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STRAIN HOLE

STRAIN HOLE Side Story -姉妹のさがしもの -

作者: 橘 弥鷺

こんにちは、橘 弥鷺です。


連載中のSTRAIN HOLEのサイドストーリーの短編を書いてみました。咲と花の姉妹の物語。彼女たちがなくしていた大切なものを見つける為の物語です。

舞台はSTRAIN HOLEの時系列半年前の花の騎士団入団にまつわるところからはじまります。

STRAIN HOLE本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや内容は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。


「お姉ちゃん街見えたよ! また来たねこの街! 」


挿絵(By みてみん)


「あれから半年か~ 花はやっぱりすごいよ。見習い期間半年もかからずに騎士だもんな~ わたしなんて半年以上かかったのに…… 」


挿絵(By みてみん)


「運が良かっただけだよね…… この街を守るのにクーさんやマニーさんと一緒に戦って、何より葵さんに助けてもらえなかったら、わたし達生きてなかったよね」


 咲と花は再び訪れたラストスタンド王国の街道分岐の街を見て花が騎士団に入団した時の事を思い出していた。


 ――――――――――――――――――――――――――


  季節は、冬の訪れを感じる晩秋の頃、騎士団の部屋の暖をとる魔法具にも火が入れられ、部屋のなかは暖められている。


「さむーい!! もう冬だね~ただいま戻りました! 」

「お疲れ~! お茶飲むか? 」


 少女は任務を終えて部屋に入るなり、魔法具の側に行き手を暖めている。部屋で待機していた仲間のお茶の誘いにコクりとうなずく。彼女の名は卯月咲うつきさき、今年で17歳になる猫耳を持つ少女で、ロスビナス皇国騎士団斥候隊に所属している。


「隊長は? 」

「団長と騎士長と打ち合わせとかで団長のところに行ったぞ」

「そっか~ じゃあ隊長戻って来るまで待つか~ 」

「なんかようか? 」

「稽古つけてもらう約束してたから…… 」

「お前もがんばり屋だな? 」

「そんなことないよ! ただ、強くなりたいんだよ! 隊長みたいに! バディのわたしが弱かったら意味ないしね! 」

「以前までのホワイトキャットって二つ名が、最近じゃ斥候隊のツインキャットは有名なんだけどな~ 」


 咲は、自分の所属する隊の隊長が戻るのをお茶を飲みながら待つ、仕事は終わったので剣や防具を磨いていると隊長が戻ってきた。


挿絵(By みてみん)


「ただいま~ あ~ 咲 ごんめんね~ 待ってたよね?

  」

「いえ、大丈夫です! 武具の手入れもあったので」

「咲に話すことあるから、今日は稽古無理かな? ちょっと一緒にマニーのところに来てくれないかなぁ? 」

「騎士長のところへですか? 」


 隊長は文月梔子ふみつきくちなしといい、咲よりもひとつ上で、雪のような白い髪に猫耳としっぽ持つ少女で、咲が信頼する隊長であり相棒でもある。


「わかりました」

「じゃあ行こうか」


 ふたりは、騎士長である如月(きさらぎ)マノーリアの部屋に向かう、彼女は梔子と同い年で人の耳ではあるが、紫の瞳の色と髪の色が紫がかった赤毛で、この世界では希な色をしている。


「マニー! 咲を連れてきたよー! 」


 梔子は、マノーリアと幼なじみなので、上司といってもかしこまった態度はとらないが、咲は少し緊張しながら部屋に入る。


「卯月咲入室致します! 」


 咲は名乗り敬礼をする。部屋の主人が咲を見て口を開く。


挿絵(By みてみん)


「咲ちゃんお疲れ様! そんなに緊張しなくて良いわよ! もう、咲ちゃんの勤務時間は終わってるんだから、ちょっと咲ちゃんに話したいことがあって、来てもらったの」

「わたしにですか? 」

「ええ、年が明けると志願者が騎士見習いとして入団することはわかるわよね? 」

「はい、わたしも年明けしてすぐに志願して合格して入りましたから…… 」

「騎士団から逆に勧誘するケースはご存知? 」

「えーと…… 優秀な人材であれば、本人が志願しない場合に交渉する権利を有する事ですよね? 確か隊長と如月騎士長も徴兵期間を免除して、その代わりに騎士団に入団されたんですよね? 」


