闇の中での邂逅
グラフェルは、また夢を見ていた。いつもなら見渡す限り、焼け野原の風景が目に焼きつき、扱げた匂いがする、のだが、今回はどうやら違う場所である。
だが、なぜか体がふわふわと浮かんでいるような感覚に襲われている。が、ゆっくりと下に降りていき、、地面と思しき足場に踏み入れる。
何もない。ただただ真っ暗。人も、炎も、匂いも、何も見えず、何も感じず、まるで闇に覆われているかのごとき静けさ。
地面に手を触れてみても、感触はあるものの、何を触っているのかまったくわからない。空も黒く見えるし、何より明かりが一つも見当たらないのはさすがに異常である。
どこからか音がする。コツコツと響くのは靴、よく耳を澄まさないと聞こえないぐらいにバサバサという聞きなれぬ音。それも段々、こちらに近づいてくる。
----敵、か?----
だが、気配を探ってみても何も反応がない、それどころか音だけが近づいて得物を手に取る音も聞こえない。ただでさえ真っ暗闇だというのに、視覚が慣れていない今では簡単にやられてしまう。
「おい」
ビクリと体が反応し、聞こえた方角とは反対の方向に飛び退けるグラフェル。今ここで戦えるのかは不安しかないが、それでも、というグラフェルの双眸には勇気と覚悟が大いにぎらついていた。
「何をしでかすかは知らんが、ひとまずこちらに戦闘の意思はない。お前もいい加減、そのひ弱なオーラを沈めてくれなければ話が出来ん。」
そういった何者かが、とりあえず話をしようと試みてくる。言葉が交わせるのならばこれといって意思疎通に悪影響はないだろう、そう思い、グラフェルは一旦戦闘態勢を解く。
「ここにくるのは初めてか?」
「あ、ああ。」
何気ない会話のように聞こえるが、初対面でもあるし、何より姿形が確認できないのはなぜだろうか。
そう思いながらも「彼」ないし「彼女」にある質問を問いかけてみる。
「あんたは、誰なんだ?」
いつもならば、この言葉で夢から覚めてしまうのが常だった。しかし、何も変化が起きない。これはいつもの夢ではない?そう思考をめぐらせていると、
「じきにわかることだ。そしてその質問に対しての返答は黙秘だ。」
はぐらかされた。だが、一つだけ思っていたことがあったので、なるべく会話を続けてみることにするグラフェル。
「いつくか質問させてほしい。あんたはどうしていつも俺に会うんだ?今まで見てきたものは何だったんだ?一体、俺にどうしろと・・・。」
「そんないっぺんに質問しなさんな。順を追って説明するからよく聞いておけ。」
「ああ」
「まず、俺がどうしてお前に会うのか、だったな。それについてはもう答えは得ていると思う。次に、お前の見てきた景色、いや、夢か。あれは全部予知夢と思ってもらって構わん。まあ、伝えられることがあるとするのならば、あれは全部お前の未来の姿だ。」
「・・・・・・・・・・・・え?」
み、未来?こいつは、一体何を言っているんだ。未来・・・未来?そんな馬鹿な話が・・・・・・
「と、思うだろ?」
信じられないような顔をしているグラフェルに、嗜好が手に取るように分かっているのか続けざまにアイツは言葉を発する。
「これは冗談で言っているんじゃない。すべてが事実だ。焼け野原も、血の鉄分の匂いも、死体の山も、全部おまえがやったんだ。いや、今のお前に対してだけ言うなら、お前がやるんだよ。あの惨劇を、あの悲鳴を、あの炎も。・・・・・・だからそうさせないようにするために、「俺」はお前に、《夢》という形で警告したのさ。ま、あまり伝わっていないのは少々残念だがな。」
そんな・・・・・・。あれが、俺の・・・・・・
それは信じられない事実だった。確かに、自分と似てはいても、どこか他人のように感じるほかなかった。だが、自分自身が、まだ知らぬ未来で破滅を招く張本人になっていようとは、いくら彼でもそれだけは知りたくなかった。が、現実はそれほど甘くはないということを身をもって体験した。
「・・・・・どうすれば」
?
「どうすれば、その、破滅を回避できるんだ?」
少しの間、沈黙が流れたあと、グラフェルは恐る恐る聞いてみる。
「・・・そうだな、勇気をその剣に、覚悟を持って生命を断ち切らん」
「・・・・・・それは?」
「なに、予言、みたいなものだ思って聞いておけ。これはお前のためになるからな。」
そういわれるがままに、グラフェルはその者の言葉を一言一句聞き漏らすことなく甘んじて受け入れる姿勢をとる。
<月が怒りで黒く染まるとき、其は衣となりて敵を討つ。命の灯火が消えかける時、黒き力は剣となりて数多の敵を、その命を天に還さん。怒りが悲しみと憎しみを凌駕するとき、心無き月として君臨せしめん。>
その者がいう予言。月、怒り、悲しみ、憎しみ。そして、黒き力。
それが何を指すのかは彼にもわからない。ただ、自分の心に嘘偽りなければ、おのずと答えが見つかるはずだ、と。
ならば、グラフェルに出来ることはただ一つ。今はただ、力を研鑽するのみ。
ここから、本格的に始まります。どうか、温かい目で見守っていただけると幸いです