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風の薬師  作者: ダイフク
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第16話 昇級

弟子二人が昇級します。四聖の一人、水の四聖が出てきます。


王都の通称【水の離宮】と呼ばれる建物は、一階に薬師を統括する役所があり、二階には【水の四聖】の住まいがある。


薬師統括の役所は、国内に居る全ての薬師の年齢、性別、名前、級、所在地、特に秀でた治療の術についてつぶさに管理、保管されている。

但し、トイス達の様に所在が決まらないものも一部には居て、その所在は『所在不詳』とされる。


この役所に勤める者は、一部に王国の役人も含まれるが、大半は薬師であり、もし、王都に危険が迫り、王国軍が動く場合にはそれに同行する治療師、とも、攻撃魔法を操る魔法士ともなって働く事となる。


その為、平時であれば、交代で、又は指名されて貴族の治療のみ行っていて、通常ならば平民の治療はしない。また少なくても薬師である五級以上の者しか、勤めることができない、薬師のエリートの集まる場所になっている。


もちろん、貴族の紹介があった場合は、平民でも彼らの治療を受ける事が出来るが、貴族と繋がりが持てるものは数える程しかいない。


王都に住む平民は治療所を構える薬師に治療して貰うのだが、三級以上となると殆どが役所勤めとなるので、辺境程では無いとしても重症、重病を患った場合はツテを頼み、役所の薬師の治療を願わなくてはならない。

その場合は、薬師だけでなく、仲立ちをしてくれた者にも謝礼が必要になるのだ。


そんな平民にとって、身近なものが薬草店である。薬草店は薬師に薬草を卸すだけでなく、調薬の得意な人間を雇い、様々な薬の販売もしており、中には随分と良心的な価格で良い薬を提供する店もある。



固定転送陣を利用して王都に来たトイス達が着いた場所は、役所の正面玄関を入った少し横の場所だった。


「これは、風の四聖、トイス様、お久しぶりでございます。」

「皆、変わりはないか?」

「はい、お気遣い、ありがとうございます。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「弟子の級を調べて貰いたい。この二人だ。案内を頼めるか?」

「お任せ下さい。トイス様はどちらヘ?」

「暫く無沙汰をしていたので、フロアティーナ様にご挨拶に伺おうと思う。」

「それは、お喜びになられますでしょう。」


フロアティーナは水の四聖である女性薬師である。


「お前達、良い結果を楽しみにしているよ。ロルカは、お前が思うより高い級になっている筈だ。最近はイヴァンに薬草についても教えをこい、知識が増えているからな。

イヴァンは薬草の知識に加え、治療の術も上がって来ているので楽しみだ。良い結果だったら折角だ。兄上に報告に行ってもいいぞ。

夜に宿で合流しよう。」

「良いですか?お師匠様、どんな結果でも、一度報告に寄りたいと思います。」


トイスは微笑んで頷き、案内の役人に二人を任せると水の離宮の二階に向かった。


「やあ、フロアティーナ、元気?」

「あら、トイス、久しぶりね。来てくれて嬉しいわ。」


水の四聖のフロアティーナは背中の中程まで伸びた艶やかな黒髪、小さい顔に黒い瞳の女性である。淡い色の裾の長いゆったりとした衣をまとい、少し気だるげに長椅子で寛いでいた。


