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葬送の転廻者ーウロボロスー  作者: マシュマロ
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始まりの暗躍

 「ではどうすれば、僕らのような人間でも使えるようになるんでしょうか?」


 「それについては大変申し上げにくいのですが、レグニオさん、あなたでは霊装コードを使いこなすことは出来ません。心象の具現化、と言いましたが厳密には、内に眠る本性、あるいはそれに連なる自分自身を依代として顕界させること。要するに、心が完全に一致したレグニオさんのような方は、基本的に霊装コードを使えません。」


 不運にも霊装コードが使えないと分かった途端、一気にどん底に落とされたような気分になったレグニオだが、同時に研究対象が増えたと大喜びしている。そんな彼をミレディは、狂気に満ちた人間とは、研究者とはこれほどまでに欲望が深いのかと改めて実感する。


 「おっと、僕としたことがついうっかりぶつぶつと一人言を喋ってしまいました。申し訳ありません。」


 そう言って彼女に謝罪を入れたものの、彼の目からは自分すら研究の対象としか見ていないような猟奇的な目をしていたことに悪寒が走った。だが、そんな彼だからこそ引き入れたのだと、そんな人物だからこそ非人道に陥ろうとも平然としているその悪辣な心境の持ち主が我々の計画に必要だと実感させられる。


 「い、いえいえ。私もあなたのことを少し誤解していました。どこにでもいる一般的な人間のそれだと。しかし、あなたは違った。あなたは人間を嫌っているとおっしゃいましたが、その実、あなたほど人間らしい人間は私の中では知りえません。」


 「僕が?人間臭い?フフッ・・・冗談もほどほどにお願いしますよ。」


 冗談ではなく本気で言ったのだが、どうやら彼にはこれが気に障ったのだろうか顔を苦汁を飲まされたようにしている。


 「それは失礼いたしました。さて、気を取り直して我らがアジトへ向かいましょうか。」


 「え?ここがアジトではないのですか?広いし、装飾もかなりこだわってますし。」


 「いいえ、ここは工廠ファクトリーで、アジトはここより地下にありますの。早速ではありますが、あなたの部屋へご案内いたします。」


 そう言って彼女に案内をされながら中の様子を伺うレグニオ。見れば見るほど不思議というものが頭の中を駆け巡るようで、心底楽しんでいる。地下だからと言われているが、地上と何ら変わらぬ広さ、滞りなく漂う新鮮な空気、蟻の巣のような広大な数々の部屋、何をとっても疑問が疑問を呼び、思考が全く終わることも尽きることもない。研究者にとってはこれほどまでに考えさせられる空間は無いだろう。


 「ここです。ここが今日からあなたの部屋になります。質素な作りであるのはご容赦を。家具など一式は揃えておりますので悪しからず。」


 「いえいえ。こちらこそありがとうございます。わざわざ部屋までご用意いただけるとは、本来なら寝泊まりするぐらいで良かったのですが、ここまでとはいやはや、全くあなた達が何者なのかますます知りたくなってきましたねえ。」


 「ふふっ。それはまた後ほど。」


 あざとく人差し指をその瑞々しい唇に軽く乗せて可愛らしさと怪しさを漂わせる彼女に見惚れない男、いや、この場合は雄といったほうが適切だろうか。


 「あなたはつくづくその妖艶な肢体で僕を誘おうとしているのはなぜです?僕には、いえ、僕ら男には一定の性欲はありますとも。あなたのその誘うような仕草に見惚れぬ者はいないでしょう。しかし、どうやらそれを何度もされると誘惑された人にはある程度耐性がついてくるようで、僕にも少しずつですがついてきましたよ。しかし、それを抜きにしてもやはりあなたはお美しい方だ。」


 「そのけなされているのか称賛しているのかわからない言葉を、私は幾度となくかけられてきました。ですが、そこまでは正解です。その先が私の霊装コードの真の能力ですので。」


 「ほう、ほうほうほう。その真の能力とやらを、是非とも見物したいものですねぇ。」


 グイグイとくるレグニオをよそに、ミレディは余裕の笑みをかましている。

 そうこうしている間に、本丸へと足を運んだ二人の前には荘厳な装飾で施されている扉があった。


 「これは・・・東方に聞く『天守閣』というやつですかな?」


 「あら、よくご存知で。そう、この扉とこの先の部屋を合わせて『天守閣』と呼ばれているそうですわ。一体どこでこれを知りましたの?」


 「いえ、研究している途中で偶然目に入りましてね。」


 「そうだったんですの。さて、お話はひとまずここまでにしておきましょう。他の方もあなたに話したいことがあるようなので。」


 怪しく微笑む彼女は扉に手を当てて開いてみせる。とても女手一つではびくともしないだろう頑丈な扉を、彼女はすんなりと、まるで当たり前かのように開かせる。


 「おお、よく来たな。ようこそ、『黒曜の黙示録オニキスカリュブス』へ」

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