第九話:労働基準法? なにそれおいしいの?
「……あの、ミルは最終兵器なのでは?」
「うん……ほっとこうか」
自業自得だ。戦闘に参加しないで飲んだくれてるやつには、お灸が必要だ。
ほっとくと、スライムまみれになって全身がドロドロに包まれていく。そろそろ助けてやるか。
ミルを囲んでるスライムを一匹ずつ短剣で倒していく。
気づいたことに、もうスライムに恐怖心がないことだ。
お化け屋敷とかで自分より怖がっている人がいると、なんか怖くなくなっちゃうあれと同じ現象。
スライム三匹を倒すと、べたべたになったミルが寄ってくる。
「うわああん、ロックぅ! ちゃんと私を助けなさいよぉ!」
「うわ、べたべたするから近寄んな!」
「最終兵器……?」
そんなこんなしていると、さっきのミルの声を聴いたのか、ほかの冒険者がやってくる。
「おいおい、だれの声かと思えばミルじゃねえか!」
「それにロックも! ついにクエストデビューか!」
ちょうどやってきたのは、コロとバヌ。醜態を見られた。
「俺のパーティにもついに新メンバーが入ったんだよ」
「まじか!? そんな物好きいるのか!?」
「……あの、ロックは有名人なのですか?」
俺とコロが話していると、ショコラが神妙な面持ちでやってくる。
すると、コロは驚いたような表情でショコラを見る。
「知らないのか!? こいつら、町で有名なFラン二人組だぞ!?」
「ちょ、コロ黙っとけって――――」
「Fラン……?」
あ、やばい、ショコラが何かに気づいたような顔をしている。
これはまずいかもしれない。
「どういうことですか、ロック」
「……まーそういうことだ、俺もミルもFランクスキル持ちってこと」
「だ……騙しましたね!? 確かに使えなさそうな顔してますけど!」
「あ、お前いまさらっと酷いこと言ったな!? それに、お前も言えたことじゃないだろ!」
「んぐ……確かにそうですが」
ばれてしまってはしょうがない。だが、こいつもそう簡単に転パーティできるほどの実力じゃないのはさっき分かった。
魔法使いと偽るレベルなのだから。
そう言い争っていると、ミルにべとべとを飛ばされていたバヌもこっちに逃げてくる。
「バヌ聞いたか、こいつら面白いぞ!」
「なんだって、新メンバーがいるって聞いたが――――あ、こいつは!?」
「知ってるのかバヌ、こいつのこと」
「知ってるさ! 勇者を騙して勇者パーティに入ったは良いものの、まじで使えないって有名なショコラだろ!」
どうやら、ショコラも俺と同じく有名人だったようだ。もちろん、俺と同じで悪いほうで。
「酷い言い方ですね! 人を見た目で判断するほうが悪いのです!」
「いや、積極的に騙しにいってんだろそれは」
「ロック、うるさいですよ」
どうやら、ショコラは俺のパーティに入るべくして入ったようだ。
類は友を呼ぶというか、なんというか。
勇者に追放されるやつは、実は強かったなんて話はあるが、実際はこうやってちゃんと使えないのだ。
「ま、お前らもがんばれよ」
「ああ、じゃあな」
コロとバヌは話してて疲れたのか、町へ戻ってしまった。
さて、あと6体のスライムもさっさと狩って帰るか。
「はあ、とりあえずこのクエストはクリアしちゃおうぜ」
「そうですね……」
俺とショコラも、互いに何か納得したのかこれ以上話すことはなかった。
「ミル、ちょっとこっちきてくれ」
「なによー、あたし今体べとべとなんですけど」
「お前の『結束』で長めのロープを作ってくれ」
「なになに、ついにあたしのスキルが最強になる時が来たの!?」
ミルに、持ってきた麻でロープを作らせる。さすがユニークスキルだけあって簡単に作っていく。
「これが、ミルのユニークスキル……?」
ショコラは絶句しているようだ。その気持ち、俺も一年前に味わったぞ。
ちゃちゃっとロープを作ったミルは、俺にそのロープを渡してくる。
「はい、これでどうするの?」
「よし、次もお前の出番だ、これを自分の体に結んでみてくれ」
「ええ分かったわ!!」
ミルは、自分のスキルがふんだんに使えることがうれしいのか、嬉々として自分の体にロープを巻いていく。
そして、しっかりと身動きできないように自分を結び終える。
「さすがユニークスキルだな、結び目もちゃんとしてる」
「あれ、あたしなんで自分を結んだの?」
「ロック、このあとはどうするのですか?」
「ああ、これをこうやって……」
俺は、身動きの取れないミルをスライムがいそうな草むらに向かって、転がしていく。
そして、俺とショコラは近くの木の上で待機。
「ちょ、ちょっとロックさん? 何する気なの?」
「あとは待つだけの簡単なお仕事だ」
「サイテーですね、ロック」
「うるせえ、ブラックじゃないとやっていけないんだよこっちは!!」
「ねえ足元なんかヌルヌルしてきたんだけど! いや、助けて!!」
あとは、ショコラと俺が片付けて終了。
色々あったが、これで初めての仕事は完了だ!
俺のブラックパーティ人生もこれからだ!!
あれ、こんなん目指してたんだっけ俺?




