アリとキリギリス
―――村の中にけたたましくサイレンが響き渡る。
この村に住む者たちにとって全くもって聞き覚えのない、しかし得体のしれない緊張感を掻き立てる耳障りな音だ。村の端に建てられた見張り台の、そこに取り付けられたホーンスピーカーが唸りを上げて村民の危機を知らせ続ける。
《避難勧告 避難勧告》
《エーフェ村北西部にて『隷鬼』が確認されました》
《住民の皆様は速やかに避難準備をお願いします》
《衛兵の指示に従い所定の集合場所へ移動して下さい》
《繰り返しお伝えします――――》
ゆっくりと丁寧な、無機質なアナウンスが村民の耳に届く。統合軍が万が一のために置いていった自動警報装置が設定された文章を読み上げ、避難誘導を行う衛兵の補助を行う。だが実際は、火事の際の警鐘くらいしか知らない村人にとって、どこからともなく大音量で流される中性的で合成された機械音声には不安感しかもたらさず、余計なパニックを引き起こしているのが現状である。
「なんだ!?なんなんだこの声は!?」
「避難!?隷鬼!?」
「どうすりゃいいんだ!?」
ラタンカラン村中の住民が一斉に建物の中から飛び出して右往左往し、駆けつけてきた衛兵を見つけては詰め寄ってもみくちゃにしている。
「おい衛兵!避難ってなんだ、どこへ行けばいいんだっ」
「お、おお、落ち着くんだ!全員急いで中央広場へ―――」
「広場!?何いってんだ、逃げるんだろ!」
「待ってくれよ、隷鬼が出たのはエーフェ村なんだろ、俺たち関係ないだろ?」
「違う!奴らは人間のいる場所を片っ端から襲うんだ、時間差でこっちに来るんだよ!早く広場へ集まってくれ!」
あちこちで詰め寄られている衛兵たちは一連の避難誘導に全く慣れている様子がなく、悲鳴でも上げるかのように必死の形相で人々を広場へと押し込んでいく。冷静な人間はおらずそろそろ怪我人が出てもおかしくなさそうだった。
「安住さん!安住さんどこですか!」
もともと人通りが多くて迷子になる子供も多いと言われるこの村で、大の大人たちが無秩序に走り回っている。製材所で働く大男やら恰幅のいい商人やら、商業区の活気は一度パニックが起これば小柄なリァナにとってあまりに危険すぎる。この群れの中に飛び込むのは自殺行為である。
「うう、安住さん……どこ行っちゃったんですか………」
まるで迷子になった子供が必死で親を探しているように見えるが逆である。時間と場所を指定して待ち合わせしたのだが待てど暮らせど安住はこない。初めから嫌な予感はしていたが的中してしまった。自分よりずっと大人で、軍人さんで、意外と責任感の強い人だが、なかなかどうして目が離せない。弟のスフナも危なっかしい面があるがそれ以上である。
「どうしよう、スフナ呼びに行ったほうがいいのかな………でも、安住さんが……」
不安と緊張で押しつぶされそうだ。だんだん視界がぼやけてきて涙がこぼれそうになる。だがそれをぐっとこらえて袖でゴシゴシと目を拭う。
「しっかりしなきゃ、ママと約束したんだから」
気合を入れ直してしっかりと前を見据える。スフナなら大丈夫だ、あの子はいざと言うとき勘が鋭い、村の異変にも気づいているはずだ。まずは安住と合流するのが先、意を決して混雑する人の流れに身を乗り出そうとすると―――
「やーやーリァナちゃーん、みーっけ」
これと言って悪びれる様子もなく実にのんきそうに問題児が舞い戻ってきた。鎧兜に剣や槍など完全武装の衛兵をぞろぞろと引き連れていてさらに問題が増えているような気がする。
「安住さん…」
「あれーリァナちゃん目が赤いよー?どーしたのー」
「どうした――――じゃないですよ!」
「うへぇー」
本日二度目の叱責を受ける安住はあまり怒鳴る印象のないリァナから不意打ちを受けて思わずのけぞる。