「顔色が悪いね。また痩せたんじゃないか?」

「そんな事はないわ。ふふ。私の顔色がわかるのは貴方ぐらいね。」

「君は誤魔化すのが上手いから。」

「大丈夫、まだ本当に大丈夫なのよ。ねぇ、私のお願いはどうしてるの?」

「今日は、久しぶりに級を見て貰いに来たんだ。」

「まぁ、今度は何級になるかしらね。」

「私の予想では三級の予定だね。」

「もう、そんなに!? やっぱり貴方にお願いして良かった。私ではこんなに早くそこまで上げるのは無理だわ。」

「私は厳しいお師匠様だからね。」


フロアティーナはとても嬉しそうにトイスの手を握りしめながら微笑んだ。


「本当にありがとう。彼を見つけた時に貴方に引き受けて貰えて、私、この先、約束した年数は絶対に頑張れるわ。」

「君が頑張ってくれなければ、私があの子を虐める意味が無いだろう?」

「虐めるだなんて。そういえば、もう一人お弟子を増やしたのでしょう?土のグランが、先日噂を聞いたと悔しそうに手紙をくれたわ。」

「なんだ、あいつイヴァンの事を狙ってたのか。」

「剣術一筋だから諦めていたようよ。」

「まぁ、面白い弟子が二人になって賑やかになったよ。」


「辺境に居たと思ったのに、いつ王都に着いたの?」

「今夜泊まる温泉に、固定転送陣があったので、ちょっと来ただけなんだ。今夜にはまた辺境に戻るよ。」

「そうなの?忙しないのね。次はもっとゆっくりして行ってくれると嬉しいわ。温泉かぁ、私も行ってみたいわね。」

「一日位なら許されるんじゃないか?」

「でも、どうかしらね。夕方から翌日の午前中迄だったらいいかも。」

「今夜泊まる宿なら固定転送陣で行けるし、いいんじゃないか?いい宿だよ。」

「そうね、あなたの泊まった宿なら私も行ってみたいわ。」

「ローガン薬草店の若主人に聞いてごらん。彼のおすすめなんだ。」

「そうするわ。いいことを教えてくれてありがとう。」

「どういたしまして、私はそろそろ失礼するよ。」


「ねぇ、トイス、無理しないでね。あなたは優しいから。」

「そんな事、私の弟子が聞いたら目を丸くするよ。じゃあ、またね、フロアティーナ。そうそう、今度ガランディーア王国に行くので、グランにイヴァンを見せびらかして来るよ。」

「もぉ、意地悪したら駄目よ。彼、本当に悔しそうだったんだから。」

「それは楽しみだ。」


トイスはいい事を聞いたとばかり、笑顔でフロアティーナと別れて一階に戻った。



「お師匠様。」


一階では既に級の判定が終わったロルカが待っていた。イヴァンは実家に報告に行ったらしい。


「どうだった?」

「俺が三級Sで、イヴァンが六級Sでした。弟子の期間がまだ短すぎるのが理由のようで、もう少し弟子の期間が長ければ五級以上になれたかもとの事です。」

「おまえもそうだろう?」

「はい、三級以上になるにはあと一年以上の弟子修行が必要だそうです。」

「まあ、そうだろうな。」


「ちょっと驚いてます。俺が三級だなんて。」

「師匠の私の指導を疑うのか?」

「いえ、そんなわけでは・・・」

「まあいい、今夜はお祝いだ。温泉で大いに酒を飲もう!」


ご機嫌なトイスだが、どれだけ飲み食いしても、支払いはイヴァンの兄だから懐は痛まない。今夜がとても楽しみだと思うトイスだった。



一方、実家のローガン薬草店に報告に戻ったイヴァンも兄にとても喜んで貰えていた。


「イヴァン、素晴らしいじゃないか!私はお前を誉に思うぞ!!」

「兄貴!俺、必ず薬師になるから、楽しみにしていてくれよ!」


薬師を目指していたわけじゃ無いはずなんだがなと、苦笑いするものの、薬草店としては、剣士よりも薬師がありがたいと思うランセルだった。

ただ、すっかりあの、見た目天使の師匠に誑かされて居る弟が少し心配な気はするのだが。


折角やる気を出しているので、兄としては精一杯応援してやろうと思っている。四聖に弟子入りできるなど、望んでも叶うものではないのだから。


「そうそう、近いうちにガランディーア王都に入るつもりだけど、この鞄、今まで通りに使えるかなぁ?」

「ライラは大陸内なら大丈夫だと言っていたぞ。」

「そりゃよかった。あっちで変わった薬草を見かけたら、生で送るよ。」

「そうだな、楽しみにしてる。そういえば、この間の料理は美味しかった。また変わった料理も送ってくれると嬉しいな。」

「任せろ。じゃあ、俺、そろそろ行くわ。店の固定転送陣使わせてくれ。」

「あぁ。じゃあ気をつけて。今夜の料理は宿に頼んで奮発して貰えよ。」

「良いのか?ありがとう。兄貴、またな。」



今夜の宿の料理はとても豪華になりそうだ。

何を食べさせてもらおう、酒は何が良いかなと、考えるだけで、気持ちがワクワクしてくるのが止まらない。


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