少女の冒険者デビューと俺のプロデューサーデビュー
その日、一人の少女が冒険者ギルドを訪れた。
その髪と瞳は燃え立つような緋色をしている。
黒と赤を基調としたドレスは露出が多く、情熱的な雰囲気を醸し出していた。
口許にはどこか挑戦的な笑みを浮かべ、片手に持つメイスには、炎竜をあしらった意匠がワンポイント。
完璧――! 完璧すぎるほどの炎使いっぷりである!
少女はどこから誰が見ても火属性としか見えない出で立ち。
コーディネートした俺としても鼻高々である。
草葉の陰、もとい、扉の影から見守っている俺に、少女がちらりと視線を走らせた。
あっ、こら! そんな弱気な目をしてちゃ駄目じゃないか!
いくら周囲の視線が、「なんだ、こいつのハジケっぷりは……」という奇異なものを見る目だとしても!
『ほら、頑張って! 注目が集まってるうちに早く受付に行け!』
必死に目で訴えると、少女はどうにか調子を取り戻した。
余裕たっぷりという足取りで、冒険者用の受付に歩み寄る。
うんうん、その調子。やればできるじゃないの。
「えっ、え~と、本日は冒険者登録をご希望でしょうか?」
受付のお姉さんは、若干緊張気味な顔をしている。
一目で少女のことを新顔だと気づいたのは、まあお察しの通りである。
こんな分かりやすく炎炎している少女を、敏腕受付嬢が忘れるはずもない。
というか、たぶん街ですれ違っただけの他人でさえも、一週間くらいは覚えていそうである。
「よろしく頼む」
少女が言葉数少なに、受付嬢の質問に答える。
年は16。
名前はフレア。
「属性は……炎」
――言わなくても分かるでしょう?
意味深な顔で、そう笑う。
ちなみに、属性の正式な名称は“炎”ではなく“火属性”というのが正確なのだが、こう告げるように俺が指示しました。
なぜって、単純に火なんて言うよりも、炎って言った方が強そうだろう?
職人は細部まで凝るものである。
「それでは、属性値の計測に移ります」
いくつかの質問の後、受付嬢が背後の戸棚から魔導具を取り出した。
その場にいた冒険者もなんとなくフレアに注目している。
「あの出で立ち、あの自信、相当な力の持ち主に違いない……!」
訳知り顔で周囲の者の期待を煽ったのは俺である。
サクラ役までこなすとか、我ながらマジで涙ぐましい努力。
俺の言葉で少なくとも3人は新たにフレアに注目したね。
「我が炎の力、そんなオモチャで測りきれるかな?」
フレアが少しハスキーな声でそう告げる。
よし、練習したセリフも言い切った。
声もいつものふんわりな感じじゃなく、ちょっと大人っぽい声音になっている。
昨日大声で一晩中歌わせまくった甲斐があった、
後は魔導具に触れるだけ。
がんばれフレア! 負けるなフレア!
フレアの白い細指が、魔導具に触れる。
その瞬間、魔導具の目盛りが激しく振れた!
「適性は火属性……属性値はレベル8! ま、まあかなり高い方ですね。期待しています」
ちなみに属性値の最高はレベル10である。
8というのもかなり優秀な値なのだが、フレアは「いかにも伝説的な炎使いですよ」的な出で立ちだ。
期待感ほどではなかったのか、受付嬢は少し拍子抜けした顔をしている。
周囲の冒険者たちも、「まあ、それなりに優秀ってとこか」みたいな顔で視線を逸らした。
しかし! 当事者の我々は違う!
俺とフレアは遠巻きに顔を見合わせて、互いに心の中でガッツポーズをした。
よっしゃ! 属性レベル8! 目標の7より1も上だ! 何度も練習した甲斐があったもんだぜ、いやっほう!
小躍りしそうな気持ちを抑えて、俺は一足先に冒険者ギルドの外に出た。
大仕事をやり遂げたような達成感に、心が満たされる。
ただの空気がなんだかやたらとウマかった。
なぜ俺がそんなに嬉しいかって?
そりゃあもう、そうなるってもんですよ。
なんといったって、フレアの本当の属性値は、たったの4だったんだから――。
ちょっとコメディ入った感じの美少女育成ゲームみたいな感じです。
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