純血の血
ブレイヴは休みで暇なため、ブライトに珍しい物でも拾ってこようと思い、近く山へ入る。山の物ならば、ブライトにとってはたいてい珍しい物になる。山は危険だから入るなと母に言われていたが、体力や体の丈夫さには自信があった。
今の季節、山は紅葉で赤に染まっている。山の果物や木の実もあり、たくさん土産にできるものがあった。ふと、木に人が寄り掛かっているのを見つける。ケガをしているようで口から血を流し、目をつぶっている。そんな人を放っておくわけにいかず近づく。
遠目ではわからなかったが、その人は人間ではなかった。とてもキレイな金髪を持つ、純血の少年。生きているのか確認するため、触れようとしたら思いきり手を弾かれた。
「触んな!」
「大丈夫か?こんなところで何してるんだよ」
「あんさんには関係ないことや!」
傷に響いたのか変な喋り方をする少年は顔をしかめる。しかし、すぐにブレイヴのことを睨みつけ、手を振る。
「ほら、わいは見せもんやない!さっさと行ってしまえ!」
「何でそんなにオレのことを嫌がるんだよ。オレはまだ何もしていない」
「あんさんが人間やから。わいは人間は嫌いなんや。わいらのことを見下して、わいらの存在を否定する。だからあんさんのことも嫌いなんや!」
少年は顔をそらし、ブレイヴが何処に行くのを願っている。しかし、ブレイヴはため息をつき、少年をさっさと担ぎあげてしまう。まさか、同い年ぐらいのブレイヴに持ち上げられると思っていなかったらしく、少年は唖然とする。
「あんさん、えらい力持ちやね。……ってか、わいをどうするや!」
「家に連れて帰って傷の手当をする」
「嘘をつくなや!わいのことを売るつもりやな!」
あまりにも信用してくれない少年に、ブレイヴは悲しそうにため息をつく。
「人間は純血を見下すっていうけど、オレは見下したりしない。むしろ、純血は特殊な能力を持っていて憧れる存在だった」
「何が言いたいんや」
「だから人間にはそれぞれ考えがあるってこと。少なくてもオレは純血を好きってことを信じてほしい」
ブレイヴの言葉に少年は苦笑する。
「あんさん、変な人やな……」
少年はブレイヴを信用したのか、暴れるのを止め大人しくなった。
家に帰り、少年の傷の手当をする。殴られたようで痣しかなかったので、ブレイヴにも治療ができた。傷の手当を受けながら、少年はブレイヴに話しかける。
「何でわいを助けようと思ったんや?何の得にもならんのに」
「その銀杏の葉みたいにキレイな髪を持っていたから」
銀杏というのは大昔に全て枯れてしまった黄色の葉を持つ広葉樹。そんなものに例えられ、少年は苦笑する。
「あんさんはほんまに変な人や」
「そんなにオレって変か?」
「そうや。……そろそろわいは、いなくならんといかん。あんさんの母親が帰ってくる頃やろ」
立ち上がり帰ろうとする少年の袖を掴み、ブレイヴは笑う。
「帰るところはあるのか?」
「ない……」
「じゃあ泊まっていけばいいだろ。母さんも純血差別はしない」
引き止められた理由が嬉しくて、少年の表情が綻ぶ。
「ほんま大丈夫なん?」
「オレが保証する。そういえば名前聞いてなかったよな。オレはブレイヴ」
「わいは玄人や」
珍しい名前にブレイヴは首を傾げる。玄人は苦笑し、机に名前を指で書く。
「わいの名前は古代文字で、誰も読むことはできへん。だからあんさんがわいの名前を知った第一号や」
「じゃあ第二号を紹介するよ!」
ブレイヴは嬉しそうに玄人の手を引き、隣の部屋に入る。そこにはブレイヴと全く同じ顔の少年がベッドに座っていた。
「ブライト、オレの友達を連れてきた!玄人っていうんだぜ」
「無理やり連れてきたの?」
「ハハハ、ブライトは勘がいいな。けど友達なのは間違いない。玄人、ブライトはオレの双子の弟なんだ」
