神罰
「事態はもはや一刻を争います。できる限り魔族を非難、及び人間を殲滅しましょう!」
その言葉に誰もが頷く。今まで人間は彼らに我が儘を無理矢理通してきた。だが、この事件をきっかけに堪忍袋の緒が今にもはち切れんばかりでいる。ただ一人を除いて。
「人間を滅ぼしたとして、その後に何が残るか、お前らは知っていて喋ってんのか?」
グランが語って周りが静かになった。彼がそのことに対してどれだけ傷ついてきたか知らないものはここにはいない。
「ですが、それ以外に方法があるとでも?もし、あるというのであればそれを我らにお教え願いたいのですが・・・よろしいですかな?」
「ふざけるのも大概にしろよ貴様ら。貴様らは少々人間を買い被りすぎているし、何より人間を下等生物として見下している節すらある。我々は神だ。しかし、万能ではない。ラグナロクでそれを十分すぎるほどに理解したはずだ。それとも、何か?また戦いたいとか言うんじゃないだろうなあ?」
彼の言動に怒りを感じている神は少なからずいるものの、今この場で彼を諭すことができるだろうか?
否、それはできない。むしろ返り討ちにあうだけだ。実際は、グランの立場は親の影響下で自動的に位に就いただけで、彼自身の意志は関係ない。むしろ彼はそのせいでまともな思考ができなくなってしまった。
それだけで言えば、親のことを邪魔だと思っても仕方がないが、彼の場合は、それを抜きにして『家族』として両親は接してくれていたので、そういった考えはほぼ皆無である。
が、周りの神々はどう思うのだろうか。簡単だ。邪魔だとしか思わない。なぜなら、権力だけで言えば、ヘリオスとシャルルは最高位に君臨し、自分たちはその影に埋もれているのだ。しかも、神は万能ではないと説き伏せてくる。実に不愉快だ。
「我々もあの一件以来、考えは変わっております。しかし、ここで人間に、人間が自ら行った過ちを我々が神罰を持って挑むほかありません!!!」
「・・・はあ、勝手にしろ。」
「グラン!」
「ただし、条件がある。」
「・・・とおっしゃいますと?」
「簡単だ。お前たちだけで殲滅すればいい。この場合、反対派の俺たちは無関係にさせてもらう。」
「・・・ほう、それでよろしいのか?グラン殿?」
「ああ、構わん。」
「決まりだな」
「会議の結果、反対派は殲滅に介入及び一切の責任の拒絶。殲滅は賛成派の神々だけで行う。双方とも、これでよろしいですかな?」
全員が頷く。
「よろしい。ではこれにて、閉廷とする。各自、元の職務に励むように」
たくさんいた神が散り散りになる。その中でいまだに残るのはグラン、スレイ、カルム、ゴーシュ、シャーリィ、エルシア、レティシア、ヘリオスとシャルル、そして四天師達。
「これでよろしかったのですか?皆様」
熾天師≪ブレイズ≫のウリエルが訪ねてくる。ウリエルは炎髪蒼眼で、二つ名に恥じない火属性の使い手で、少々男勝りな性格ではあるが、れっきとした女性だ。貧乳だ。
「そんなことはないに決まっているでしょう?ウリエルの馬鹿」
横やりを入れてきたのは魔天師≪グノシス≫のガブリエル。ウリエルとは双子の姉妹で、こちらは蒼髪柴眼の見た目が小学生かと思われるほど小柄で、それが彼のコンプレックスになっている。姉とは違い巨乳である。
「全く貴方達は。少しは礼節という物を覚えなさい」
後ろから割って入ってくるのは癒天師≪ホーリー≫のラファエル。灰色がかった銀髪に、金色の瞳を持ち、天使達からは聖母と歌われるほどの慈愛の心の持ち主。(ただし、四天師の中でだけは毒舌)
「いや、それを言うならあなたもですよ」
護天師≪ロイヤル≫のミカエル。四天師唯一の男性で、度々喧嘩する?彼女たちを宥めている。栗色の髪に琥珀色の眼を持ち、法律や誓約を作成する大事な仕事を彼が一心に引き受けている。
夕焼けが地平線の彼方へ沈み始める頃、グラン達は次の策を考えるために一旦自宅に戻ることにした。
ゼルエルやマクエルたち護衛天使をかき集めて話をする。
「それにしても、なんて頭の固い連中なんでしょう、イライラするわね。」
「右に同じ、ですわ。あんな連中、さっさと追い払えばいいのに」
「そういうなよ。これでもグランは十分抑えたほどさ。ま、俺達や他の連中達からしてみれば、めちゃくちゃ怒ってる、と思うもんさ。こいつを怒らせたらどんなふうになるのか、あいつらも理解してはくれているんだがなあ。」
全員がため息をつく。あの戦争以降で分かったことはグランが戦えば戦うほど強くなること、そしてその代償、条件として感情の欠落、神経の過剰負荷が彼にかかることが治療と検査の結果、判明した。
とはいっても、残虐性を持ち合わせていないためか、思考の逆転反応を示さない。つまり、グランは神としても、人間としても強すぎるので迫害は少なからず受けている。
「・・・ん?」
「どうした、どこか体の具合でも悪いのか?」
「いいや、大丈夫だ、問題ない。」
「?そうか。」
おかしい。さっきから視界が・・・ぼんやりとしてきた。こ・・・れは・・・一体・・・・・・
途端に頭が激痛に襲われる。その異変に皆は慌てて様子を見ているが、次第にはっきりとしてきた。
何かが見える。だが、視界が・・・体が・・・思うように動かない。
グランはそれを感じ取った瞬間、気を失い、その場に倒れこむ。
最後に見たものが、未来の自分だということも気づかずに。