霊装《コード》
「賢者の石、ですと?」
「ええ。まずはそこからですね。私達が話している霊装についての情報の共有をあなたは要求し、我々はあなたにこの機械神の動力源となる『賢者の石』の生成及びその量産を要求します。どうです?決して悪い話ではないでしょう?」
確かに悪くはない話だ。信用するべきはお互いが求めているものの認識の共有。それに値する当人への信頼。これがなければ大抵どんなに割の良い儲け話でもどちらかがそれを反故してしまう。
ならば、始めから分からせた上での要求を持ち込めばお互いに納得の行くしっかりとした契約が成される。そのような商売戦法を彼女たちが知っているとはなんと根深いのだろうとレグニオは感心する。
「ふふっ、ふふふふふ、あっはっはっはっはっはっはっはっは!いいでしょういいでしょうとも!是非とも、このレグニオの研究成果でもある『賢者の石』をどうぞなんなりとお使いください。僕が望むのはこの石のもたらす効果を知りたいだけですので悪しからず。」
狂喜が体を奮い立たせ、真っ向から自分が望むものを望むままに欲しいという欲求は、ある意味では彼はとても人間臭いと言えよう。しかし、いくら世界を股にかけて来た彼でも己の知らない知識というものは存在する。それを知ろうとするのは研究者としての血が騒ぐからである。企画し、仮定し、実験するを繰り返すからこそ研究者は必要であり世界が、人間が進化するためには不可欠な存在なのだ。良くも悪くも。
「流石ですね。ではまず、霊装についてはご存知ですよね?」
「え?ええ、それはもちろん。霊装とは、その人が持つ魔力、能力、血統などに由来するものを自身の体に鎧として纏う、でしたよね?」
「ええ、その通りです。通説では。」
「通説、というと?」
「そのままの意味ですよ。誰もが知ってるから私は『通説』と言ったまでです。」
「では、我々が事実として受け入れた知識が古いと・・・?」
通説という言葉は研究者であるレグニオらにとっては憎むべき対象のひとつ。その言葉を聞くだけで憤りを隠さずにはいられないが話している相手は取引を持ちかけてくれたいわば商談の取引先。せっかく自分の研究成果を実用化に向けて画策してくれているというのに、ここでそれを無かった事にされてしまうのは流石にまずい。そう思い、内心苦虫を潰すようになりながらも押し殺し、話を進めさせようと促す。
「では続きを。我々が行っていた研究では、霊装はそもそもどうやって発現しているのかという点に重きを置いています。」
「どうやって・・・。それは考えていませんでしたねぇ。これは僕らにとってはかなりの痛手。」
「そう。誰もが常識にとらわれているのは仕方のないこと。ですが、それを誰かが壊すこともまた人の身でなせることなのです。ですので、あなたもそちらの方になっていただければと思います。」
「確かにそうですね。でも、僕らの中でも霊装を使えない人間もいるのは事実です。しかし、一体どうやれば僕ら使えない人間でもできるのかは調査中なんですけどね。」
「それについてなんですが、実は最初あたりに言っていた血統や魔力、能力などはほとんど関係ないことが判明しました。」
「そ、そんなバカな!?もし、もしそれがホントなら、僕らは一体なんなんだ・・・?」
この事実にレグニオは頭を抱えずにはいられなかった。今まで使えるか使えないかしか分かっていなかった世界の認識が、彼の記憶に思い楔として今、打ち込まれた。
考えられるのは、あまり信じたくはないであろう努力という言葉。
「実はですね、心象風景の具現化。それが霊装が持つ本来の力なんですよ。驚きましたか?」
「心象風景の・・・具現化?」
「ええそうです。もっと砕いて言うならば、心の形を鎧として纏うんですの。不思議でしょ?」
「ええ、たしかに不思議ですね。でも、それが本当だとすると、なぜ僕らには使える人と使えない人がいるんでしょう?」
「そこまで詳しくはわかりませんが、ここからはあくまで推測の域を出ませんがよろしくて?」
「どうぞ。」
「では。おそらくは自分の心の本質を知らないから、だと思います。」
「本質?」
「そうです。こればかりは心の問題なので研究しようにも実験材料があったとしてもおそらくは完全な回答は難しいでしょう。」