紹介をされ、玄人とブライトは手を握る。ブライトのパジャマの隙間から見える手と腕は、異常なまでに痩せていた。気付かれたことに苦笑し、ブライトはすぐに手を引っ込める。
「醜いだろ。まるでミイラみたいで……」
「そないなことはない」
玄人がそう答えると、ブライトは嬉しそうに笑う。
「純血はいいね。病気なんてしないんだろ」
「そうや」
「うらやましい。ボクも純血に生まれたかった。それであの龍神さまみたいに差別しないで人を助けたかったよ」
ブライトの視線の先には、龍神が描かれた絵があった。龍神はとても優しい表情をしていて、その背後には龍が描かれているもの。玄人はその絵のリアルさと、神々しさに魅入ってしまう。
「すごい絵やな」
「うん。お母さんが隣の国から買ってきてくれたんだ。そこに描かれているのは先代の龍神さまなんだって」
龍神のようになるという夢を語るブライトの話を聞いていると、ブレイヴたちの母親が帰ってきた。気まずくて、帰ろうとしたが引き止められてしまう。
「何で帰ろうとするのよ。夕飯を食べていきなさい」
「いや、わいは……」
「純血だからって気にしてるの?だったら、そんな考え捨てなさい。この家では血なんて関係ないのよ」
半ば強引に椅子に座らせられ、食事が出される。とても美味しくて温かい食事に、玄人は思わず泣いてしまう。そんな玄人の頭を母親は優しく撫でる。
「ご両親はいないの?」
「気付いた時には一人やった……」
「行く宛てがないなら、この家に住みなさい。一人増えても大丈夫だから」
思わぬ言葉に玄人は嬉しそうに笑ったが、すぐに悲しそうな顔をする。
「ダメや。そないなことをしたら、迷惑がかかる……」
「子供がそんなことを言わないの!私でよかったら、たくさん甘えていいのよ」
母親の好意で玄人はブレイヴたちと一緒に暮らすことになった。
季節は冬になり、外で遊ぶことが少なくなったが三人でボードゲームを楽しんだ。いつも玄人が強くて、ブレイヴとブライトは一度も勝てていない。
「何でそんなに強いんだよ。ある意味卑怯だぞ」
「そないなこと言われても生まれつきや」
「いいよなぁ、そういう才能があって」
ブレイヴの言葉に玄人は苦笑する。
「そないなことあらへん。辛いことだらけやった。わい、今までは賭け事で生活していたんや」
「マジか?」
「そや。勝ってそのまま帰れる時は運がいい時だけ。たいていは純血やからって、殴られて金を取られていたんや」
玄人の言葉にブレイヴの動きが止まる。
「仕返ししようとは思わなかったのか?」
「しても、さらに痛めつけられるのがオチや。だからわいは諦めるしかなかった」
ブレイヴは不満そうな表情をする。
「悔しくないのか?」
「悔しいに決まっとるやろ。けど、わいには力がない」
「じゃあオレが力を貸してやる」
そう言ったが、玄人は首を横に振る。まさか断られると思っていなかったため、ブレイヴは目を丸くした。
「何で!」
「そないなことをしたら、ブレイヴにも迷惑かけてしまう」
「そんなこと気にするなよ。玄人は悪いことしているわけじゃないんだろ。なら、仕返しはするべきだ!」
ブレイヴが言いたいことが分からないわけではない。しかし、相手は大人。力が強いブレイヴでも勝てるとは限らない。
「ブレイヴ、わいはいいんや。わいは弱いままでいい」
「バカ野郎!」
頬を殴られ、玄人は倒れ込む。強い力に殴られ、口の端から血が流れた。玄人は痛みにムッとし、ブレイヴを睨みつける。
「何するんや!」
「玄人が弱いからだ。純血は特別な才能が持ってるからすごいと思っていたのに……。何でその能力を生かそうとしないんだ!」
ブレイヴは目に涙を浮かべている。そんなブレイヴに玄人は何故か嬉しくなってしまう。
「ブレイヴ、本当に力を貸してくれるんか?」
「もちろんだ。で、玄人の仕返ししたい奴は何処にいる?」
ブレイヴと相談し、すぐに行動することを決めた。
