第十六話:ちゃんとした戦闘(?)って初めてじゃないか
マウス山。街を出て30分ほどにある初心者向けのダンジョンだ。
本来ならば、簡単なスライムなどしか出てこないはずだ。
「なんか……雰囲気違くない?」
いつもは緑が生い茂る森のはずだが、なんとなく薄暗く霧が立ち込めている。
「なんか、ヤバそうな雰囲気ですね」
「……待て」
クリスが、俺たちの行進を止める。
目の前の茂みが、ざわめいている。
「どうせスライムだろ、倒しちまおうぜ」
俺の短剣を抜き、茂みに向かって構える。スライムくらいならもうへっちゃらだぜ。
「グ、グガアアアアア!!!」
「ちょ、ちょっとロックさん……? あれやばいんじゃ……」
ミルが俺の後ろに隠れる。それもそうだ。
目の前に出てきたのは、ベアーマックマン。通常、Bクラスの冒険者が相手をする中級モンスターだ。
「な、なんでこんなところにいるんだよ!」
「逃げましょう! ええ私はもう逃げますよ!」
ショコラは、早々に『加速』を用いて遠くの木の上まで退散している。
明らかに全滅する、これはやばい。
「ちょ、ちょっと、私は!?」
「……私が相手をする」
俺とミルがあたふたしていると、クリスが大剣を抜いて立ち向かっている。
そうだ、クリスはあれでもAクラス冒険者! この程度なら、何度も戦ってきているはずだ!
「おうおうクリスやっちまえ!」
「そうよ! こんな奴けちょんけちょんにしちゃって!」
クリスとベアーマックマンが対峙する。
ベアーマックマンは、興奮しており戦闘態勢に入っている。
そこで、クリスが仕掛けた。
「ふっ!」
大剣を抱え、高く飛び上がる。Aランク冒険者、流石の跳躍力だ。
そして、そのまま大剣をベアーマックマンの脳天へ――――!
「グガア!」
ベアーマックマンが声を上げる。
しかし、それは攻撃を食らったことではなく、攻撃をするためだった。
ベアーマックマンの軽い腕振りだけで、クリスはショコラが上っている木に打ち付けられた。
「クリス!」
「ちょっと、何してんのよー!」
「すまない……私は防御の仕方を知らないのだ」
「お前よくそれで生きてこれたな!」
ただの大剣振り回す脳筋じゃねえか!
これじゃあ、こいつを倒すことは不可能だ。
「とりあえず逃げるぞ! ショコラはクリスを連れて行ってくれ! 俺はスキルで逃げ切れる!」
「待って、私を置いてかないで! こんな美少女を置いていくなんて、世界の損失よ!」
「あ、忘れてた」
正直、置いていきたい。
穀潰しをパーティにいさせる必要もないし。
「バイバイ、ミル」
「待って! ごめんなさい! なんでもしますからあ!」
「……その言葉、忘れるなよ」
しょうがない、連れて帰るか。
「ミル、お前のスキルで縄作って、自分を結べ!」
「また囮にするんでしょ! 信じないわよ!」
「黙れ、俺が連れてってやるから早く結べ!」
「置いてったら呪うわよ!」
どっちにしろ選択肢はないと気づいたのか、ミルは急いで自分で縄を作り、自分を結んだ。
相変わらず、結ぶのだけは一瞬だな。
「よし、ヒモ貸せ!」
そして、ぐるぐる巻きになっているヒモの一部を伸ばし、俺がつかむ。
あとは、『逃走』の出番だ。
「にーげるんだよぉおお!」
「ぐあば、ぐばっ!」
ミルを地面に引きずりながら、スキルで俺たちは逃げ出した。