 マノーリアが頷きながら咲の話を聞いていると梔子が口を開く。


「あたし達は志願してなかった訳ではないんだけど、かなり早い段階で兄貴から言われていたからね」


 梔子が話している間に、マノーリアはお茶の準備をして3人分の飲み物を用意し、ふたりにカップを差し出す。お茶ではなく、果実酒にハーブと樒を入れ煮たたせ、アルコールをとばした飲み物が、カップのなかで濃厚な琥珀色の液体が揺れている。咲は、その芳醇な香りに誘われるが、梔子の話の途中にカップを持つのも失礼と思っていると、マノーリアが心中を察したのか「温かいうちに飲んで」と口を挟み、3人でカップを手に取りコクりと口にする。


「それで、咲ちゃんの妹さんと交渉したいと思ってね。まずは咲ちゃんに妹さんの事聞いておこうと思って、来てもらったの! 」

「花と交渉ですか? 」

「花さんは騎士はダメかしら? 」

「いや、こんな名誉なことないですけど…… 本人は治療師になりたいようなこと言っているので…… 」


  咲の妹である卯月花うつきはなは、兎耳を持ち、現在15歳の学生で優秀な成績で騎士団も一目おいている。咲と花は父親から剣と弓を幼い頃から学び、咲は剣と弓を使いこなし前中衛の戦闘に向いており、妹の花は弓の名手としても名を馳せており、学生にして弓技でもっとも高い能力の必中を使いこなし、兎耳の能力を使った周辺索敵能力を騎士団は欲している。マノーリアが咲に返答する。


「当然、無理強いはしないわ。でも、治療師であれば、わたしも力になれるし、騎士をしながら治療師を目指すとか選択しも広がるわ」


 咲は少し曇った顔をする。それに気づいた梔子が咲に尋ねる。


「花ちゃんが騎士になりたくないって言う理由が、咲には思い当たるんでしょ! お父さんの事? 」

「はい…… 」

「お父様ってユーオズさんだったわよね? 」

「あたしは、一般の兵士や一般騎士の言ってることは、気にしなくていいって何度も言ってるでしょ! 」

「兵士達がなんて言ってるの? 」

「昼行灯とか…… ポンコツ狸とか…… 騎士らしくない模範とか…… 知った時は恥ずかしくて…… 」


 咲たちの父親のユーオズは、狸耳としっぽを持つ騎士だったが、騎士らしくない態度や発言が多く、兵士や新米騎士たちの評判か悪かった。咲はそれを徴兵の時に知り、ショックだったが、自分が同じようにならないように努力して騎士になった。騎士になった今でも、剣術の稽古や訓練を手を抜くことはなかった。父のようになりたくなかったからだ。


「でも、ユーオズさんってたしか…… 遊撃隊隊長とか教練隊長とかされていたわよね。それと、白檀お兄様の試練の…… 」

「そうだよ。鳳凰の試練の同行者そして犠牲者…… 」


 この世界には、神からの加護授かることで、人並外れた力を得られる。加護授かるために試練と言われるものがある。この騎士団の団長であり、梔子の実兄である文月白檀ふみつき びゃくだんは、この世界で現在唯一、神のひとりである鳳凰の加護を得ている。3年前、その試練に挑む時の同行者のひとりが、咲たちの父親のユーオズだった。鳳凰を奉る神殿の神官を含め4人で挑んだが、試練の途中でユーオズと神官は命を落とす事となった。咲は梔子とマノーリアに尋ねる。

 

「何故、団長はそんな父を同行者に選んだでしょうか? わたしは理解ができません! 」

「咲ちゃん! 当然、お父様の実力あっての選抜だと思うわ! 」

「そうだよ、兄貴だって試練の厳しい状況に実力者を連れて行くのは当たり前でしょ? もうひとりのハリーだって当時の実力者だよ! それに隊長になるってことは、実力者でなければなれないし、騎士団として認めないよ」

「でも…… 兵士の方や騎士の人達は…… 」


 咲は、梔子やマノーリアの言葉よりも、やはり噂の方が気になるようだ。


「何を信じるかは咲ちゃん次第だよ! 少なくともわたしたちは、あなたのお父様をそんな噂のような人だと思っていないわ! 花ちゃんにも一度会ってお話ししたい旨を伝えてもらえるかしら? 」

