久しぶりの手合わせ
目が覚めたのは、倒れてから丸三日。ディランとミレーユの賢明な判断と応急処置によっていつも通りの状態に戻った。......だが、あの景色が脳裏に焼き付いて離れられない。
そこで、グラフェルはディランと久しぶりに手合わせをする。ディランは一瞬吃驚するが、すぐに笑顔になり、「やりましょう」ととても元気の良い返事が返ってきた。グラフェルに何が起きたのかは知らない。
だが、こうして少しでも体を動かしてくれることに安堵の表情を隠しきれずにいた。
二人は互いに一礼をし、自分の得物を手に掴み、構える。霊装≪コード≫を纏っての手合わせは、特殊なフィールドによって様々な障害物を作ることが出来る空間で行われる。これは、霊装者≪レヴナント≫同士の戦いに発展したときのための訓練に使用されるもので、周りの環境、足場、様々な条件を頭に叩き込んで戦闘に臨むことができる。
ディランは上段の構えを取り、一撃目からインパクトを与え、相手にうかつに手を出させないというスタイル。対するグラフェルは、左手に剣を持ったまま無の構えを取っている。相手がどのような攻撃を仕掛けてこようとも、それをものともしない精神力と武を極めたものがとるスタイル。
お互いに目を見据えたまま動かず、じっとタイミングを待つ。
「てやああああああああああああああああ」
最初に打って出たのはディランだった。魔剣グラムを用いての上段の強い一撃を放つ。
しかし、グラフェルはレーヴァテインを床に突き刺し、体を反転させ、ディランの右側へと躱す。
そしてすぐさま、右拳に魔力を乗せてディランの脇腹にめがけて殴る。が、ディランは剣でガードしており、ダメージは入らない。しかし、グラフェルの狙いはただ格闘戦で勝利するのではなく、相手を翻弄するといるヒットアンドアウェイが彼の主なスタンス。だがそれをディランは知っているため剣でガードした後すぐに横一線に薙ぎ払う。これはあてるのではなくあてさせないための薙ぎ払いである。
攻撃する場合、自分の得意な間合いに入ることで初めて攻撃と呼べる。だが、それ以外は何をしようとも攻撃という範囲にはなく、距離を取るという武に生きる者にとっては当たり前の措置である。
従って、ディランの薙ぎ払いは「攻撃」ではなく「距離をとらせる」が正解。
グラフェルはこの払いを難なく躱し、距離を取る。といっても、これは取らなければ相手の連続攻撃が待っているため、躱すだけで精一杯というシーンに至ってしまう。
そうならず、自分にも打ち込めるタイミングを見つけるためには、敢えてこれに乗ったほうが賢明な判断といえよう。
開いた距離をディランが埋めようと突っ込んでくる。それに対しグラフェルは自分の剣を手元に戻るように魔法をかける。それを見たディランは自分の剣に青い炎をのせ、敵めがけて放つ【蒼炎―バックファイア―】を発動する。この技の反動によって少し手前で止まったディランは、着弾したグラフェルの様子をうかがう。爆発によって見えなくなった靄はだんだん晴れていき、姿を確認できた。が、グラフェル本人は無事で、魔法で防御していた。
「......あれが、【ブクリエオブフルール・青薔薇】か。見事なまでの再現度と強靭な防御力だな。さすがにあれは壊せねーや。」
グラフェルが使った「ブクリエオブフルール」は、彼の魔力によって様々な花弁をつくり、敵の攻撃に応じて創り出す専用の防御魔法である。神としての魔力の大きさと、要領の良さでできた代物で、現在は彼しか作れないという欠点があるものの、攻撃の種類によって展開させるというオールラウンドな性能は非常に優秀である。今回、彼が発動した青薔薇は、自分の現在魔力以下の相手の魔力による攻撃、または魔法攻撃の遮断である。が、単純な物理攻撃ではこの青薔薇では防ぐことはできない。
それから一時間が過ぎ、ディランがダウンして終了した。お互いにベストを尽くしたためいきいきとした表情をだしている。
「いやぁ、参ったな。さすがにあれは俺でも無理ですよ。」
とほほと悔しさと疲れが出ている声を出すディラン。
「いや、さっきのはいい判断だった。ただ、もう少し使うタイミングをずらしたり、あのまま突っ込んでいくとか、考えなかったのか?」
アメとムチでビシッと的確なアドバイスをするグラフェル。
その後、お互いに握手を交わし、一礼をする。
「そろそろお昼にしましょ~」
ミレーユが大きな声で二人を呼びかける。
「「今行く」」ハモッた。
「ところで」
「ん?」
「もう、吹っ切れたんですか?」
「いや?まだだ。けどな......」
「けど......何です?」
「あ~~~~・・・・・・やっぱ何でもない」
「何ですかそれ」