと、そろそろじれてきてしまった。
「お師匠様、イヴァン達を迎えに行って来ましょうか?」
「止めなさい。」
「止めた方がいいぞ。アマーリエは怖い。」
やっぱり分からない。イヴァンは話を良く聞いてくれる良い奴だし、あの、火の四聖は美しくて気高い感じの人だった。怖いと言う単語とは結びつかない。
かと言って、イヴァンのように彼女と親しくなりたいと感じたわけでもないのだが。
何もする事が無くなり、ぼんやりと立っていたら、飛竜に背中をつつかれた。クシュカが目を覚ましたらしい。
「クシュカ!目が覚めたのか?ごめんな。無理させて。」
「キュウ。クルルル。」
ロルカの肩に戻り、頬に擦り寄ってきた。頭を撫ぜてやると嬉しそうに鳴いた。
暫くして、イヴァンとアマーリエが戻って来た。
居なくなった時は腕を組んでいたはずだが、戻って来た時はアマーリエはイヴァンに腰を抱かれ、イヴァンの首に手をかけて肩口に甘えるように頭をくっつけている。
ロルカは思わず赤面してしまった。
「ふふ、お待たせ。グラン、カナーンを貸してよ。ちょっと国に戻って、片付けたら直ぐにこっちに戻るから。」
トイスがそれはそれは嫌そうな顔をした。
「え、戻って来るの?戻って来なくていいよ。」
「煩い。私のする事に文句をつけるの?私と勝負する?」
「止めろ。お前たちの勝負は迷惑だから。俺の国を荒らさないでくれ。」
「ですって。じゃあ、行ってくるわ。」
アマーリエは振り返ってイヴァンに口付け、勇ましくカナーンに飛び乗ったかと思えば、あっという間に上空に駆け上がって行った。
「グラン、あれ、お前の竜じゃなかったっけ?」
「アマーリエから貰ったんだ。」
「あぁ、そう。」
グランが悔しそうに呟けばトイスは役立たずと言わんばかりの冷たい目でグランを見た。
ただ一人、幸せそうな顔をしていたのはイヴァンだけだった。
「あのさぁ、幸せそうな所、悪いけど、あいつ、お前より、随分年上だぞ。」
イヴァンは何を今更、という顔をしているが、ロルカは驚いた。見た目、イヴァンと同じ位にしか見えない。
「四聖が若い見た目って事は知ってますよ。俺だって。」
「そうなのか?」
「あれ?ロルカは知らないのか?薬師の一級以上になると、見た目は年取らなくなるんだ。四聖だと、更に寿命も伸びるんだぞ。」
「!!! 知らなかった・・・。じゃあ、お師匠様は今、何歳なんですか?」
「教えてやらない。しかし、イヴァン、アマーリエはお前の倍以上年上だぞ。」
トイスはニヤリとしてアマーリエの年をばらしたが、イヴァンは更に満足そうに笑っている。
「アマーリエに言われたんだよ。今まで長く生きていて、俺ほどいい男に巡り会えなかったって。俺達、運命の恋人なんだ。俺が一級に上がって、アマーリエが四聖を辞めれば、二人でゆっくり年を取れる。お師匠様、俺、頑張るから、よろしくお願いします。」
「あぁ、そうだな・・・頑張ってくれ。そうかあいつ、四聖を控えに押しつけに行ったのか・・・。」
トイスは火の弟子が一人欲しいなって思った自分を後悔した。欲しいのは弟子で、元四聖じゃない。
大きな大きなため息をついた。




