プロローグ
「やーい、ロックの母ちゃん、ぼけなすやろー」
「やーいやーい」
「お前ら……いい加減にしないと怒るぞ!」
「なんだよ、やれるもんならやってみろー!」
「ぼこぼこにしちゃえ!」
「ぐはっ!」
同い年の子供二人に囲まれ、リンチにする。
それを見て、更に参加してくる村の子供たちがリンチにする。
そして、大人たちはそれをくすくす笑ってみている。
泣きながら、隙を見つけては走って逃げだす。
こんな毎日を、いつものように続けていた。
ボロボロになった体と服で、村から少し離れた位置にある母さんの待つ家に帰った。
正直、こんな姿を母さんには見せたくない。
「ただいま……」
「あら、ロック早かったの――――どうしたのその傷!? またやられたの!」
「……なんでもない、ただ転んだだけだよ」
そう言って、お風呂場に向かう。
体を洗い流すと、受けた傷に染みて痛い。
こんな日常を変えたいけれど、俺にはその力がない。それに、母さんに余計な心配をかけたくないから、変に騒動を起こしたいわけでもない。
頭から冷や水をぶっかけて、さっきのことで熱くなっている頭を冷やしてから風呂を上がった。
すると、玄関で母さんが誰かと話している。
「帰ってくるなら、早く言ってちょうだいな」
「たまたま近くを通ったからな、明日には出るよ」
この声は……!
俺は急いでパンツをはいて、玄関に向かった。
すると、そこには予想していた通りの人物が立っていた。
「父さん! おかえり!」
「よぉ、大きくなったなロック」
「もう俺だって10歳だからね!」
鉄の鎧と、背中に背負った大きな剣。 頬についた傷跡は、俺と違う名誉のある傷だ。
冒険者をしている父さん。 極稀にしか帰ってこないが、いない間は世界中を飛び回り魔物を倒して世界を救っているんだ。
「早く、今回の冒険の話を聞かせてよ!」
「そうだな、それじゃあマンドラゴラの森に行った時だが――――」
俺は、父さんの冒険話を聞くのが大好きだった。
それは、俺の知らない広い世界で、全く知らないものがたくさんあって、とても輝いていた。
だからこそ憧れて、父さんのような冒険者になりたいと思う。
その日は、いじめられたことは一切忘れて、父さんの話に聞きふけった。
倒産は寝る直前まで話してくれて、俺は直ぐに眠ることが出来た。
「……それで、どうして帰ってきたの?」
「あぁ……ロックの前じゃ話せない話でな……」
寝ぼけ眼のままうっすら目を開けると、隣の部屋で父さんと母さんがひそひそと話しているのが聞こえた。だが、ハッキリと聞こえない。
「……が……で、冒険者をやめないと……かもしれない」
「それは……でも、引っ越すには……が足りないし」
「そうだな……そのあたりも……して……しないとな」
うっすらと聞こえた、『冒険者をやめる』という単語。
そんなのはうそだ。子供の俺にだってわかる。だから、これは夢か聞き間違いなんだろう。
あまり深く考えることもなく、俺は父さんの話を夢見ながらぐっすりと眠りに落ちた。