コーヒー関係なし。番外
「とりっく、おあ、とりーと」
虫も鳴かない夜だ。月も欠けて夜道がほんのり照らされている中、“その子”は来た。
ドアを開けると、足元に、小さな子供が立っていた。
「なんや、ガキか」
俺はスマホを光らす。31日、午後8時。ハロウィン。
「あー、すまんな...嬢ちゃん? お友達はおらんのか?」
見る限り女の子に見えるその子は、たった一人で訪れていた。8時で暗く、外灯もさほどないというのに。
その子は首を横に振った。なにせ、魔女なのか、何なのか、フードを深くかぶっていて顔が見えたものではない。
「親御さんは?」
まさかこんな小さい子を一人で放り出す親など。
その子は再び首を振った。
今度は縦揺れだ。
「そか。そか。ほんなら、ちと待っとってな。とっておきのをくれちょる」
親が近くにいるのか、それならばと俺はこの時安心していた。
菓子を袋にいれ、その子のもとへ。ふと、尋ねてみた。
「親御さんはどこにおるんや?」
その子は、一瞬戸惑ったようだが、ゆったりと、俺を指差した。
「へっ?」
混乱した。こんな子は見覚えない、いや、見たかもしれないが。
そうこうしていると、俺はその子の被るフードに強い好奇心を覚えた。俺の知っている子、知っているはずの子に。
「嬢ちゃん...ちょっとごめんな」
その子は抵抗しなかった。フードが俺の手によって、その子の顔が露わになる。
「......誰?」
初めてみた顔だった。茶髪が目立つ、可愛らしい子。やはり女の子だった。
「とりっく、おあ、とりーと」
再び繰り返す。
「あげたやん」
「けちいな、もっとあるでしょ」
「なんやねん自分、急に」
少女は一旦目を丸くした後、にやりとした。いたずらっぽく八重歯が覗く。
「これがあたしの【とりーと】。お菓子がしょぼい」
「それ言うんならトリックやろ阿呆、しょせんはガキやな。ほら、菓子やったんやから帰った、帰った」
言い間違えの指摘に赤くなる少女。
「しらんし」
「なんやねんホンマ。おら、もう8時過ぎとるで。帰った方がええんちゃう?」
頰を膨らませて、少女は踵を返した。しっかり袋を持っていくところ、現金だが。
見送り、ふうっと俺は一息。ドアを閉め、鍵を締め、鍵を閉め、室内に戻る。
「一人逃げ出したんかとびびったわ、あのクソガキ」
言って、俺は仕事に戻った。