これから
「い、いやいや待て。イシュリア。お前一人で行ったってどのみち謝絶されるんだ。それでは時間の無駄だ。」
「なら、このままでいいと皆さんはそう思っていらっしゃるのですか?···少なくとも、私個人としては、この事態を続けることは衰退、最悪の場合、帝国そのものの崩御を意味します。一国の代表の娘として、断固としてこの状況を変えなければなりません。皆様はどういたしますか?」
その言葉でここにいる全員の目の色が一気にやる気が満ちて来ているのが分かった。開戦間近な今この時、なにもしないことは人間そのものを辞めるに等しい行為だと考えていたのだろうか、そんな堂々と回りを掻き乱してみせる彼女の言動、行動力からすれば流石代表の娘なのだろう。
「そうと決まれば!」
「ああ。すぐにでも宮殿に乗り込むぞ!」
「総員、武装!!」
最後にディランの号令がかかった瞬間、一斉に霊装を起動した。一瞬の出来事ではあるが、完全武装した一個師団が瞬く間に完成した。
「そのまま宮殿に行くには些か時間がかかる。というわけで俺のゲートを使えば一瞬で向こうに着くぞ。」
「ありがとうございます!」
グラフェルはすぐさま魔方陣を展開し、宮殿へと続く門を発動させた。だが、ここで致命的な問題が発生した。
「······すまん。」
「どうしたんですか?」
俺の顔を少し覗いたディランが不思議そうな感じで質問を投げる。
「俺のゲートはな、その···人数制限が。」
「人数に制限があるのですか。して、どれくらいですか?」
「あぁ、えっ···と、その···。」
「どうしたんです?早く言わないと分からないじゃないですか。」
しどろもどろにしながら本当のことを言わないグラフェルに、みんなは益々不思議がっていた。それに痺れを切らしたのか、観念したのかグラフェルはいやいや話す。
「ふぅ···。いいか、よく聞けよ。この門はな、展開した人の波長によって通れる人数が違うんだ。」
「そうなんですか!?」
「そうらしい。」
らしい?疑問系というのは恐らく、誰かに聞いた、と言うことだろうか?
「スレイやティアは波長が安定しているからなのか、一個小隊なら余裕なんだと。そんで、俺は···恥ずかしながら、俺を含めてたったの三人しか通れないんだ。···その、ごめん。」
「············は?」
何を言っているのかグラフェルを除いて全員理解できず、首を傾けるしかなかった。無理もない話ではあるが、この場合は分からない方がむしろ正しかった。
少し沈黙が流れ、イシュリアが語りはじめる。
「ええと、その···グラフェル様は、ご自分を含め、たったの三人しか通れない、そうですよね?」
「あ、うん。えと、その、うん。」
あ、多分これは絶対気にしてるやつだ。いや、絶対じゃなくても流石に心に深いダメージが入るだろう、そう確信してしまったのは誰も口が避けても言えない彼の数少ない欠点を見つけてしまったからだ。
「あ、あのですね、えと、わ、私達の魔力を加算することは可能でしょうか?」
「それが出来ればそんなことは既に実践できたはずなんだ。悔しいが、非常に悔しいが、ここは抽選で決めてくれ。」
そう言うグラフェルは、物凄い悲壮感に浸されたような苦汁を飲まされた顔をしていた。どうやら以前、第三者の魔力供給は試していたようで、それも失敗に終わってしまったらしい。
だが、グラフェルの魔力は安定性があまりない代わりに量と質は前代未聞だと言われている。その彼をもってしてもたったの三人しか通れないというこの門、一体どれ程のものなのか、誰もが固唾を飲んだ。
抽選の結果、グラフェル、イシュリア、ディランの三人に決定した。
なお、誰も不正などしてはいないものの、これはいくらなんでもなにかおかしいと皆、不思議でならなかった。だが、この三人ならば、何も問題はない。
そんな心境を抱えて三人を送り出す。一人は雄々しく、一人は覚悟を燃やし、一人は息が苦しそうな、それぞれの心を表したその背中を見た者にとって、誰も未来が希望ではなく、絶望に呑まれることを知ることはない。
グラフェル君は不安定ながらも大きさとクオリティはかなり高いそうですね。