困惑
「くっ・・・。これならどうです!?大地よ、琥珀の剣と成れ《アルデント・ラク―シャ》!!!」
エルシアの魔法が目前の黒い騎士へと命中する。地面が剣のように鋭くなり、凄まじい速度で連撃を決める。敵対意思が感じ取れない。しかし敵味方関係なく攻撃するそんな相手に話など出来るはずがない。そう決めた瞬間にすぐさま行動に移したのだ。
「ど、どう・・・ですの。はぁ・・・・・・はぁ。」
連合の兵士と無差別攻撃を行う黒い騎士との連戦で流石に疲労が蓄積していてまともに動けるはずがなく、黒い騎士が発現させた黒い炎球をもろに食らってしまう。
「ぐっ!かはぁ!」
「エル!こんのおおおおおおおおおおおおお!!風よ、我が矢に纏え《ラ・ヴィエント》!」
レティシアの放った風を纏う矢が黒い騎士目掛けて射る。
だが、鎧が硬すぎるのか当たっても刺さるどころか弾かれてしまった。
「くっ!なんなのあれは!」
怒りを露わにするのも無理はない。敵と鉢合わせになって即戦闘に入っていったし、力が拮抗していたにもかかわらず今目の前にいるこの黒い騎士が敵味方問わず攻撃をしてきたのだ。
戦場において一番厄介なのが斜め上からまったく予想も出来ない存在の戦闘への介入である。
軍略において必要なのは最悪の展開を予想することとそれを阻止すること、そして最も重要なのがどれだけの犠牲や被害を被らずに済むか。
戦場というのは平たく言えば自我を持つジグソーパズルのピースだ。いくら自我を持っていようともそれを上手く制御できるかどうかは分からない。だからこそ戦術というものが必要であり必須なのだ。
「分かりません。私でさえあんなのは予想だにしていなかったものですから。」
「・・・それもそうね。敵はあいつが片付けてくれたし一旦」 「ティア」
「・・・・・・・・・・・・え?」
どこからか分からなかったが、今確かにレティシアを呼んだ。それもグラフェルが彼女を呼ぶときの名前を。
「・・・と、とにかくここから離れ」 「ああああああああああ!!!」
「っ!?しまっ・・・・・・。」
隠れていたのだろうか一人の男が疲弊していたレティシアに向かって剣を振り下ろす。
「ティア!!!」
エルシアが叫んでも既に遅かった。
斬られる。そう思い目を瞑った。しかししばらくしても何も起きなかった。それどころかあの黒い騎士が自分たちを守っていたのだ。その光景に二人はただ見ているしか出来なかった。
「がぁっ」
剣を振った男から彼女たちを守るために自身を盾にして守った。しかし勢いが強かったのか頭から斬られた・・・のだが、頭部にのみわずかな切れ跡が出来ていた。渾身の一撃を放ったつもりが邪魔された挙句、全くのダメージにもならない、そんな相手にどう逃げ切ればいいのか考える暇もなく男は首を手刀で綺麗に切られた。そこに苦しみもなければ嘆き、悲しみ、憎しみも一切残さなかった。
それだけで言えば恐怖に呑まれた男にとっては何よりもの慈悲となっていた。
「なんで・・・。私たちを・・・・・・。」
返事がない。途切れ途切れに次に紡ぐ言葉を探そうとするレティシアだったが、考える暇も与えず、黒い騎士は地面に膝をついた後、うつ伏せになって倒れた。どうやらさっきの衝撃で脳震盪が起きたのだろう。
だが次の瞬間、頭部にひびが入り、鎧のあちこちにも伝線し呼応するかのように亀裂が走る。
そして鎧は何事もなかったかのように霧となって消えた。
「えっ・・・・・・。」目の前の現実に疑惑を感じてしまうエルシア。
「嘘。そんな・・・ことって・・・。」背けたくなる事実に困惑するレティシア。
割れた兜から露わになったのは・・・グラフェルだった。