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––––あの人の匂いだ。

玄関の僅かな隙間から、珈琲と強い男性用香水の混ざった生ぬるい空気が身体をむわりと押し返す。顔を歪めた。

居間には、あの人がいた。母と親しげな会話を交わし、傍目の珈琲に手をかけていた。

おかえり、先に云ったのは、あの人、彼だ。こちらに微笑み、お邪魔してます、と付け加える。

応えるつもりはもとよりない。

軽く会釈をし、私は鍵を置いて自室へ向かった。

夕飯ができる頃には、彼は帰ったようだった。


今日は、あの人ではない。

玄関を進み、居間の戸に手をかける。

帰ったか、父だった。

父は丸眼鏡を弄り、手元の緑茶に口をつける。目線の先には、事件を報道するニュース番組。

いつも通りの風景だった。ただ、

「お母さんは」

父の隣で紅茶を啜る母の姿が見当たらない。

買い物だろう、目線を動かさず父は云った。

そう、鍵を置き、私は自室へ向かった。

その日、母が帰ったのは深夜のようだった。


玄関が開いた。珈琲が家全体に染みてるのか、ひどく強い珈琲の香りがする。

––––あの人だろうか。

居間には、暗闇のテレビを見つめ、硬直する父が佇んでいた。

手元には、一杯の珈琲。



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