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葬送の転廻者ーウロボロスー  作者: マシュマロ
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何かの前触れ

 時折思い返すあの光景。枯れた草木、酸化した鉄の臭い、舞うように広がる小さな灰、無数の人の屍

の山、川と見間違うほどの大量の血。何度見てきただろうか、何度想像したことだろうか、何度経験してきことだろうか、忘れられないほどに脳裏に焼き付いてしまったその夢とも現実とも取れないモノに幾度となく頭に叩き込まれただろうか。


 グラフェルはその光景を繰り返し見てきた。最初は吐き気を催していたが、次第に慣れてきてしまっていた。こういうことには慣れないほうがいいと、以前父に教えられたことがあったが、それよりも何十回、何百回、もしかしたら何千回と見てきたのかもしれない景色に慣れるなと言われてもまだ十四歳の少年なのだから、それは無理だとしか言いようがない。


 むしろ、それを繰り返しても精神が崩壊しなかっただけまだマシな方である。それほどまでに彼が見たものは記憶を埋め尽くすような勢いで頭を痛めつけた。


 そして、いつも最後に見るのは黒い鎧を纏って棒立ちする、それは竜なのか人なのかは分からないが

グラフェルにはただ一つだけはっきりと確信していることがある。アレはグラフェル《俺》だと。


 なぜかはわからない。だが、魔力の波長や鎧のところどころに施されている装飾は、間違いなく自分の霊装コードなのだと。


 もう一人の自分らしき者と目が合ったところで現実にふと戻る。そうして、彼は何も知らぬまま戦場へと足を踏み入れた。


 戦地より西側にあるキネアス湖では、スレイとゴーシュ、カルムが応戦していた。


 「・・・ハアハア。いつになったら、法撃・・・止むんスかね?」


 カルムたちは今、敵軍からの魔法による法撃に手一杯だった。飛び道具に関しては弓と銃と魔法があり、それぞれが違う役割を果たしているおかげで戦場のパワーバランスはある程度一定に保たれていた。

 弓は牽制、銃は遠距離からの狙撃、魔法はその補佐と実働というふうに絶妙な関係を築いている。


 「御託を並べる暇があったら、全力で撃ち落とせ!!」


 声を荒々しくたてるスレイ。クールタイムがいつ起きてもおかしくはないはずなのに、それどころか一向に止むことの無い敵の攻撃に頭を悩ませていた。


 「っくそ!なんかいい手はねえのかよ!」


 「このままじゃいずれ俺らそのまんま地面にぶっ倒れていい的にされちまうぞ!」


 ゴーシュの反論最もであったがために、何も言葉を返せず、ただ当たらないように回避運動を繰り返しているだけの現状に鬱憤を募らせていた。


 躱し続けてはいるが、終わらない法撃のおかげで体力が徐々に奪われていき、そんな中でカルムが左足で着地するもバランスを崩し、目前に法撃の雨が降り注ぐ。


 「カルム!!!」


 「くそっ!!!なんてこった!!!」


 二人はカルムのもとへと駆け急ぐのだが、急な方向転換をしてしまい、さらには肉体的疲労が重なるという不幸の偶然が重なった結果、二人も的にされてしまう。

 カルムは二人と比べ、魔力は平凡だが霊装コード自動的権能オートギフトのおかげで体全体に炎属性の薄い膜が張られており、少しなら防御なしでも戦えるが、今回の相手は永遠とも言える魔法攻撃の雨という休むことも反撃する時間すら与えてくれないといった物理的でも魔法でも数うちゃいずれ当たるという敵には相性最悪だった。


 「しまっ・・・!!!」


 絶体絶命かと思えた刹那、ゴオン!という重く鈍い音が聞こえた。巨大な剣がカルムの身を守ったのだ。


 「はあ・・・はあ・・・。大丈夫ですか皆さん!!」


 助けに来たのはディランだった。予想外の出来事に敵は攻撃を止めているその隙にスレイは霊装コード発動アクセスし、フェンリルへと姿かたちを変え、両手の銃で敵を魔力を纏った銃弾で頭や心臓などの急所を正確無比に狙い撃っていく。


 何とか窮地を脱した三人は後から来たディランに話をする。


 「本部からの通達です。グラフェル、ディラン、イシュリアの三人は各自一個小隊を牽引し、それぞれ戦地へと赴き、各個己の判断に従い、前軍を援護及び戦況の拡大防止に努めよとのことです。

・・・まあ、そう言ったのはあの人なんですけどね。」


 要するにグラフェルの指示は面倒くさいことはいいからさっさとはでにやっちゃえということだ。

 大胆かつ繊細な指示を出すグラフェルの作戦立案は時々スレイ達に一任もとい丸投げすることがある。


 それは信頼していると取れるが、当の本人たちからすれば、考えるのをやめてめんどくさいことは全部自分たちになすりつけるという甘えだと彼らは思う。


 だが、こういう場合は非常に効果的である。戦争とはお互いの敵との殴り合いで、近くにいるならまだしも、遠く離れていては命令系統が崩れてしまう。情報とは時にすべてを凌駕する武器にもなりえる。それを知っているからこそグラフェルはあえて自分達でドンパチかましとけなどという無茶苦茶な指示を出したのだ。

 少しでも噛み砕いたり一言一句正確に伝わらなかったりすると、多少ではあるものの、認識の差異が表面化してしまう。そうならないために「自己判断」という命令を彼は下したのだ。


 「ここはもう大丈夫ですか?」


 「ああ。一通り片付いた。あとはあいつらのところに向かうだけだ。」


 周りを見渡し、敵は淘汰し、伏兵の気配も特に感じなかったので四人は急いでグラフェルとイシュリアのもとへと足を運ぶ。

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