第十五話:ケンタウルス同士がレース中に殴り合ったりするらしい
「差せ!差せ!」
「逃げてー!私の給料と共に逃げてー!」
盛り上がる会場。
人々の熱い視線が、場内を走るケンタウルスに向けられる。
「差せ、差せ、よっしゃああああ!」
「あああああああああ!!」
俺が強くこぶしを天に掲げると同時に、隣にいたミルが崩れ落ちる。
「ほれ見ろ!3-7-2だって言っただろ!」
「私の給料……全部溶けた……」
「まー落ち込むな、今夜の飯くらい奢ってやるよ、ハッハッハ」
「やっぱりここにいましたね、二人とも」
俺たちが盛り上がっていると、一人だけ冷静な人間がやってきていた。
「どうしたショコラ、お前も飯食うか?」
「ショコラー、お金貸してぇええ」
「違いますよ! 昨日言ってたあれはどうするんですか!」
ん、なんか言ってたっけか。
「Cランクの任務を受注する話!」
「あーそんなこと言ったっけ、そうだったか」
「そうですよ、昨日ロックが同行できなかったから、今日Cランク受注しようって話したじゃないですか!」
あーそんなこと言ってたかもしれない。
あの時は、ルイスに話を聞いてモチベーションがぐんぐん上がってたからな。その勢いで。
「まー今度にしないか? 今日は競馬でこんなに稼いだんだから」
「いえ今日行くわよ! 負けた分を労働で取り返すのよ!」
「その意気ですミル! 受注しに行きましょう!」
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「はい、Cランク任務『マウス山に現れた謎の生物の探索』ですね」
今回受注するのは、近くにあるマウス山の麓に現れた正体不明の生物の調査。
痕跡を見つければ7000バル、正体を確認すれば1万5000バルだ。
「こちらの任務、ソロで受注している方もいるので、同行されたらいかがでしょうか?」
「えー、報酬分け前取られるじゃない」
「その方はAランク冒険者ですので、心強いかと」
ギルドのお姉さんがそんなおススメをしてくる。
確かに、正体不明な以上、危険度も高い。俺たちのような底辺じゃ不安ということだろう。
「それじゃ、お願いします」
「ちょっとロック、分け前減るわよ!」
「もしかしたら確認だけじゃなく討伐できるかもしれないだろ、棚ぼたもあるかもしれん」
「それでは、少々お待ちください」
ギルドのお姉さんは、どうやらAランク冒険者を呼びに行ったようだ。
「でも、Aランク冒険者となんて、緊張しますね」
「そうだな、でもショコラはケンジともパーティ一緒だったろ?」
「ま、まああの時はまともに任務もこなしてなかったので」
お互いに頭を抱える。まあそうだと思っていたけど。
「お待たせしました、この方が同行する冒険者です」
ギルドのお姉さんが、冒険者を連れてきた。
「Aランク冒険者、クリスだ。よろしく頼む」
その冒険者は、女騎士だった。高そうな純白の鎧と一つに括られた長い金髪。背中には大剣が携えられている。
それだけなら、俺も喜んで仲間にしただろう。
だが、俺とミルはこの女騎士を知っていた。
「あ、あんた……」
「あの時の……」
「ん、君達じゃないか、縁があるな」
そう、この女騎士と、俺たちは数日前に出会っていた。
「あれ、ミルとロック、この方とお知り合いなんですか?」
「ああ、数日前、この二人が悪漢に襲われるとこに遭遇してな」
あの時、共にパチンコで裏に連れてかれた時に、靴を舐めて許されたあの人だった。
「なるほど、助けられたんですね!さすが女騎士さん!私はショコラといいます!」
「ああ、よろしく頼む」
「ほら、ミルとロックも挨拶してください!」
まさか、こんな得体のしれない人物と臨時とはいえパーティを組むなんて。
いったい、どうなっちまうんだ。




