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風の薬師  作者: ダイフク
11/42

第11話 二人目の弟子

トイスに二人目の弟子ができる話です。


ナハトの町に着いた日は、朝からみぞれが降る寒い日だった。


冬になると、さすがに広場での治療はできない。どの町や村にも必ずある教会を利用させて貰っている。

屋内とは言うものの、教会には暖房設備はほとんど無く、外よりましという程度に寒い。

ただ、その教会に大勢が集まるので、それなりに暖かくはなるが、流行り風邪のような人にうつる病気の患者は、教会の入口で中に入らない場所で治療しなければならない。


ロルカも弟子になって二年、最近では色々な治療を師匠から任せて貰えるようになってきた。

まだまだ自分では一人前には程遠いとわかってきても、この患者はお前に任せると師匠に言われるのは嬉しい。


今日はロルカが流行病の患者の担当を任せられていた。


そんな日、外で治療するロルカが視線を感じてそちらに目を向けると、木の下に立つ一人の剣士が目に入った。

彼はずっとこちらを見ているが、この寒い中、そこから動く気は無いようだった。


――寒いだろうに。治療して欲しいのか?それならこちらに来ればいいのに。


結局、その男は治療が終わるまで、そこから動かなかった。


「お師匠様、外の患者は終わりました。」

「こちらはもう少しだから、外から片付けを始めてくれ。」

「はい。」


外の片付けをしていると、その男が近づいてきた。

赤褐色の髪、焦げ茶の瞳の体の大きな男だった。腰には大振りの剣をさす、一目見てわかるほどの強い剣士だ。


「カーク・ギルマン、お前を探していた。」

「・・・。」

「お前、俺を覚えていないのか?」


男の声が低い唸り声のようになる。


――誰だろう?見覚えが無いんだが・・・。


ロルカをカークと呼ぶならば、剣士の頃の知り合いだろうが、その頃の知り合いは殆ど居ない。しかし、ロルカの目の前にいるこの男は知らないと言えば、怒りだしそうな感じがする。