「うぅーもう!一人で行けるって言ったじゃないですか!それなのにいつまで待っても戻ってこないし!おまけに村の中大騒ぎになって探しに行きたくてもいけないし!なんか衛兵さんたくさん連れてるし!心配したんですからね!」
「ちょちょちょっと待ってーごめんごめんってばー」
「おい、こんなことをしている場合では……」
ぼかすかとお腹を殴られて苦しそうに呻く安住の背後から、険しい顔付きの、指揮官級の衛兵が声をかける。
「あーはいはい、少々お待ちをー衛兵隊長さーん」
「え…隊長さん?」
「そーそー、さっきお友達になってねー」
軽いノリで言った言葉の後に、衛兵隊長の背後に控える部下の中から舌打ちやら悪態が飛ぶ。明らかにお友達という雰囲気ではない、むしろ殺気を感じる。怖い。
「一体何をしたんですか安住さん……」
「何もしてないよー、何もしてない後に色々あったんだよー」
「あったんですね…」
「おおっと、それどころじゃない。スフナくんを連れてきてくれるかなーなるべく急いでー」
結構大事な話をしていると思うのだが事態が事態なので一旦思考を切り替える。
「…わかりました。安住さんはどうするんですか」
「お仕事だよー、こんな時のためのヘイタイサンだぞー」
「お仕事?」
「避難誘導だよー、戦うばかりが兵士の努めあらずってねー」
「…」
正直戦っている姿すら想像できないこの女性が衛兵に混じって人命保護の仕事など本当にできるのか、どうにも疑わしいと言うかただただ心配が大きく胸の前でギュッと両手を握りしめる。
「気をつけてくださいね」
「おーよ任せろ―、旧日本国自衛隊魂を見せてやるぞー、なんちゃってだけど」
聞き慣れない言葉とかなり不安を誘う言葉を残し安住は衛兵たちのもとへ足を向ける。どんなに心配してもこれ以上自分にできることはない。仕事モードに入った安住はいつもの眠そうな目付きとは違って頼もしく見える。衛兵隊長に小言を言われながら彼女たちが中央広場の方へと走り出したのを確認し、自分も大事な弟のもとへと急ぐことにした。今はただ信じるしか無い。
「貴様今どういう状況かわかっているのか」
衛兵隊長ことグルーフ士階二位(伍長から軍曹位の階級)は忌々しそうに安住を睨みつける。先程駐屯所で好き放題言われた上に最悪殺されかけた後なので内心腹が立つどころの話ではないのだが、今はこの小娘に協力を仰ぐ必要がある。村の外周に衛兵を配分して逃げ遅れが出ないように指示を出しながら、年寄や病人など身動きがとれないものがいれば手を貸していく。
「あの子恩人なんだよー、心配掛けたまま放っておけないよー」
会話はしながらも住民に手荷物は最小限にするよう指示を出していく安住。村にやってきていた行商人が大荷物で広場に入ろうとしているのを止めるよう衛兵にも指示を出すと、心底嫌そうな顔をされるが渋々作業に移る。
「あれは魔女の娘だ。関わるものではない」
「あーやっぱりかー」
「災いを呼ぶ、連れて行くなど…」
「嫌ならあたしが預かるからさー、…ってか君たち手際悪すぎだよー」
中央の住宅街外周をぐるりと一周し終えて商業区側の混乱はだいぶ沈静化してきた。だがまだ走り回っている衛兵や全く話を聞いていない旅人のような者もいて、焦りが湧いてくる。まして言いつけられた指示を終えてぼーっとしている衛兵もいて隊長直々に叱りつける必要がある始末だ。
「我々とてこんな事態は初めてなのだ。確かに大分昔にヒノマル達から避難訓練というものを教わったがもう何年も前の話だ。誰も覚えてはいないぞ」
「ひのまる…日の丸?」
「ラタンカランを今のような形にしてくれた、一番始めに来た統合軍だ」
「つまり日本軍ねー、また変な覚え方してるねー」
