一歩進むために
グラフェルは自分の中にある闇の魔力の正体が何なのかは分からないが、今はそれを克服するために、力をコントロールするしか無い、そう思い、母親であり、師でもあるシャルルに修行をつけてもらおうと考えていた。本当なら二人に頼んでおきたかったのだが、これに関してはそうそう時間をかけるわけにはいかない。なので、降りてきた母に頼るしかなかった。
その考えに至ったのは昨日のパーティーの後片付けの最中だった。
「そういえば」
「ん?」
話題を振り始めたのはスレイの方からだった。
「お前の中の魔力、属性を調べてみたんだがな。」
属性のことについては誰かに知られてもいけないことではなかったが、やはり、こうして直接聞かれるのはほんの少しばかり動揺してしまうようだ。表面には出さないでいるものの、こういうのはわりと頭が痛くなる。
「・・・その、なんだ。光より、闇のほうが強いっていう結果が出てな。何ていうか、その・・・。」
どうにも煮え切れない態度で話しかけているスレイに少しばかり同情した。自分自身ですらそのことは本当に知らなかったのだから、その反応は至極当然といえば当然なのだからあえて口出ししない。
「俺も初めて知ったよ。闇が強いって。・・・最初は何がなんだかわからなかったけど。」
「グラン・・・。」
「そりゃ、スレイ達からすれば驚くだろうな。ずっと使っていた属性じゃなく、相反する方の属性が強かったって。しかもどうやらそれは、先天的なものらしいからどうしようもない、らしい。」
「そうか。お袋さんから聞いたのか、そのことを。」
「・・・まあ、な。」
「辛くは・・・無かったのか?仮にも血のつながった家族だし、聞く方も聞かれる方も辛いだろうから、さ。」
どうやらスレイは属性が違った、それだけでも落ち込んだんじゃないだろうか、という少し不器用な彼の優しさがそこにあった。
「確かに、お前の言う通り、落ち込んだよ、すごく。」
「なら、どうしてそんな風に平然としていられるんだ?怖くはないのか?」
どちらかといえば、スレイの言うとおりではあるが、それでも自分がなぜあんなにも出生について知りたかったのか、今思えば少し馬鹿馬鹿しかったのかもしれない。要は、自分の親を信じきれていなかったから迷いや後悔が段々と積み重なっていったのだろう。しかし、本当のことを本人に聞いてから、それらはまるで何もなかったかのように清々しいほどに心の中が満たされていくのを感じた。
聞くのが怖かったのだ、聞いてはいけないような気もした。それでも教えてくれた。教えてもらった。
俺を助ける、ただそれだけのためだけに動いてくれたのだから。しかし、年月を重ねていくごとに、逆にそれが心の中に罪の十字架として食い込んでいた。俺のためとはいえ、ずっと話せないでいたのはもしかしたら嫌われてしまうのではないか、このまま離れていっていしまうのではないか、という不安に駆られていたらしく、結局、あの日話すまでは本当に後悔の念でいっぱいだったらしい。
「怖い、っていうよりは不思議と落ち着けてるって感じかな。そりゃ、最初は本当にショックだったけどな。でも、母さんはそれでも生きていて欲しかった、辛いだろうけど俺を守るためには俺を強くさせるしか方法はなかったんだと。」
「そうなのか。それはそれで大変だったんだな。なんかすまん。」
「お前が謝ってどうする。悪いことでもしたわけでもないのに。」
「それもそうか。」
お互いに談笑しながら後片付けをし、元通りにした後、俺は再び母さんの所へと足を運ぶ。
母さんがいる部屋へたどり着いて、ドアの前でノックした後、入る許可を得てから入室した。
「あら、ルーちゃん。こんな時間にどうしたの?」
今は真夜中。既に月は真上にまで登り、辺り一面が優しい光によって平等に照らされていく時間。
そんな時間は本来、一定の人物を除けば就寝しているはずなのだ。だが、今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。
「母さん。俺に奥義を教えてくれないか?」