第十四話:人脈作りとか意識高い言葉には弱い
どうやら、求人をかけるにも実績を積まないとダメみたいだ。といっても、俺たちの状況じゃ積みたくても積めないけどな。
思ったより早く終わってしまったので、酒場に戻ってクエスト募集掲示板の前に行く。
「実績ったってな、高難易度クエストは受注すらできないし」
「よ、今日は一人か?」
急に後ろから肩を組まれる。この馴れ馴れしい奴は、俺の知り合いだ。
「お前こそ相方どうした、コロ」
「あいつは今別パーティの仕事手伝ってるんだ、一時的な出向みたいな」
「なるほどな、二人だといろいろやらないと大変なんだな」
「そういうお前は、なんで掲示板とにらめっこしてんだ?」
ちょうどお互いに暇だったようなので、コロに今の状況を相談してみることにした。
一応冒険者としては同期だが、経験ではコロのほうが先輩だ。
「うーん、お前らFランじゃ確かに厳しいかもな」
「そこをどうにか出来ないか、少なくともミルはさっさとクビにしたい」
「お前、血も涙もないな」
ただでさえ、俺がFランスキル持ちでバッドステータスだというのに、それがもう一人いたんじゃかなわん。
「そうだな、そういえばバヌの出向先は一瞬で高ランクに駆け上がったベンチャーパーティって聞いたぞ」
「どうせクソ強い奴らの集まりなんじゃないのか」
「いや、どうやらパーティリーダーはDランクらしいが、今やAランク級のパーティに成長したらしい」
「まじか! ぜひ話を聞きたい!」
Aランク級のパーティなんて、この街でも片手で数えるほどしかいない。
それも、だいたいは元から才能に溢れた人間のパーティばかりだ。
ぜひ、話を聞いてみたいものだ。
「なんとか、アポ取っといてやるよ」
「本当に助かる! 返せるもんはなんもないけど」
「まあ同期の仲だ、俺もお前が活躍してるとこは見てみたいしな」
「それは嫌味に聞こえるぞ」
こうして、アポを取ってもらうことに成功した。
なんとか現状を打開できそうだ。
「お、ちょうど帰ってきたみたいだぞ」
ギルドに入ってくる4人組の集団。
豪華絢爛な装備に包まれ、風格からも明らかに上位パーティだとわかる。
そして、その中にはバヌもいたのだ。
「あれが、Aランクのベンチャーパーティか」
「おう、ちょっと話付けてくるわ」
コロがそういうと、ささっと話をつけに行ってくれた。
手招きをされたので、どうやら向こう側のパーティリーダーも快諾してくれたようだ。
「やあ、君がロックくんだね」
「よろしくお願いします」
そういって話しかけてきたのは、あまり強そうには思えない一人の青年。それも、年齢も同じくらいだ。
「ここじゃ場所が悪いな、部屋を用意しようか」
そういって手を叩くと、ギルドの従業員がやってくる。
「お疲れ様です、ルイスさん」
「悪いんだけど、個室を一つ借りれるかな」
「承知しました、こちらへ」
ルイスと呼ばれていたこのリーダー、どうやらギルドにも顔が利くようだ。
ギルドのお偉いさんしか使えない個室へと案内される。
「ロックくん、何か飲むかい?」
「じゃあ、コーヒーを」
「僕も同じのをくれ」
なんだこのVIP対応。これが、有名ベンチャーパーティというものなのか。
「まあ緊張しないで」
俺が気負っていると、ルイスがそう笑いながら言ってくれる。
このルイス、一見普通の青年だが、高貴な雰囲気を纏ってるな。
「えっと、ロックです。今日は急にありがとうございます」
「敬語はいらないよ、僕と同じくらいだろう?」
「分かったありがとう、ルイス」
「僕も噂は聞いてるよ、ロック君」
「悪いほうのだろ?」
「もちろん」
なんとも話しやすい性格だな。とても実力者のパーティリーダーとは思えない。
「ぜひ、どうやってパーティを強くするか聞きたい」
「そうだな……大事なのは、人だな」
「人?」
「ああ、どれだけいい人材を確保できるか、より今いる人材をどういう風に活用するかだ」
もっともらしいこと言ってるな。
確かに、現状パーティにいきなり強力な人間が入ってくることは難しい。
「僕もDランクだけど、仲間のスキルを上手く使って実績を積んだから、Aランクに上り詰められたんだ」
「パーティランクって、ユニークスキルランクじゃないのか?」
「それ以外にも、実績によって認められることもあるんだ」
そうだったのか、それなら少し希望が持てるな。
「ただ、本当にだめだと思った人材は早めに切ったほうがいい」
「ほう?」
「僕がバヌくんを借りたのも、一人クビにしたからなんだ」
こんな人格者っぽい男がクビにするとは、いったいどんな奴なんだ。
「Aランクスキル保持者が欲しくて採用したんだけど、とても使い物にならなくてね」
「Aランクスキルでそんなことがあるのか?」
「もちろん、それに性格もあれでね……何かあれば騎士道だなんだって」
「なるほど、心にとめとくよ」
どうしようもない人材はクビにする。見極めが大事ってことだな。
その後も一時間くらい話をしてもらった。かなりレベルの高い話だったが、参考になるところは多くあった。
「ありがとう、とても勉強になった」
「こちらこそ、いずれ共に戦えるといいな」
そういって、ルイスとは別れた。
なにより、モチベーションがあがった。村を出た時のあの気持ちを思い出した。
「よし、まずはミルをクビにするか」
「ちょーーーと! なんか物騒な言葉聞こえたんですけど!」
「なんだ、帰ってきてたのか」
「今日の報酬は私達のなんだからね!」
スライムの汁まみれになっているミルを見ると、愛玩動物のような感じまでするな。
だが、いつかはクビにしよう。
そう決めた一日だったのだ。