旧王家の時代ならば衛兵が民間人のためにここまで動き回ることはなかっただろう。そもそも危機と呼べる事自体が、盗賊団の急襲であるとか突発的なことに限るので避難もなにもないのだが、いざ事が起こって衛兵がやることは盗賊と戦うことであり人死が出てもお構いなしである。「身動きの取れない弱者など死んで当然、いや、足手まといになるなら自分で死ね」が世の常であり、衛兵が守っているのは土地とそこの生産能力だけだったのだ。
しかし、統合軍も猟兵団も立場は違えど人道主義を掲げる組織である。この支配下にあるのならば旧来の力あるものが正義という理屈は許されず弱者に優先的に手を差し伸べねばならない。それ故の経済協力やインフラ整備があり、そして人命優先の防衛戦略を立てる必要があるのだ。
「そのヒノマルさん達から毎年一回はやれって言われたでしょー避難訓練」
「あ、ああ」
「やってないでしょー?ぜーんぜん」
「う、うむ」
「…まあ、この平和な地方で危機感覚えろってのが無理な話かー」
「だからこうして協力を要請しているのではないか」
このグルーフ、階級こそ兵卒をまとめるそれなりの地位にあるが、別段、豊富な実戦経験と実績があって就いているわけではない。年功序列の昇格と同期よりも少しゴマすりがうまかったことによる現在の地位である。仕事も熱心なわけではないが仕事をするフリは人一倍うまいので上官からの評価はそこそこ、後は王家への忠誠心をアピールすれば(その中身に関わらず)平穏無事に暮らせるのだから不測の事態など想定もしていなければ対処もできるはずがないのだ。
「―――そもそも、隷鬼の侵入はお前たち統合軍と猟兵団が争いを起こしたのが原因なのだ。お前たちさえいなければこんなことには…………」
「その点はよーく理解してるし申し訳ないとは思ってるよー、あたしがとやかく言える立場じゃないけどー」
だからこそ協力に応じているし統合軍の支配から離れた今でもこの土地の人々に対して責任を果たそうとしているのだ…と、安住は言った。
こんな小娘が責任を果たすだと?、鼻で笑ってしまいそうになるが駐屯所で彼女に言われた”兵隊ごっこ”というトゲが耳に残ったままチクチクと痛む。そんなはずはない、と、この不快感を振り払い否定の言葉を並べようとしても、今目の前にいる生意気な小娘にぶつけることが出来ない。出来るのは元々いかめしい顔つきをさらに渋い表情で曇らせることだけだった。
中央広場は喧騒に包まれる。
ラタンカランの総人口2000人強が元々あまり広くないこの場にぎゅうぎゅう詰めとなっている。皆一様に不安をにじませ今か今かと次の指示を待っている。あちこちで子供が泣いていたり、衛兵に詰め寄って今日の店の売上はどうなるんだ、などと聞いても仕方ないことを商人がまくし立てている。
住宅街の細い道を通って若い衛兵が隊長のもとへ駆け寄る。胸の前で腕を水平に突き出すこちらの世界式の敬礼を行って全住民の移動が完了したことを告げる。どうにか平静を保っているものの緊張の隠しきれないグルーフ隊長はぎこちない動きで振り返り、安住に次の指示について確認する。
「それで、この後はシェルターに移動するんだったな。場所は西の採石場跡、もう動いても―――」
「まてまてまてーい、住民放ったらかしで勝手に動くんじゃなーい」
「隷鬼はもう迫ってきているのだぞ!まだやることがあるのか!」
「アナウンス!住民のみんなに簡単な状況説明とシェルターに移動すること、その他諸注意!」
「お、俺か?俺がやるのか」
「おーいしっかりしろー、おじさんは避難誘導の責任者だぞー」
しばらく口を開けてぽかんとしている隊長。集まっている群衆に目をやると自分が注目を浴びていることに気づき顔面蒼白になる。
「む、無理だ」
「無理じゃなーい」
「いや、無理だって。むりむりむり……」