「わかりました…… 」


 咲は期待には答えられるかわかりませんよと表情にだす。


「じゃあ、咲、今日はこれで帰って良いよ! 稽古の穴埋めは改めてするから! 」

「わかりました。失礼します」


 咲は疲れたようにマノーリアの部屋を出る。


「噂に流され過ぎね…… 」

「それだけ、父親を好きだったんじゃないかな? 」

「何とかしてあげられると良いんどけど…… 」

「まぁ、本人たち次第だけど…… ビャク兄も気にはかけてるから、一言言っておくのもありかもね」


 咲は自宅に戻り夕食を済ませる。今は母親と姉妹ふたりの3人で暮らしている。


「ママ、花、話があるんだけど…… 」

「どうしたの? 改まって? 」

「お姉ちゃんらしくないね? 」

「今日、騎士長と隊長から花の事で呼ばれて…… 」

「わたしの事……? 」

「徴兵期間免除して騎士見習いにならないかって…… 」

「花! すごいじゃない! 」

「えー! あたし騎士にはならないって! 」

「もちろん無理強いはしないって言ってたけど、凄く名誉な事だよ! 」

「あたしは治療師になりたいの! 」

「如月騎士長も治療師でもあるの! 花が治療師の道を選ぶなら、騎士をしながら力になるって! 」

「悪い話しじゃないじゃない! 話だけでも聞いてみたら? どちらにしても1年間は軍に入るんだから。後は咲お願いね」


  母親は近所の会合があると言い家を出ていった。


「ママの言うとおりだよ! 悪い話しじゃないよ! 」

「あたしは騎士になりたくないの! 」

「パパの事を気にしているの? 」

「そうだよ恥ずかしい! お姉ちゃんだって、いつも『パパみたいになりたくない! 』って言ってたじゃん! 」

「そうだけど…… わたしもパパの事は…… でも…… ねぇ花? 」

「なに? 」

「パパの事嫌い? 」

「嫌いになれるわけない! でも、パパ死んじゃって本当の事わからないし、噂はいろんな人が知ってるし! 」

「じゃ、直接団長に聞いてみようよ! それでも花の気持ちが変わらないなら、騎士長も隊長も納得すると思うの! 」

「団長に会えるの? 」

「うーんたぶんね…… 」

「頼りないな~ 」


  咲は翌日、マノーリアと梔子に団長同席を条件に、花が交渉を受けると伝えたが、その返答は咲も同席する事が条件だった。そして、花の騎士団飛び級入団交渉の日となり、咲と花は騎士長のマノーリアの部屋に出向いた。中には、団長の白檀と隊長の梔子が既に座って待っていた。


「団長、お忙しいのに申し訳ありません」

「咲、かまわない気にするな! 騎士になるのに騎士に対しての不信があるなら、解消するのも俺たちの仕事だ! それがお前らの父親ならなおさらだ。で、お前らは噂が本当だと思っているのか? 」

「正直半分はあり得るのかな? って父は家では、だらしない人だったので…… 良く母に怒られてました」

「ハハハ…… 確かに、ユーオズのおやっさんらしいわな! 俺は事実しか言わない、それで花が騎士にならないなら、それで良いと思う。お前達の意志で決めるのが、お前らのオヤジさんの思いでもあるからな! 」

「それじゃ、やっぱり噂通りなんですか? 」

「何言ってんだ花! 咲もだ! 咲はもう1年も騎士やってんだろ! お前らのオヤジさんの得意な能力と魔法資質はなんだ? 」


 団長の白檀は呆れるようにタメ息をつき腕を組む。


「狸耳の幻惑と闇魔法です…… 」


 咲がそう口にすると、団長は組んでいた腕をほどき頭をかく。


「お前らも化かされているんだよ! オヤジさんは確かに、安穏としていてすぐに軽口を叩くタイプだし、常に自分の能力を隠す人だったよ! でも、その噂の出所と時期を知っているか? 」

