見果てぬ夢
何時ぶりだろうか。こんな夢のようなモノを見るのは。だが、はっきりとしていることが一つだけ分かるようで、それを口に出すことはなぜかできない。お前は・・・誰だ?
ー俺は・・・グラフェルであってグラフェル《お前》ではない。ー
それを聞いたとき、辺りの風景が鮮明になる。
無数の人の屍。天使達の翼。そして・・・俺達の変わり果てた姿。
その光景に目を疑った。だが、夢ではあるがどこかで見たことがある。
ーいずれ分かる刻が来るさ。その刻までまた・・・-
途切れた。だがおかげで目が覚めた。ここは、医務室か。そうか、あの時、俺は倒れ込んでしまったのか。
「あ、起きましたか。どうですか?どこか痛いですか?」
「いや、大丈夫だ。ありがとうラファエル」
「いいえ、これぐらい大したことはないですよ。」
「やっと目を覚ましたか。全く、心配かけんじゃねえよ」
「すまん」
スレイが言うには、俺が倒れてから二日は経っていたという。その間に他の連中はというと、人間達がいる地上へ降り立ったそうだ。だが、なぜか神罰執行はされていないと。ただ単に人間にやられたのか、或いは別のなにか。一度、派遣部隊を編成しようかどうかの判断に苦しんでいるらしい。
「・・・そうか、そんなことがあったのか。俺が倒れている間に。」
「ああ、それと起きたばかりで悪いんだが、聞いての通り状況は非常にまずいことになっている。これを打破、もしくは解決方法を命令権を唯一所持しているお前の指揮に任せる。」
グランは王としての責務を果たすか、神として放置しておけない案件か迷っている。
彼は人間に対して、少なからず憎悪を抱いている。が、ディランやミレーユのような彼を人間として認識している者が地上に存在する。彼らは決してグランを裏切るような行為はしない、ならばなぜとグランの頭の中はぐちゃぐちゃにかき乱されていく。しかし、そこに耳を疑う言葉が聞こえた。
「だったら、みんなで一緒に降りちゃえばいいのよぅ。そうすれば、色々と分かることがあるし、現場の判断力でいえばアーちゃん達が一番の適任よねぇ。」
「「「はああ!?」」」
シャルルの一言で皆は口をそろえて唖然としていた。だが、彼女の言うことも尤もらしいのかグランは考え始めた。
「い、いやいや、いくらなんでもそれは・・・ちょっと。」
「そうですよ叔母様。私達や天使達ならともかく、グランまで一緒にとは・・・。」
ティアの言葉も一理ある。グランはこの天界を統べる王。ましてやその王が独断で地上に降りるなど言語道断。いくら何でもそれはスレイ達にはあまりにも都合が悪い。
「でも、伝令役としてゼルちゃん達を連れて行けばいいんじゃないかしら。そうすれば、多少の誤差はあっても、未だに音沙汰もない馬鹿神達を連れて帰る事だって出来るのではなくて?」
(((この人、ついに「馬鹿」って言っちゃったよ。)))
「では、こういうのはどうだろうか?一緒に行くとしても、人選に限りがあるし、天界の守護も怠ってはいかん。そこで、だ。ここはひとつ、全てを運に任せてくじを引くというのは?」
ヘリオスが提案する。それに皆はなるほどと納得がいったようで、グランもその提案に賛成した。
「では、始めるとしよう。派遣部隊は五人。赤、青、黄、黒、緑の、色のついた棒を誰でもいいので引く。その後、引いた色によってエリアに沿って探索、及び情報を仕入れてくる。以上だ」
ー五分後ー
「決まったな。グラン、エルシア、レティシア、ゼルエル、スレイの五人で決定。異論はないと思うがあったら・・・」
「ちょっといいですか?」
スレイが手を挙げる。物凄い真剣な表情をしている。
「何か?」
「女子率、高くね?」
え、そこ?
「別にいいだろう。グランもいるし、何より運に任せると最終的に決めたのは自分の意志じゃないか。」
「うぐっ」
くすくすと笑い声が聞こえる。
「・・・も」
「「「も?」」」
「元はといえば、お前のせいじゃボケええ!!!」
「ええええええええ!!!???」
いざこざがあったが、話は進み、いよいよ五つのエリアに分かれて探索と情報の入手についての作戦の説明に入る。
「まず、第一にあいつらを探すこと。次に魔族狩りの情報を入手すること。質問は?」
「・・・よろしい。では作戦を説明する。赤のゼルエルは東に位置するフェルセーン共和国周辺。青のスレイは南に位置するノノロス平原周辺、黄のエルシアは北に位置するカスロヘス商業中央区周辺、緑のレティシアは西に位置するジャルシャクス獣人国周辺、そして・・・黒のグラン、お前は中央に位置するブロンフェイゼ皇帝国に向かってもらう。・・・不本意だがな。」
ブロンフェイゼ皇帝国は、ディラン達が在籍している国。そこへ向かうとなれば、歴戦の猛者であるグランも、慎重にいかざるを得ないだろう。現に、救世主と呼ばれるほどに。
それぞれが向かう場所への魔法展開門へ。だが、グランはまたしても幻覚に襲われる。
ー気をつけろ。みんなが死ぬぞ。ー
またあの夢だ。しかし、あれは夢・・・なのか?だが、もし見たもの聞いたものが現実となるなら。
どれほどの惨劇を見るんだ?
人知れず恐怖を抱えて進むその背中は、年端もいかぬ年頃の少年のそれだった。