緊張しすぎてついにタメ口になる衛兵隊長に安住はとてもとても残念な気持ちになる。深くため息をつきながらそろそろ動かないとまずい時間になってきたので仕方なく行動に出る。
「村長はー腰痛めてるんだっけー、他に偉い人ー、手ー上げて」
安住の問いかけに住民とは別に集められていた村役人など偉い人は一斉に目をそらす。―――分かっていた。分かっていたのでこれ以上言及しない。
一つ深呼吸して予め用意させておいた木箱の山に登ると、広場に集まった人々の表情が端の方までよく見える。壇上に登ると思われていた人物でない者が登壇したので住民たちはざわつき始めるが、一切気にせずに脇で控えていた衛兵から拡声器を受け取り本格的な避難の開始を宣言する。
「ラタンカランの住民の皆さん静粛にお願いしまーす」
おそらく広場の端まで届くだろう大音量の拡張された声に住民たちは一旦静になる。
「人類統合軍 安住千世です。 衛兵隊長より避難誘導の指揮を委任されました。
これより皆さんの安全確保のために ここから西方にある採石場跡地の退避壕へ 移動を開始したいと思います。
その前に いくつかご協力いただきたい事を 説明させていただきまーす」
若干いつもの口調が残りつつも、ゆっくり丁寧に言葉を区切りながら話していく。不安感を与えないよう慎重に言葉を選ばなければならない。冷静に事を運びたいためにこのまま静かに説明を聞いてくれればよかったのだが―――
「おい、統合軍だってよ」
「あいつら負けたんだろ、なんでここにいるんだ」
「あれまだ子供じゃない?避難誘導の指揮子供がやるの?」
「衛兵は何やってんだよ」
段々とざわつきが大きくなり始める。とてもまずい。
「皆さんお静かに―――」
「侵略者め!もうお前らの言うことなんか聞かないぞ!」
「そうだそうだ!出ていけ!」
疑惑と不安の色で満ちていた広場のざわめきが一気に怒気を孕みどす黒く渦巻き始める。何度も声を張り上げて静まるように訴えるがもはや誰の耳にも届かない。
「俺たちの土地を返せ!」
「くたばれ!」
「猟兵団なんとかしろ!」
「『眷属』追い払え!」
―――…。
―――ズドンッ
怒号のうねりを突き破るように重い破裂音が空を掻く。
「喋ってもいいかなー」
天に向かって突き上げた13mm拳銃が細い白煙を吐き、黄金に輝く薬莢が弧を描いて落ちる。石畳を叩いたチリンという音だけが急に静まり返った広場に響いた。
「ぶ、武器で脅すのかっ、くそう、結局お前らも王家の連中とおんなじだ!外道め!」
最前列にいた中年の男性が声を上げる。壇上の安住に向かって指を差し、先程の興奮から冷めていないのか目をギラつかせている。
まだ何か口にしようとした男に対し安住は銃口を向ける。一瞬男は顔をひきつらせたがそれでも止めずに一歩踏み出そうとするのでついに発砲する。もう一度響く破裂音とともにバスッと大きな音を立てて男の足元がえぐれ、それが人体に対し過大すぎるエネルギーを持つことを物語る。
「喋ってもいいかなー」
先ほどと変わらず穏やかなトーンで語りかける安住、その目は驚くほどに無感情だ。中年男は尻餅をついてガタガタ震え後付さりしていく。まさか本当に撃たれるなどと思ってもいなかったのだろう。
「移動の前に注意事項を説明しまーす。まず―――」
前列にいたものは一部始終を見ており、見えなかったものもただならぬ事態であったことは容易に想像できるだろう。広場はピンと張り詰めた空気で満たされ誰ひとり声を発しない。いや、声どころか息も潜めて壇上の少女がゆるい口調で語る説明を聞くのであった。
避難は比較的スムーズに行われた。
2000人強の無秩序な集団を安全無事に送り届けるというのは簡単な話ではない。まして、この集団を守る衛兵の数が全体の一割以下であり、万が一の防衛はおろか混乱に陥った民間人を統率するなど荷が重すぎるだろう。