「いえ…… 」

「オヤジさん本人だよ、しかも教練隊長になってからわざとな」

「どういう事ですか? 」


 咲と花が理解できずに尋ねると団長が説明する。


「騎士は、どの兵士よりも先陣をきり戦地に向かう。死地へとな! その覚悟を新米の奴らが、本当に持っているのか、自分よりも覚悟のない老兵を見て、どう思うのか見定めたかったんだろうな? ウチの騎士団は、志願した者は基準を満たしていれば受け入れるからな。ただ、騎士への憧れや正義感だけじゃ、現実を乗り越えられないだろ? 有事の時に家族でなく、国かこの星の為に命を捧げる仕事だ。それは変わらん、お前らはオヤジさんの実力知っているのか? 」

「幼い頃になんとなく聞いたことはありますが、物心つく頃には、父はあまり仕事の話ししてくれなかったので…… 」

「騎士団の5本の指に入る実力者だったぞ! 世代交代の一環で、俺が試練受けることになって、オヤジさんに同行を頼みこんだんだ。俺はオヤジさんに勝てたことはない」

「実力があったのに、なぜ、父は死んだんですか? 」


 白檀は一呼吸した後に迷うように口を開く。


「ここからは他言無用だ。試練の時にオヤジさんは無事に生還したんだ。犠牲者は神官だけだった。この事は皇女と生還した俺とハリーしか知らん」


 すると部屋のドアがノックされる。部屋の主の騎士長のマノーリアが応答すると皇女が現れた。


「わたしも同席させていただきます。咲さん花さんよろしいですか? 」


 咲と花はビックリして目が点になる。この国の象徴である皇女が護衛も連れずに現れたのだ。


「えっ?! はい、でもなぜ皇女様が…… 」


 咲が新米騎士と妹の騎士見習い候補の交渉為に、国の象徴である皇女が、わざわざ来てくれたのか疑問に思う、その理由を皇女自ら口を開く。


「白檀団長から事情をお聞きしました。お二人のお父様の最後を見届けたのは、わたしと団長なのです。直接お話した方が良いかと…… 」


 皇女は一番上座に案内されその席に座る。団長が咲と花に尋ねる。


「騎士団の規定上、死因を開示せず全て殉職として扱われる。個人的に最後を見届けた騎士が、家族に話すことまではとがめてはいない。お前らが真実を聞きたければ皇女が話してくれるそうだ」


 咲と花は互いに顔を見合せ意志を確認する。お互い答えが同じと感じコクりとうなずく。ふたりは白檀と皇女に深々とお辞儀をして咲と花が皇女に申し出る。


「是非、父の最後を教えていただけますか? 」

「お願いします! 父が騎士としてどんな最後だったか知りたいです」


 皇女は一度深呼吸してふたりを見据えて話し始める。


「お二人のお父様はとても勇敢でご立派な騎士でした。3年前に団長の試練と同時期の惨劇は覚えてますよね」

「はい、まだ学生でしたので、聞き伝えられただけですが…… 」


 この世界では、3年前に咲たちのいる国から、大陸を東西に分断する山脈の西側の南に位置する国で、魔族の襲撃があり、国が崩壊してしまう出来事があった。各国から魔族の討伐の為に出陣した。ふたりの父も団長の鳳凰の試練を終えて、そのままその国に加勢する為に向かったという。


「しかし、魔族の猛威に翻弄され、ベテランの戦士が戦場で散り、被害だけが拡大している状況でした。ここにいる、騎士長や隊長も当時、騎士見習いでありながら、実力者という事で前線に向かいました。その状況に各国の首脳陣は、隣国への被害が及ばないように、最終防衛の境界に結界を作ることになりました」

「それは、知っています。多くの国から魔術師や神官の方が集められて大結界を作成した…… 今もその結界は存続していますよね? 」

「はい、その結界は魔族の侵入を防ぐだけでなく、完全結界の絶対領域で人も通さない結界です。取り残されれば脱出は不可能です。結界作成に要するのは3日を費やす為、魔族を陽動する隊と、加護を得た団長が率いる本隊と遊撃隊を編成しました。団長のおかげで、本隊の攻撃力は、数倍にハネ上がったので、計画通りであれば被害は、最小限に抑えられると判断しました。計画は結界完成寸前まで完璧でした…… 」


