心の拠り所
ここは『花園』より少し遠いところにある邸宅。そこにはグランと彼の両親、そしてカルムら真冠六闘神が滞在している。グランは法律上では彼らと衣食住を共にしなければならない。そのため、実質監視されながらの生活を送らなければいけないのである。グランは案外どうでもいいと言ってはいるが、それをカルム達が指摘する。
「いいっすか。グランさんは英雄として崇められ、奉られてはいるものの、その反面その力に恐怖を覚えている人たちがたっくさんいるんっすよ。少しは落ち着いてくださいよぉ。スレイの兄貴もなんか言ってやってくだせぇ。」
「・・・はぁ。あのなぁグラン。俺達はともかくお前には世界を大きく変える力を持っている。そのことに誰もがお前を排除したいと考えている。それを阻止するためにはお前の行動に制限をかけるしかないんだ。分かってくれ。」
「・・・・・・」
グランは沈黙を通した。
彼はもとより、束縛されることを嫌う性格で、このような処置をとられるのは本来であれば拒否するはず・・・だったのだが、なぜかこれに関しては許容している節があった。
だが、やはり嫌そうな顔をしていた様子はなく、どうも不思議でならなかったスレイは、ある予測を立てることにした。
それは、「グランはレティシアとエルシアが一緒にいるからそれ以外は苦にもならない」だ。
一見するとかなり偏った思考ではあるが、グランという男に限ってだけで言えば、実は意外と成立しているのだ。レティシアとエルシアの存在がとても大事で、彼女たちがいなければ今のグランはいないともいえた。それほどまでに、彼女たちの存在を心のよりどころにしていることもあり、彼女たちもまた、グランを自分たちがいつでも帰れる場所と思っているため、お互いがとても大事にしている。なので、グランは拒否している、というわけでもなければ妥協している、ともいえない。
実際は、彼女たちがグランの行動を無自覚的にセーブしているため、誰も気づかなかった。
グランたちはいつものように執務室へ入ると、天使達、それも護衛天使≪ガーディアン≫がなにやら辺りをウロウロしながら騒がしくしている。
「おい、どうした?いったい何が・・・」
「大変です陛下!人間が・・・人間が魔族狩りを始めたという報告が冥界より入りました!!!」
「な!?」
魔族狩りとは、戦争以前に行われた戦争勃発へとつなぐ事件で、人間が地上にいる亜人種を含む、外見的特徴に人間らしからぬモノが存在すれば、その場で抹殺し、その肉を食らって人間自身が魔力や膂力、さらには混血種という何らかのハーフ、ましてや人間との混血でも殺してしまうという、残虐極まりないもの。その後の戦争において、魔族の殺生を厳禁するという各国共通の誓約を交わしたはず。それを人間が再び始めるとなると、天界と冥界は、いや主にグランが絶滅させるだろう。
「そ・・・それってどういうことっすか!?ま、まさかディランが裏切ったというんじゃ・・・」
開口一番はカルムだ。彼の言う通り、その誓約においてディランが自身の左腕を代償に締結させたもの。
人間たちに対してその行為は、心臓に釘を刺し留める様な感覚に陥るはずである。普通はあり得ない話だ。が、冥界にその情報が来たとなると、その可能性は十分だ。
「だが、カルム。だからといってあのディランが左腕を犠牲にしてまで締結させたんだ。奴が裏切ることはないだろう。」
「だけど、だけど・・・」
「もし、そうだと仮定するなら、ディランに何のメリットがあるんだ?」
ゴーシュのその言葉に、皆は考え込んだ。
そう言われてみればそうだと誰もが思うし、仮にそれが正解だとしてなぜわざわざ皆の前で腕を?
考えれば考えるほど、一向に纏まらない。と、グランがあることを思いつく。
「・・・もしかしたら混血種のやつらが人間の中に混じってやっているんじゃ?」
「い、いやいやいや。それはないですよぉ師匠。」シャーリィが否定する。
「待って。それってつまり、他の混血や種族から蔑まれていたとしたら・・・」
「可能性としては十分ですし、動機においても辻褄が合いますわ。」
レティシアとエルシアが続け様に答える。
混血といっても、様々で半身が魔族だったり、顔の一部だけだったり、果ての果ては人間と見比べてみてもさほど変わらない。人間に近い混血であればおそらく下劣な種族の仲間だと避けられるだろうし、能力だけ見ても、人間に近いと思われれば邪険に扱われるという始末。
「だが、そうと決まったわけではないんだろう?グラン。しかし、仮に派遣するとしたら誰を指名するんだ?」
「そうだなぁ。・・・スレイ、シャーリィ、エルの三人、あるいはティアと・・・俺か」
「ん?グラン、俺は?」
「ゴーシュはダメだ。カルムはまだいい。」
「なぜだあああああああ!!!!」
「グランさん、あんたが行ったら、だれがこの天界≪ヘブリエーム≫を指揮するんですかい?」
「なに、父さんと母さんに任せるさ。あの二人なら問題ないし。」
「問題あるのはお前だ、グラン」
「げぇ!?と、父さん!?それに母さんも・・・ど、どうして?」
「私が招集したんです。陛下。条約に関わることなので、お二方には会議に参加してもらわないと納得がいかないものも多いはずです。」
「うぐっ!そ、それはそうだけど・・・」
「相変わらず無茶ばっかりするんだからぁ。メッ」
「分かった分かった、分かったから。」
「さすがの英雄様も親の前ではただの子供だなw」
スレイの一言でクスクスと笑い声が聞こえる。むぅーとハムスターみたいに頬を膨らませるグランを可愛いいと思ってしまったのは気のせいだろうか?
そんなこんなで緊急会議が開かれる。大広間に四大天師≪ヘブンスクラス≫と呼ばれる天師達。(天師は天使と違い、神に近いもの。)熾天師≪ブレイズ≫のウリエル、護天師≪ロイヤル≫のミカエル、癒天師≪ホーリー≫のラファエル、魔天師≪グノシス≫のガブリエル。オルンフォス十二神と最高神であるヘリオスとシャルル、そしてグラン達七柱。
「これより、緊急会議を開始いたします。」