連合の侵攻
連合。通称、アルガントナーク連合首長国。国としての規模は現在グラフェルがいる「ジュネスト」と呼ばれる大陸の三分の一を占めており、軍事技術、生産性、端から端に至るまで連合に肩を並べる国は雀の涙ほどと言われている。グラフェル達が現在拠点としているブロンフェイゼは、大陸中唯一の連合に比肩できる数少ない国で、国土としては連合に軍配が上がるものの、それ以外においてはこの国が圧倒的に勝っている。だが、いくら肩を並べられるとはいっても、戦争になれば勝つのはブロンフェイゼと百人が百人、そう答えるだろう。問題は、なぜ、その連合がこの国に戦争を吹っかけてきたのか、ということだ。その理由がわかればまだ柔軟に対応することはできた。
皇帝国の住民は、このことに対して不安を隠さずにはいられなかった。
「おい、連合とこの国が戦争をおっぱじめるってよ。」
「冗談じゃねぇぜ。第一、何でこことやるんだよ?あいつら、頭でも沸いてんのか?」
「ったく、これじゃ仕事も何もありゃしねぇよ。」
街中は人混みに溢れ返っていた。いたるところに人が波のように押し寄せてくるので、グラフェル達は一向に進めずにいた。
皇帝の住まう宮殿へと向かってはいるものの、迂闊に霊装を発動してもさらに混乱を招くだけなので、やはりこの人混みの中を何とか掻い潜るしか方法はないようだ。
やっとの思いで宮殿についたグラフェル達は、急ぎ現皇帝『ガルックス・ロッザ・ブロンフェイゼ三世』が佇む玉座にて対面することとなった。
「聞いての通りだとは思うが、今、この愛しき皇帝国が連合なんぞに発破をかけられた。これは止められることはないだろうて。」
「し、しかし、皇帝陛下。戦の準備は進めても、国民の不安を取り除くほうが先決かと愚考いたします。」
すでに臨戦態勢に入っている皇帝に、国民の不安をどうにかして解消できれば後のことはどうとでもなるというディランの理念はまるっきり正反対なので、話も噛み合わないまま議会は難航していた。
「そもそも、なぜ連合がこの帝国に侵攻するんだ?それなりの理由があるからこそ、なんだろうが、どうにも引っかかって仕方がない。」
グラフェルがこの場で最もな意見を述べる。確かに、戦争において理由のない侵攻、侵略、攻撃はただの虐殺、蹂躙では飽き足らない、戦争狂がする行為。元々、連合と帝国の間に遺恨は皆無なのだが、国土が欲しいというのであれば対話の場を設け、食物や生産技術を取り入れたいというのなら提供するという、できるだけ戦争を避けるために今までやってきて来れたのだが、今回に関してだけ言えば、あまりにも不可解かつ不気味な印象を持たされている。
「それが、私にもわからないのだよ、グラフェル殿。先の大戦での貴殿の慧眼、実に見事であった。この度もどうか、この国に知略を貸してほしい。・・・どうか、この通りだ。」
国のトップが部外者であるグラフェルに頭を下げるという行為は、真の意味で国そのものの危機が、存亡がかかっているということ。
これに対しグラフェルは乗り気ではない、そんなことは自分たちでやれ、といった冷たい目で彼らをじっと見つめる。
「グラフェルさん。ここは彼らの言うことも一理あると思います。俺からも、どうか、お願いします」
ディランまでもが頭を下げて、彼に懇願してきた。だが、彼は分かりきっていた。ここで帝国に加担すれば天界はわれらの味方だという吹聴をばら撒かれることを。そうなれば今よりももっと混乱が起きることは、グラフェルにはしっかりと目に見えていた。しかし、
「・・・・・・はああああああ。分かった分かった。だから頭を上げろ。部外者にするべき行為じゃないだろ。」
「「それでは!!!」」
「ただし、だ。」
「俺が加担している、ということだけは絶対に内密にしておけ。でなければ、二度とお前たちのところに姿はおろか、顔すら見せない、そう思ってかかれ。」
「「ありがとうございます!!!」」
グラフェルは自身が与していることを伏せるのを条件に、帝国を援護することにした。
今ここでそのまま去ってもよかったのだが、目の前の命を軽く見捨てるほど、彼はそこまで冷たくはない。
だが、この決断が後に悲劇の序章となることを、まだ、誰も知る由もなかった。