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葬送の転廻者ーウロボロスー  作者: マシュマロ
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死を与えるもの

 月が見える。赤く染まり、灼熱の炎のように紅蓮に燃え盛る、まるで太陽のような熱を灯して。

 グラフェルは深い水の中にいた。そこは光が揺らぎ、波紋を呼び寄せ、より美しい一枚絵へと書き換えてしまいそうな場所にいた。

 だが、現実はそうとは限らない。レティシア達のいる場所へと向かう途中で気を失ってしまったのだ。そうとは気づかず、ただ彷徨っていただけに過ぎなかった。

 彼の心はここには無い。


 (不思議だ・・・。こんなに深い水の中にいるのに苦しくない。それどころか俺を包むように優しい。まるで、母さんのお腹の中にいるみたいだ。)


 安らぎがあった。普通の人であれば一瞬の安らぎであっても現実に戻るだろうが、グラフェルはそうではない。幼いころに見た人の死と、自分が殺した人の顔を鮮明に覚えていた。彼の心にはいつもそれが焼き付いていて離れなかった。彼の心は深く傷ついていたのだ。

 しかし、レティシアやエルシア、家族のおかげで克服することはできたのだが、完治したわけではない。そのため、グラフェルが見ている夜の風景のような空間を現実と錯覚していたのだ。


 「ギシャアアアアアアアアアアアアアア」


 仁王立ちしていたグラフェルに襲い掛かろうとしているのは砂塵百足デザートピードと呼ばれる百足のような虫型の魔物。

 口から吐かれる液体は金属すら熔かせる消化液が最大の武器で、いくら霊装コードを纏っていても骨まで溶かしかねない酸濃度を持っている非常に厄介な魔物だ。

 そんな砂塵百足を前にしてグラフェルは立ったまま何もしなかった。

 いや、する必要がなかった。砂塵百足は彼を見るやいなや苦しみに悶えていた。

 グラフェルから放たれる凄まじい殺気と魔力が全身をゆっくりと引きちぎられるような鈍く、鋭い痛みが走ってきた。数分もたたないうちに砂塵百足はピクリとも動かなくなった。


 (なんだろう、この感覚・・。光がないというのに暖かく、それでいて優しく強く包むような繊細な心地よさが伝わってくる。もう少しこのまま、浸かっていたいな。)


 心と体が不一致なままレティシア達のいるほうへと足を運ぶ。


 


 その頃、レティシア達は敵と遭遇し、味方陣営をフォローしながら撤退していく。戦力に差がありすぎるのと予想以上に負傷兵の数が多すぎて回復するにも時間がかかりすぎていたのだ。

 前線にエルシア、彼女のバックアップをレティシア、負傷兵の救護をシャーリーがそれぞれ担当している。

 

 「数が・・・多すぎますわ!」


 「そんなこと!言われなくても・・・分かってるわ・・・よ!」


 四方八方を囲まれており、次から次へと攻撃の波が押し寄せてきている。数を減らせどそれ以上に増やしてくるのできりがない。それでも、目の前の攻撃を躱しながらカウンターを決められるのがやっとになってしまうほどに疲弊してしまう。


 「こんのおおおおおおおおおお!」


 エルシアが槍を振る瞬間、足を絡ませ躓いてしまい、地面に倒れてしまった。

 そのチャンスを逃しはしないと敵の剣が、法撃が、打撃が、矢が、バケツから落とす水のような勢いで彼女の背中目掛けて振り下ろす。


 「エル!!!くっ・・・邪魔・・・するなあ!」


 レティシアが助けに行こうとも周りを囲まれていたために救援に向かうことができず、歯がゆい状況となってしまう。


 ドオオオオオオオオン!!!!!とあたりに響く地鳴りが聞こえた。

 黒く、鈍く光る鎧に、烏のような黒い翼を携えた謎の騎士が天からいきなり姿を現した。

 周りは何が起こったのかをじっと静観している。

 ガシャン、ガシャンと金属音を鳴らしながら戦場へと近づこうとする黒い騎士。

 それを邪魔するかのように敵の兵士が目の前に立ち塞がり、退けようとする間もなく、音もなく腰から下を黒い騎士の剣によって剛断された。それも、わざとかどうかは分からないほどにみじん切りにされてしまった。


 「ひっ・・・う、うわああああああああああああ!!!!」


 「な、なんだあいつ!ば、化け物!?」


 「何を狼狽える!やつはたった一人だ!全員で取り囲め!!!」


 兵隊長と思しき中年の男が声を発する。それに応じてほかの兵士達もそろってその黒い騎士のところへと集結してく。何が起こったのかはわからないが今のうちに負傷兵を陣営まで運ぶ隙ができたので、レティシア達はひとまずその場を離れる。


 「貴様ぁ!よくも我らが同志を手にかけたな!・・・総員、構え!・・・・・・ゆけぇ!!!」


 「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」


 兵士の大群が一気に押し寄せてくる。その光景はあまりにも悲惨なものだった。

 突撃の号令がかかったはずなのに誰一人として前に進んではいないのだから。

 まるで金縛りにあったかのような感覚で動かなくなった。兵士達の影から鎖のようなものが体に巻き付いているのが原因だった。黒い騎士が右手を伸ばし、グッとこぶしを握った瞬間、

 

 「「「ぎいやああああああああああああああ!!!!!」」」


 内側からナイフで串刺しにされたかのように体から突き出てきた鋭利な刃物。

 その衝撃は血飛沫となって大地を赤く染め上げる。

 変わり果てた兵士達の姿を見た者は、その凄惨さを目の当たりにして嘔吐せざるを得なかった。


 血を浴びながらもそれをものともせずただひたすらに前へと進むその黒い騎士の姿に両陣営は恐怖を抱かずにはいられなかった。

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