いっそ、自分はカークではありませんと、惚けてみた方がいいのでは無いかと悩んでいる所に救いの神、トイスがやって来た。


「ロルカ、片付いたか?」

「お師匠様。」

「ロルカだと?」


トイスはロルカとその男を見て、ニヤリと笑った。


――え?知り合い?師匠が良くない顔をしてる。どうしようか。任せるのも不安になってきた。


「ロルカ、中の片付けをしてくれ。」

「あ、はい。お師匠様。」


一抹の不安を感じながらもロルカは教会の中に小走りで入っていった。


「あ、待て、まだ話が・・・。」


トイスが笑顔を浮かべて教会の入口を塞ぐように男の邪魔をして、彼に話しかけた。


「私の弟子に何かご用ですか?『瞬殺』殿。」


男は一瞬で怒りを膨らませ、トイスに殴り掛かろうとして、自分の体が動かない事に気がついた。

風が全身を覆い、手も足も動かない。それが更に男を怒らせる。


「全く気が短い。落ち着いて話もできないのか?イヴァン・ローガン。」

「俺は、カークに話があるんだ。」

「今はロルカだ。私の弟子だよ。」

「あいつは国一番の剣士だ。何故【風の四聖】の弟子になっているんだ!」


トイスは面白そうにイヴァンを見上げた。背の低くないトイスでも見上げるほど、この男は大きい。


「私の事を知っているんだ。」

「俺の実家はローガン薬草店だ。辺境好きなあんたの事は有名だから、良く知っている。」

「ローガン薬草店か、それならわかる。あの大店の息子か。その君が私の弟子に何の用かな?君をがっかりさせて申し訳ないが、弟子は君の事を覚えていないと思うよ。」

「どうしてだ!あんただって俺の事を覚えていたのに、俺を瞬殺したあいつが覚えていないって、あんまりだろう!」

「まぁ、そう思うよ。でもあの武術大会で、ロルカは優勝して【国渡りの許可】を手に入れる事しか考えてなかったから、対戦相手をあまり意識していなかったと思う。」

「自分の強さを試すためではないのか?」

「違うね。ロルカは大陸を自由に移動したかっただけだから。」


トイスはイヴァンが大人しくなってきたので、縛っていた風を解いてやった。


「何処にでも行けるようになったのにどうして薬師の弟子になっているんだ?」

「あぁ、それは私に勝負で負けたからだよ。」

「あんたに?勝負で?魔法勝負か?」

「いや、違う。君も私とロルカと同じ条件で勝負するかい?」

「良いだろう。」

「じゃあ、ちょっと手を前に出してくれるかい?」


イヴァンは言われるまま、手を開いて前に差し出した。


「ジャンケンポン、私の勝ち。」

「え?」


トイスはニコニコしながら、チョキを出した。


「待て、待て、待て!!勝負ってジャンケン勝負か?まさか、ジャンケンに負けてあいつは薬師の弟子をしてるのか?」

「そうだよ。お前も今日から私の弟子だ。ロルカと同じで、私の事はお師匠様と呼ぶんだよ。」


「ふざけるな!こんな勝負、誰が従うか!そもそも勝負内容を伝えもしないのは勝負として成り立たない!」

「ふふ。普通はそういう反応だよね。でもロルカは素直だから、ちゃんと自分の負けを認めて弟子になったよ。」

「あいつ、馬鹿か?」

「私の弟子に、失礼じゃないか。」

「子どもだって、騙されないと思う。とにかく、あんたの弟子にはならない。」


「いいのか?後悔するよ。」

「何を・・・」

「そもそも、どうしてここまでロルカを追ってきたんだ?凄い執念だよね。私達はずっと移動していたし、何処に行くかも決めていなかった。最初は私と旅に出たのもわからなかったはずだ。どうやって追いついたのかな?」


イヴァンの日焼けした顔に赤みがさした。

「大会の翌日、あいつを探した。でも見つからなくて、店の使用人にも頼んで王都中を探してもらった。王都の門番にも聞いたけど、あいつが出ていったのを見たやつは居なかった。その内、使用人の一人が場末の酒場で薬師と剣士が話してたのを聞き込んできた。」

「それで?」

「薬師の容貌を聞いて、すぐにあんただと分かったので、今度は門番にあんたの事を聞いた。そうしたら大会の翌朝に弟子を連れて王都を出たと教えてくれた。」


トイスは楽しそうに話を聞いているが、イヴァンは渋い顔をしている。

「流石は大店の息子。それで、それで?」

「俺は王都の勤めを辞めて、両親に断って、後を追った。王都を出るまでに一ヶ月近くかかったから行先になりそうな街の薬草店に連絡し、見かけたら知らせを貰うようにした。あんたは辺境好きだから、中央には来ないと思ったから。」

「まぁ、そうだね。でも半年待ってたら、王都に行ったのに。」

「それも後で知った。」


「ロルカに対する執念は良く分かった。お前の望みは再勝負なんだろう?武術大会準決勝の。」


イヴァンは武術大会でロルカの準決勝対戦相手だった。前年優勝者のイヴァンはそこで彼に瞬殺されたのだ。


「そうだ。この二年、俺も修行しながらあんた達を追った。今度こそ負けない。負けたくない!」

「それで、また負けたら?また勝負を挑むのか?毎日?」

「俺は毎日でも挑む。あんな負け方はもうしない!」

「実力差は分かっているんだ。」

「・・・あいつは強い。分かってはいる。でも俺はあいつに勝ちたい!」


こぶしを強く握りしめ、イヴァンはトイスを睨みつけた。トイスはそれをとても楽しそうに見つめ、一つの提案をした。


「それなら、やはり、私の弟子になるといい。」

「なぜ、弟子になる必要がある。」

「お前には気付いていないかもしれないが土の属性がある。」

「知ってる。昔、【土の四聖】にそう言われた。」

「魔法を伸ばそうとは思わなかったのか?」

「俺は剣が好きだから、他のことには興味が無い。」


「ロルカは、今でも毎朝欠かさず鍛錬している。」

「え?毎朝?鍛錬?」

「私は弟子同士が朝の鍛錬をするのは気にしないが、弟子以外との鍛錬は認めない。」

「それは・・・。」

「どうする?私の弟子になれば、毎朝、勝負し放題だ。もちろん真面目に修行し、働く者しか弟子として認めない。私が駄目だと思えば破門にする。」

「あんた、見た目と違って性悪だな。」

「さあ、どうする?私の弟子になるかい?」

「分かった。俺を弟子にして欲しい。今日からよろしく頼む。お師匠様。」

「よく出来ました。」


ちょうどそこにロルカが片付けを終えて戻ってきた。まだそこに男がいるのを見て、足を止めた。


「ロルカ、今日からお前と同じ弟子になるイヴァンだ。色々教えてあげなさい。それから彼も毎朝鍛錬をしているので、お前の鍛錬の相手もしてくれるそうだ。」

「そうなんですか?俺はロルカ。よろしく頼む。鍛錬の相手がいるのは嬉しい。」

「こちらこそ。俺はイヴァンだ。」

二人はがっちりと握手した。


その姿を見て、ちょっと暑苦しかったかなと、思うトイスだった。


――土属性も居るといいと思っていたので、まぁ、いいか。


今夜は歓迎会でもしてやろうと思うトイスだった。






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― 新着の感想 ―
[一言] イヴァンめんどくさ ロルカはいい迷惑だなって思ったけどそんなことないんだね
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