二人で賭博場へ入る。厳つい男たちの視線が気になったが、玄人はどんどん進んでいってしまう。奥に着き、玄人が男の前に座る。男は薄く笑い、トランプを出す。
「今日は友達と一緒に来たのか?」
「そうや。今日はきちんと払ってもらうで」
「まぁいいだろ。それよりお前の友達はどうするつもりだ?見学は認めないぜ」
男の言葉にブレイヴは困った表情をする。ブレイヴは賭け事などしたことがなかった。しかし、男はそのことが分かっているのか笑う。
「どうする?やるのか?やらないのか?」
「やる!」
ここで断ったら、玄人を守ることはできない。受け入れると、椅子に座るように言われる。ゲームはババ抜きだった。もっとも単純だが人を騙し、心を読むため、賭け事には最適だった。
ババ抜きを始めて、玄人は緊張していた。玄人は表情を抑えるのは得意だが、ブレイヴは見ている限り感情を抑え切れていない。ババ抜きには不向きな性格をしている。緊張しながらも、ブレイヴからカードを引こうと手を伸ばす。
ふと、ブレイヴが真剣な表情で見つめてきていることに気付く。その表情から引いていけないと分かった。すぐに違うものを引き、ペアでカードを捨てる。男もカードを引き、ブレイヴの番となる。ブレイヴは男の顔を見ながら、カードを引く。ペアとなり、捨てる。そんなことを続け、ブレイヴと玄人のカードは減っていく。
ブレイヴはババ抜きが苦手とばかり思っていたが、玄人よりもカードが減っている。負けたのは男の方だった。案の定、男は金を払わず玄人に危害を加えようとする。しかし、拳が玄人に届く前に、ブレイヴが素早く止めた。
まさか子供に止められると思っていなかったらしく、男は動揺を隠しきれていない。それでも諦めることなく、今度はブレイヴを攻撃しようとした。だが、ブレイヴの方が早く男を殴る。ブレイヴの力は予想以上に強く、男が音を立てて吹っ飛ぶ。ブレイヴは男を見下ろし睨みつける。
「前回と今回の負けの分を払え。それと治療費もだ」
男は怯えながら札を差し出す。それをもらい、ブレイヴは玄人を連れて、外へ出る。札を渡し、家に帰ろうとしたが玄人に引き止められてしまった。
「どうしたんだよ」
「ブレイヴ、自分の変化に気付いてないんか?」
「えっ?」
心当たりがあるらしく、ブレイヴは苦笑する。
「途中から玄人たちの心が見えるようになった。今でも分かる」
「……左目を隠して、わいを見てみぃ」
言われた通りにして、心が読めないことに気付く。玄人は真剣な表情で、ブレイヴを川へ連れていく。そこで水面に映った自分にブレイヴは唖然とする。黒かった瞳が左目だけ真紅に変わっていた。しかも黒い髪も部分的に銀色になっている。
「どういうことだよ、これ!」
「わからへん。……あんさん、ほんまに人間なんか?」
そう言われてもブレイヴは戸惑うばかり。母親は人間。双子の弟のブライトも人間。それなのに自分だけが純血あるいはハーフだとは考えにくい。父親については、母親は何も語らないブレイヴ自体、確かに力は強かったが、人間だと思っていた。混乱し、玄人に助けを求める。
「オレはどうすればいいんだよ!このことがバレたら……」
「大丈夫や。あの優しいママさんなら差別することはない。けど、とりあえずは隠しておいたほうがよさそうやな」
毛染めや瞳をかくすための眼帯を買うために町へ行く。眼帯を選びながら、値段の高いことにため息をつく。
「安いのだと、どうしてもダサいのしかないな」
「金ならわいが持ってるやんか」
「いや、自分で買う。それはお前が苦労して手に入れた金なんだから」
そう言ってブレイヴは値段を見ながら悩む。強情とも言えるブレイヴの対応に、玄人はため息をつき商品の中で一番かっこいい眼帯を買い渡す。
「ブレイヴはん、わいからのプレゼントや。お金が手に入ったのはブレイヴはんのおかげやし」