しかし、今回集まった民間人はとても協力的であった。
「やべぇよ、広場で一人撃たれたんだろ」
「こええよ」
「逆らったら殺される……」
真偽不明の情報が蔓延し恐怖で支配された集団というのは動かしやすいものである。やりすぎると暴発の恐れがあるが、適度な脅しというのは緊張感と結束を高め結果的には集団の生存率を高めることにつながる。
「ひでぇ、異世界人ってやっぱ鬼畜だな」
「しっ!声がでかいっ」
あまり安住に協力的でなかった衛兵たちもある種畏敬の念を込めて自分たちの仕事に集中してくれる。普段は仕事をするフリに徹している者も今日ばかりは真面目に働いている。いやはやいい事尽くめである。
村を出て西へまっすぐ。
自動車が通るための舗装された道路が、近隣の村や街へ続く方向とは別に伸びている。
この先には住民たちは普段何も用がない。初代の王家が城を造るために大量の石材を求めた時期があり、この当たりの岩山も採石場として利用されていたがそれはもう何十年も前の話である。近年では岩山を囲む小さな森に危険な野生動物が住み着きますます人の寄り付かない場所になっていた。
「おー、ここはこんな風になってるのかー」
今現在、森は四方を切り開かれ大きな道路が貫いている。道の両脇には高圧電線が張り巡らされ野生動物の侵入を阻んでいる。中央の岩山は人為的に削り出された岩肌に金属製の巨大な扉や各種センサー、レーダー、排気ダクトなどゴテゴテと様々なものが取り付けられ採石場の面影など微塵もない。
「おい、侵略女。ここって一体何だ」
「弟くーん、君も大概名前覚える気ないねー」
中央広場での集会を終えてようやく再会したリァナとスフナの姉弟は避難民の行列の最後尾、殿を務める安住と少数の衛兵部隊とともに行動していた。姉弟は衛兵たちから白い目で見られ肩身の狭い思いをしているものの、住民の行列に加わることをスフナが強く拒んだためにこうしている。
「スフナ!ちゃんと”安住さん”って呼びなさい!」
姉に叱られ不服そうなスフナは謝るように言われてもそっぽを向くばかり。当の安住は気にする様子はないがリァナはペコペコと頭を下げる。
「ここは元々統合軍が格納庫兼前線基地として使ってた場所だよー。キャンプ・エルドラド、総司令部のあるところから戦闘車両、輸送車両、重機とか、最初期はVTOL無人攻撃機なんかも運び込んでたねー」
「…?」
「まーとにかく、戦争のための道具をしまい込んで各方面に送り出す集積基地だったんだよー」
「その戦争って、一番はじめの侵略戦争だろ…、こんな近いところでお前ら戦争の準備してたのか」
「んでー、その後はラタンカランとか周辺の村の近代化工事のために重機と資材のやりくりをして、今は使ってないから有事の際にシェルターとしてどうぞ――ってわけよー」
そして今がその有事。スフナに説明しながら歩いていると前方から伝令役の衛兵が走ってきて先頭集団がシェルター入り口に到達したと安住に告げる。
「ご苦労さまー、んじゃあ鍵開けないとだから前に急ごうか。リァナちゃんとスフナくんも一緒に―――」
安住が姉弟に向けて声をかけようとした時、行列の中間地点から悲鳴が上がる。
道中何も異常がなく穏やかな行進となっていただけに衛兵たちの間に緊張が走る。
「―――二人ともちょっと待っててね。
後部守備隊は近接戦警戒! 住民の安全を最優先とし積極的な戦闘は回避せよ! ただしコモンウォーカーは一匹残らず殺せ、君たちなら出来る、ここは任せたぞ」
姉弟に語りかけた優しそうな印象から一変、凄まじい声量で指示を飛ばし少女は駆け出した。状況を飲み込むのに少し時間を要したが衛兵たちも動き出し慌ただしくなる。
「姉ちゃん…」
「大丈夫、怖くないよ、安住さんがきっとなんとかしてくれる。怖くない、怖くない……」