俺が転生して、魔法プロデューサーに至るまで
この世界の魔法はイメージが大事。
そんなことはこの世界の魔法使いなら誰でも知っていることだ。
魔法を使うときには、起こしたい事象のイメージが不可欠。
そうじゃないと、魔法自体不発に終わるか、最悪変な形で暴発してしまう。
魔法はイメージがすべて。
だけどその言葉の意味は、そんなことに留まるものではない。
そしてそのことに気づいている人間は、案外少ないようである。
――かくいう俺、ルーク・ディレクトも殆ど偶然の賜物でそれに気づいただけだった。
元々俺は、日本の平凡な一般人その1だった。
ある雨の休日、新刊本をぎっしり紙袋に入れて街を歩いてた俺は、事故に遭ってこの世を去った。
といっても、いわゆる転生トラックに轢かれたわけじゃあない。
駅の階段をあがっているとき、本の重みに耐えかねた紙袋がびりっと破れて、慌てた俺はずるっと足を踏み外したのだ。
そんであれよあれよという間に階段を真っ逆さま。
我ながら呆気ない結末である。
こんなことになるなら、もっと知的な本でも買っておけばよかったよ。
ほら、哲学書やら詩集やらのかたわらで死ぬのってなんか格好いいじゃん?
「神は死んだ」――はちょっと違うか。
だけどなんかそれっぽい名言が書かれたページが見開かれててさ、その隣りで眠るように息を引き取る俺。
なかなかドラマチックなシチュエーションだろう?
まあ現実には、漫画やらラノベやらをはた迷惑にまき散らかせて死んだだけなんだけど。
そんで気づいたときにはこの世界で赤ん坊よ。
そりゃあ最初は前世に未練たらたらで、世を儚んだものだった。
ちゃんと丈夫なバッグを持参すればよかったとか、どうせなら昼飯をもっと奮発すればよかったとか、後悔も様々よ。
だけどそんな感慨も、滅茶苦茶に泣きわめいて、オシメを交換されてるうちに乗り越えた。
まあ、過去を振り返ってウジウジしてるより、さっさと自分でトイレに行けるようになる方がよほど建設的だものな。
ここが魔法の世界って気づいたときにはそりゃあ浮かれたよ。
この世界の人間は、そこそこの割り合いで魔法が使える。
かくいう俺も5歳くらいになる頃にはちょっとした魔法が使えてた。
たぶん、元々の才能はそんなになかったと思うのよね。
最初の頃は俺が魔法を使っても、両親は「へえ、ルークちゃんはお絵かきが上手ねえ」的な生温かい視線しか寄越さなかったもの。
転機……というほど劇的でもないんだけど、俺の人生の変わり目は、近所の子供と遊ぶようになってからだった。
元の世界でも「ごっこ遊び」ってあったけど、その辺の事情はこっちでも変わらない。
伝説の勇者だとか、凄い冒険者だとか、そんなのを皆で演じて、わいわいはしゃいでた。
まあ、その「ごっこ」の中に本当の魔法が混じっちゃう辺りが異世界流な訳だけど、童心に帰って俺も本気で遊んだわけだ。
――そして結果的には、そのごっこ遊びが俺の魔力を爆発的に上げた。
俺は仲間うちのごっこ遊びで、監督兼脚本家兼俳優としてすぐに大活躍した。
まあそりゃあそうだよね。
こっちの子供たちが寝物語くらいしか知らない中で、俺は元の世界でどっぷりヘビーなサブカル環境に浸かってたわけだから。
分かる? これが年季の違いってやつよ。
俺は本物の魔法も交えながら、やたらハイレベルなごっこ遊びを自己演出してた。
『ふっ、那由多の彼方まで吹きすさべ、我が暴風よ!』
『ルーク、スゲー! 何言ってんだか分かんねえけどマジ魔王みたい!』
――ほら、ね?
童心に帰ってるだけだから!
結構あとで自分で思い返して赤面してたから!
で、そうこうしているうちに気づいちゃったわけだ。
一人でぼそぼそ練習してるときよりも、仲間内で遊んでるときの方が魔法の調子がずっといいってね。
少ない力で普段より大きな効果が出せたし、ちょっと難しい魔法を使えたりもした。
どうしてかってしばらく頭を悩ませたけど、だんだんと肌身で理解した。
勇者とか魔王とかを演じきってる俺に向ける、皆の「なんかよく分からんけどスゲー!」って視線。
それが俺の魔法の力を増幅してるんだって。
この世界の魔法はイメージがすべて。
その言葉の意味を俺は理解した。
それに気づいてから俺は、監督兼脚本家兼俳優兼衣装係になった。
何事も形から入るのが大好きな俺である。
マントだのそれっぽい魔剣だとかを作って、本気で遊びに取り組んだ。
するとどうだろう。
ごっこ遊びの役柄のイメージ、みんなのイメージに引っ張られるように、俺の地力そのものが引き上げられた。
「スゲースゲー!」言われてるうちに、ホントに俺は凄くなっちゃったわけ。
元の世界でも「立場は人を作る」とかって言葉があったけど、それの超スゴイ版みたいな?
ごっこ遊びのたびに背伸びした魔法を使ってたら本当に背が伸びちゃったみたいな?
それで勢いそのまま魔法学院に特待入学&めでたく卒業して二十歳を過ぎた頃。
実家の魔導具屋でくだを巻いてた俺のところに一人の客が訪れた。
キョドキョドした様子で店に入ってきた少女は、目も合わせぬままにいきなり頭を下げた。
「あ、あの! 私に魔法を教えてくだしゃあ!」
そのおかしな少女は、俺にフレアと名乗った。
そしてこの出会いこそ、俺が魔法プロデュース業を始めたきっかけである。