弱さと強さ
「話はわかったわ。でも、いきなりそんなことを言われて、私がはいそうですかと素直に聞けると思って?」
「それでも、俺は守りたいと思うし、何より守るためには強くならなきゃいけない。・・・悔しいけど、そう思わざるを得なかったんだ。誰かがやらなきゃならないんだって、俺はそう思った。それだけじゃ、駄目なのか...。」
「駄目よ。」
間髪入れずにシャルルは返答する。親としても、一人の人間としても、自分の息子が他人を守りたいという気持ちに同意はするが、どこか焦燥感にかられているのを彼女は一瞬たりとも見逃さなかった。
「そんな!...どうして、どうして駄目なんだ。」
「あなたが力を求めるからよ。力を求めるものに理由は様々。だけど、その力を手にしたとして、あなたはそれをきちんと制御できる自信はある?」
これに関しては彼女の言うとおりだ。力を求め、手に入れたとしても、それがしっかりと自分のものにしていなければ本末転倒だ。それをグラフェルは少なからず理解はしていた。
両親からのいいつけで、力を求めすぎるな、求めれば求めるほど自分という存在を破滅に追い込んでしまうだろう、と。
グラフェルはどう反論すればいいのか、頭の中を回転させても、答えは次第に出てこなくなり、やがて沈黙するしか出来なくなっていた。沈黙はすなわち、肯定を意味するもの。制御できるのかという彼女の問いかけに対してのグラフェルの回答は、ノーであるということ。
「考えもなしに、強くなりたい、力が欲しいと頼めば、望めば、それは甘えであり、自分の弱さでもあり、自分の醜さでもあるの。あなたはたった今、自分の弱さと醜さを知った。それだけでも十分に強くなりたい理由になるわ。あなたはこれから強くなればいい。他人から与えられるのではなく、自分で見つけることこそが、本当の強さよ。」
「自分で、見つける...。」
願っても望んでも、力は持てない。逆に自分の身を滅ぼすことになる。だが、自分の弱さを、醜さを知った者は、これから強くなれるのだと。与えられるのではなく、自分で見つけること。それが本当の強さに繋がるということ。
自分自身がいかに弱くても、自分だけの強さや弱さを知れば、誰でも強くなれるのだと、今、この場で教えられた真理。これこそが母親の強さだと彼は気づく。
「分かった。母さんの言う強さってのはまだ俺にはよく分かんないけど、自分にできること、やれることを見つけるよ。もう教えて欲しいなんて我儘は言わないようにするよ。」
決意と安心してほしいというグラフェルの笑顔に、シャルルは少し頬を紅く染め上げていた。
「熱でもあるの?」
「え??!い、いいえ。少し、考え事をしていたの。(ああ、危なかった。ルーちゃんの笑顔、久しぶりに見たけど、やっぱり可愛いわぁ。もうずっと抱きしめたいくらいに。)」
シャルルは俗に言う、親バカであることを、彼はまだ知らないし、気づいてもいない。