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風の薬師  作者: ダイフク
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第14話 魔法の鞄

イヴァンの兄が登場します。


沢山のお土産を貰って町を出たトイス達は、ご機嫌だった。


初めて飲むハーブと蜂蜜の入ったお酒は、甘くて、一口飲んだ時は子供向けかと思ったが、決して子供向けでは無いアルコールの強さをハーブが優しく中和し、かつ、喉に染みる酒の美味さが絶妙で、病みつきになる美味さだった。


日頃は辛口の酒しか飲まないイヴァンすら、


「美味い、冬に最高、これ飲みながら温泉に入りてぇ!!」


と、叫ぶ程だ。


『温泉』と言う言葉にピクっと反応したトイスが、南のガランディーア王国行を変更したのは仕方がない事だった。


「温泉に行こう。」

「お師匠様?」

「ロルカは温泉に入った事はあるか?」

「いえ、温泉ってなんですか?」

「えーっ!ロルカ、温泉知らないの?人生損してるって!」


イヴァンにそう言われても、ロルカは武術大会に出る為に王都に行くまではずっと山暮らしで、殆ど世間の事は知らない。


「お師匠様、温泉場調べてみますか?」

「いいね、イヴァン、おすすめがあるのか?」

「兄貴が温泉好きなので、聞いてみます。」


ロルカはえ?と思った。聞いてみますとは言うものの、イヴァンの実家のある王都はここから遥か遠い。急ぎの便で知らせても、ここは辺境、いつ連絡が届くか分からないのだ。


イヴァンはその心配をよそに、早速手紙を書き始めた。

そして書いた手紙を自分の魔法の鞄に放り込む。


「兄貴は結構マメに荷物チェックをしてくれるので、直ぐに返事が来ると思いますよ。」


ロルカはイヴァンの言うことが理解できなかったが、トイスは面白そうに鞄を見ながら頷いている。


「そうか、イヴァンの鞄は今年でた話題の新作鞄だったんだな。」

「おっ!お師匠様、ご存知でしたか?」

「今はまだ二人での共有と、共有量の制限があると聞いた。しかし、開発が進めば、鞄で仕入れができるようになるかもしれないと商人達が目の色を変えているんだろう?」

「そうです。うちなんかは薬草店ですから、希少な薬草なら少なくても十分商売になります。ただ、値段が高すぎて、今のままでは商売に使うのは無理ですね。」


――二人で鞄共有って、何。え?遠く離れた人に物を渡せるの?


待つ程もなく、イヴァンの鞄の留め金がチカチカと光った。


「さすが兄貴、もう返事が来ましたよ。」


イヴァンは鞄から返事を取り出し、お土産に貰った自分の分の酒と煮込み料理を鞄に入れた。上に『お礼、美味いから兄貴も食べてみな。』と、書いて。


「お師匠様、意外に近くに温泉ありますよ。」

「ほぉ、どこだ?」

「これが兄貴が送ってきた地図です。」


二人が地図を見てはしゃぐ姿を見ながら、ロルカは路銀の心配をしていた。


――温泉って、幾らするんだろう。


その気持ちに気づいたトイスがにっこりと笑いかけた。


「ロルカ、路銀の心配はいらないよ。なんと、イヴァンの兄上の知り合いの宿だそうで、無料で泊めて頂けるそうだ。」

「え?そうなんですか?」

「!・・・そ、そうらしい。」

イヴァンの笑顔が微妙に固まった事にロルカは気づかず、ほっと安心した。


「お師匠様、そんな事、どこに書いてありましたっけ?」

「おや、お前はロルカに路銀の心配をかけたいのか?温泉にも入れないよ。」


それでもいいのか?と言われてイヴァンはため息をついた。

この師匠と居るとため息が癖になるとロルカには言われていたが、本当にそうだと思う。見た目天使なのに本当にタチが悪い。


二人の会話はさりげなくトイスが風で結界を張っているからロルカには聞こえない。


「でも、この宿高いですよ。流石にロルカでもおかしいと思いませんか?」

「それを考えるのがお前の仕事だろう?考えつかなかったら、お前の兄貴に考えてもらえ。彼は切れ者だからな。いくらでも考えついてくれるんじゃないか?」

「お師匠様、兄貴の事知ってるんですか?」

「有名だからな。まさかここまで弟に甘いとは知らなかったが。」

「まぁ、そうですね。昔から優しいんですよ、俺にはね。」

「兄弟仲が良くて良かったな。」


少し離れた所で地図を渡され、目的地迄の道順を確認していたロルカから声をかけられ、結界を解除した。


「町の方に頂いた地図と照らし合わせると、この道を行くのが良さそうです。」

「どれぐらいかかりそうだ?」

「近いですよ。今から向かえば明日には着きそうです。」

「それは良かった。早速行こう。」

「はい、お師匠様。」




一方、王都のローガン薬草店では、二人の人物が鞄から取り出したお礼を眺めていた。


「これは何の料理?」

黒髪の妖艶な美女が不思議そうに眺めている。


「うーん。何かなぁ。説明がないから分からないねぇ。何かの肉みたいだが・・・。」

イヴァンの兄のランセルだ。女性は彼の婚約者で発明好きの変わり者と言われるライラである。


「あなたの弟って、相変わらずね。」

「まあね、でもそこが可愛いだろう?」

「あなたの好みも大概だと思うわ。まぁ、私を婚約者に選んだ辺りでもう変だけど。」

「いやいや、君は最高だよ!この鞄!おかげで郵便よりも早く、イヴァンの様子を知ることができる。」


君のおかげだよと微笑んで、ライラを抱き寄せた。


「イヴァンのしつこさってあなたと一緒ね。これがローガンの血なのかしら?ちょっと私、心配になってきちゃうわ。」

「どうして?君は君の好きなようにしていいんだよ。」

「まぁねぇ。あなたの手の上で、好き勝手させて貰うわね。」


ふと目を向ければこの大陸の巨大な地図が壁を覆うように貼り付けてある。そこに赤い線が書き込まれ、更に温泉場まで引かれていた。


「だいたい、この手紙、今いる町の名前だけで、何処にいるかわかると思ってるの変でしょ。もう少し、あの子、教育した方が良いわよ。」

苦笑しながらランセルは弟の手紙を見直した。辺境の小さい町の名前しか書かれていない手紙。


しかし、今まで、今はどこに居るのか?元気にしてるのか?と度々手紙を送り、弟の行方を把握している兄に不可能はない。大金をはたいて購入した巨大な地図には細かい町や村の名前まで書き込まれているのだから。


「とりあえず、これ、食べてみるかい?」

「そうね。」


料理を持って厨房に行き、料理と酒を温めてもらった。


「美味しい!」

ライラが一口食べて驚いた。


「これは・・・、食べた事の無い味だが、良いね。この酒も美味い。」


料理人が食べたそうにしているので彼にも試食させたところ、必ず再現してみせると胸を張った。


イヴァンが王都に帰ってきたら、料理人がこの料理を再現して弟を驚かせてくれるだろう。

これからも行く先で美味しいものに出会ったら送って欲しいと手紙を書こうと思ったランセルだった。


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