 皇女が一度話を区切り、お茶の入ったカップを手に取る。騎士長のマノーリアが口を開く。


「もしかして、あの時…… 結界完成間近の時の陽動隊作戦失敗の時ですか? 」


 皇女がカップを置き話を続ける。


「その通りです。あの時、わたしと団長は本隊と別れ、状況確認の為、遊撃隊の元へ向かいました。陽動隊の作戦失敗によって、陽動隊が逆に魔族に挟撃にあい、遊撃隊の一部が救出に向かったのですが、乱戦となっており、わたしは一度体制を整えるべく、後退の集合地点の動線上に小さな結界をはり、負傷兵の方や戦意を失った方から後退の指示を出しました。その時に前方で一際大きな悪魔が現れたのです。その姿に疲弊しきった兵や騎士達は敗走するしかなく、結界内に逃げてきました。団長が前に出て周辺の魔族を一掃し終えた頃に、完全結界の完成を知らせる。発光魔法の知らせが空に立ち上り、全隊へ退避命令が下されました」


 団長が口を開く。


「けど、俺もそのバカでかい悪魔を倒すことはできなかった…… 」


 団長の発言に隊長の梔子が尋ねる。


「『倒せなかった』ってどういう事? 一掃したんじゃないの? 」


 団長が深いタメ息つき話す。


「元々、そんなのがいなかった…… 消えちまったんだ…… 」


 皇女が更に続ける。


「ユーオズさんの幻惑だったんです。ユーオズさんは防衛戦に再編した時点で、既に回りの部下に幻惑を見せて、自身の存在を別の人を見せていました。敗走した騎士や兵達の口々から、ユーオズさんは試練で死んだから、この戦場にいないと聞きました。その作戦失敗した陽動隊の中に、ユーオズさんが教練隊で教えていた部下の方たちがいたようです。指揮に従わず血気盛んに深追いし、結果的に作戦失敗する事になったようで…… それを知ったユーオズさんは、救出と結界完成の時間を作る為に向かい、陽動隊を逃がす為に幻惑を見せて、逃げるように仕向けました。わたしと団長が生存者の確認しに行った時に、ユーオズさんが瀕死の状態で倒れているのを発見したのです。回復魔法もポーションも効果ができない状態でした。ユーオズさんの最後の言葉は『環ちゃん…奴らは無事か? ならいい…… あいつらは自分達の力で逃げきれたんだ…… 白檀…… 俺は試練で殉職した…… いいな…… それと頼み…… 聞いてくれ…… ウチの娘達が…… 騎士の現実を知っても…… 騎士になるって言ったら頼むな!…… 』とおっしゃってました。」


 団長が鼻をすすりながら言葉を吐き捨てるが、その声は上ずっている。


「あ、あのタヌキオヤジ! カッコつけやがって! 」


 皇女も目元をハンカチでぬぐい咲と花に尋ねる。


「これが、あなた達のお父様の最後でした。ユーオズさんは、新米の兵や騎士達を守る為に、犠牲になられたのです。それを本人たちに気づかれないように幻惑まで見せて…… ユーオズさんはご自身の命と引き換えに何十人もの若い命を救ってくださいました。これが真実です。もっと、早くあなた達に、話してあげるべきだったのかも知れませんね。申し訳ありません。これで誤解が解けたら嬉しいわ」


 咲と花の目にも涙が溢れる。ふたりは涙を拭い皇女と団長に深々とお辞儀をして感謝の思いを伝えた。騎士長のマノーリアが、ふたりに諭すように優しい声音で今日の交渉の会合を終わることを伝える。


「今日はこれで終わりにするわ、後はゆっくり考えて、花ちゃんがどうするか自身で決めてほしいわ! でも、お父様の誤解が解けて良かったわね」


 ふたりは部屋を退出し家路に戻る。ふたりはどちらともなく、幼い頃に父親と剣や弓の練習をした広場に来ていた。


「ねぇ、花、ここでパパと稽古してた時の事覚えてる? 」

「もちろん。お姉ちゃんは、あの時パパが言っていたこと覚えている? 」

「『正義は押し付けるのでなく、自身の中にあるもの、見えてるもの、聞こえる事が真実ではない、その後ろに隠れている真実の善悪を見抜くこと、強いことを威張るのではなく、強くあることの責任と自覚を持つこと』的な? 」

