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1章 売れっ子同人誌作家

夏、世間では、海水浴やキャンプに行くのが当たり前だが俺たちにとっては違う。そう、俺たち"同人誌作家"にとって夏は戦いの夏だ。



「相変わらず、すごい人数の人だな」



もうすぐ夜が明けようとしている薄明りの中、国際展示場には多くの人が列を作っていた。俺と同じような、同人誌作家や禁止されているはずだが、人気サークルの同人誌やグッズを狙って並んでいる徹夜組だった。



俺も他の同人誌作家と同じように、サークル専用の待機列に並んだ。



「ここに来るのは、一年ぶりか……」



去年の夏、同じように俺は国際展示場に来ていた。中学生の時イツキというネームで、絵を書き始めてネットに投稿していた。何枚も絵を投稿しているうちに「かわいい」、「絵がうまい!」というコメントと共に、ファンが増えていった。高校受験が終わり、一段落した俺は国際展示場で開催されている同人誌イベントに参加することにした。ネットである程度の人気があったし、売れるだろうと思っていた。しかし、現実は甘くなかった。確かに、同人誌は売れたが手で数えるほどだけだった。これにショックを受けた俺は、絵を描くこと自体をやめようと思った。



イベントから数日後だった。ユウナと名乗るユーザーから、一通のメッセージが俺のもとに届いた。それは、販売した同人誌に対する熱烈な感想だった。俺は、送ってくれた人に興味が出てダイレクトメールでお話をした。そこで分かったのが、同い年で、人気のコスプレイヤーで会場をウロウロしていた時に、俺の作品に一目惚れしたということだった。


作品を読んでくれる人がいることを知れただけで、絵を描く気力は湧いたが実際にイベントに参加するのは、また売れないんじゃないかと怖くて出来なかった。その事をユウナさんに話すと、「私が代わりに売り子しますよ!その代わり、新刊下さいね♪」というメッセージが送られて来た。イベントには、ユウナさんに出てもらい俺はひたすら絵を描くようになった。イベントも、ユウナさんの勧めで色々なイベントに参加した。そのおかげか、同人誌の制作費を補える程の人気同人誌作家になった。人気が最高潮にある時、ゆうなさんから一緒にイベントに出ないかと誘われた。色々と悩んだ末、参加することにし今に至るのだ。



「只今より、サークル入場を開始します!ゆっくりとお進み下さい!」



イベントスタッフが、大きな声で呼びかけると答えるように、サークル待機列の各所から歓喜の声が上がった。



「さて、今回はどこでやるのかな」



会場には、長机とパイプ椅子が並んでおり1長机半分が1サークルのスペースになる。



製本した同人誌を取りに行くため、搬入口に向かった。



「すみません、サークル月の星です」



搬入口では、数台のトラックが止まっていて大きなダンボール箱を降ろしていた。



「月の星さんですね、少しお待ちください」



薄緑の作業服を来た男性が、トラックから数個のダンボール箱を重そうに荷台に載せ替えた。



「はい、同人誌が200冊とキーホルダー、ポストカードですね」



今回作った同人誌は、今までの総集編なので1冊当たりが厚くダンボール箱が多かった。



「ありがとうございます」



時間は限られているので、足早に戻った。



「さて、準備を始めるか」



そう意気込んで、ダンボール箱を開け始めた。



「あの…すみません、サークル月の星のイツキさんですか?」



後ろから声をかけられ、振り向くと黒髪の女の子が立っていた。

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