「的な?って…… 合ってるけどさ、今日の皇女様と団長のお話聞けてパパが言いたかった事がわかった気がする」

「そうだね。団長じゃないけど、パパカッコつけすぎだよね! 」

「それを言うならタヌキオヤジでしょ! よし! あたし! 騎士なる! 」

「花! ふたりで頑張ろ! タヌキオヤジよりも立派な騎士になろ! 」


 花が騎士になることを決意し、ふたりは空を見上げる。澄みきった冬の空に、ひとつだけ浮かんだ雲が、父親が笑っているようにふたりには見えた。


 ―――――――――――――――――――


  花は騎士見習いとなり、もうすぐで半年を迎えようとしていた頃、ふたりは梔子が率いる斥候隊の一員として騎士をしていた。今は、別の国に訪問する為の使節団の一員として、咲と花は団長の白檀と行動を共にしていた。帝国と呼ばれる国に滞在していたある日の夜に団長から酒場に来るように言われて咲と花は向かった。


「団長~ お呼びですか? こちらの方は? 」


 そこには団長以外にもう一人滞在先の帝国人のような服装をした男性が座っていた。


「こいつは、ハリーだ! 試練の時の同行者で名前は聞き覚えあるだろ? それに元はお前らと同じ斥候隊で前任の隊長だからな! 」

「あ、はじめまして、卯月咲です」

「こんばんわ~ 卯月花です」

「ハリーだよろしくな! 斥候隊所属か~ 頑張れよ」


 団長が箱をテーブルの上に置いて少し笑いながら話し出す。


「花が騎士見習いになってもうすぐ半年だよな? で、先日の街道分岐の街で魔族を撃退したろ? 」


 咲と花は、この国に入国する数日前に、梔子やマノーリアたちと街が魔族に襲われそうになったのを撃退し守っていた。


「一応わたしたちも戦いましたけど…… あれは…… 」

「良いんだよ! 逃げずに戦い守り抜いた! 梔子とマノーリアとも相談して、花の見習いを終了する事にした。花! 明日から騎士だ! 」

「えー! 」

「後はこれだ!」


 団長はテーブルに置いていた箱を開けて中を見せる。中には2通の手紙とダガーが2本が入っていて、そのダガーの鞘は2本あわせることで模様が完成するようにあしらわれている。


「タヌキオヤジからだ」

「父からですか…… 」


 ハリーがふたりを見て口を開く。


「試練の時に、お互いに何かあった場合にと遺言代わりに預かったんだ。オヤジさんからは、娘ふたりが騎士になったら渡してくれってな! ふたりがならなかったら、売ってしまってくれともな! 」


 咲と花がそのダガーを手に取り裏側を見ると文字が刻まれており、あの稽古場でふたりが良く言われていた言葉が掘られていた。


 "正義は押し付けるのでなく、自身の中にあるもの、見えてるもの、聞こえる事が真実ではない、その後ろに隠れている真実の善悪を見抜くこと、強いことを威張るのではなく、強くあることの責任と自覚を持つこと"


 団長が覗き込み笑いながら、ハリーと昔話に花を咲かせる。


「タヌキオヤジが良く俺たちにも言ってたな! 」

「ああ、懐かしいなこの言葉…… 2本あわせないとひとつにならないって事はふたりともわかるよなオヤジさんが言いたいこと! 」


 咲と花は団長とハリーからなんとなく父親の面影を見るのだった。


「はい! 」

「ありがとうございます」


 花と咲は、そのダガーを抱き静かに泣いた。父からの最後のプレゼントは、父が大切にしていた騎士としての心得を思い出させてくれたのだった。ふたりは探していた父の騎士として生きざまを見つけ、自分達が騎士として生きていく為の父の言葉を思い出す事ができたのだった。

お読みいただければ幸いです。


差し支えなければ、評価やコメントいただければ、励みとなりますのでよろしくお願いいたします。


連載中のSTRAIN HOLEもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 亡くなったお父様の本当の姿を知れて良かったですね。 大好きな人の思い出が残念なままだと辛いですもの。 姉妹2人で切磋琢磨して、お父様以上の騎士になれるよう祈っています。
[一言] 咲と花のお父さまは、まさに文字通りタヌキオヤジだったのですね。新米の兵たちや騎士たちを守り、自分の名誉よりも多くのものを優先するなんて。 せめて家族には本当のことを伝えていてほしかったなあ…
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