玄人の言葉にブレイヴは嬉しそうに眼帯を受け取り装着する。黒地に赤の線の眼帯はとても似合っていた。毛染めも買い終わり、ふとブレイヴが立ち止まる。そして店に走っていき、何かを買ってきた。
「何を買ってきたんや?」
「ピアス」
「へぇ、ブレイヴはんも着けるんか?」
玄人はピアスを着けていたが、ブレイヴは着けていない。不思議に思っていると、玄人は先ほど買ってきたピアスを渡される。
「くれるんか?」
「あぁ。眼帯を買ってくれたお返しだ。ずっと着けろよ」
「ブレイヴはんもな」
二人で笑い合い、髪を黒く染めてから家へ帰る。
家では珍しく、ブライトが立って料理をしていた。
「体調は大丈夫なのか?」
「うん。今日はやけに体の調子がいいんだ。夕飯はボクが作るよ」
ブライトは元々料理を作るのが好きで、体調がいいのなら止める必要はない。椅子に座ろうとした時、ブライトが怪訝そうに見つめてくる。
「兄さん、眼帯なんか着けてどうしたの?新しいオシャレ?」
「そう。かっこいいだろ!」
「うん、普通に似合ってるよ」
ファッションと聞き、納得したようで調理を再開する。
夕食が終わり、部屋に戻り寝転がる。まだ眼帯に慣れていないため、下手に歩くとぶつかってしまうからだ。ふと、玄人とトランプで遊んでいるブライトが見つめてきていることに気付く。何か言いそうな顔をしている。ブライトは部屋に篭りがちなためか、少し控えめなところがあった。
「どうしたんだ、ブライト」
「兄さん、何か隠してるよね?」
「べ、別に何も隠してない」
あまりにも意をついた質問に動揺してしまう。すぐに隠していることがバレて、ブライトに問い詰められる。
ここまで来て、双子の弟に隠しておけるわけがなく、大人しく眼帯を外す。赤い瞳に驚きを隠せないようだが、ブライトは羨ましそうに笑う。
「もしかして、オレたちのお父さんは純血なのかな?そうだったら、オレも兄さんみたいに変化するのかな?」
龍神に人一倍憧れているブライトにとって、父親が純血かもしれないということは大きな希望だった。隠そうとしたが真実を聞くために、毛染めを落として母親に会う。母親は驚いた様子だったが、微笑みブレイヴの頭を撫でる。
「やっぱり血が目覚めてしまったのね……」
「母さん、もしかしてオレたちの父さんって純血なのか?」
ブレイヴの問いに母親は静かに頷く。しかし、何の純血か質問しても答えてはくれない。
「なぁ母さん、何でそんな淋しそうな顔をするんだよ。オレが人間じゃなくなったのが嫌なのか?」
「嫌じゃないわ。ただ……」
母親は全てを言わないまま、何処かへ出かけてしまった。残された三人は部屋で話す。
「何で母さんは淋しそうな顔をしたんだろう」
「父さんのことを思い出したのかな?」
「そうかもしれんなぁ。にしても、何でハーフだということを隠してたんやろ。わいはそこが気になってしかたない」
そう言われてみればそうだ。母親は別に純血やハーフを差別している人ではない。ならばわざわざ隠すようなことではなかった。悩んでいると母親が帰ってくる。
「ブレイヴ、王様に呼ばれたから隣の国のガデスに行きなさい」
「何で急に?」
「いいから行きなさい」
一人で行くのは危ないというため、玄人と一緒に行くことになった。ブライトはガデスに行くというということで、お土産を頼んできた。
「兄さん、龍神さまの何かを買ってきてね」
「もちろんだ。どんなのがいい」
希望を聞き、出かける準備を始める。どんなことが起きるか楽しみだった。
ガデスに入り、辺りを見渡す。住んでいた国と同じような感じで歩きやすかった。
「土産を先に買った方がいいよな。王様の話がどんなに長いか分からないし」
「そやな~。買い忘れたら恐ろしぃ」
店でお土産を見ながら、龍神がどんな人物だったか考える。店に売っている龍神のグッズは龍を模られていて、人間の姿をしているものはないブライトからは、龍神は普段人間の姿をしていると聞いていた。
「人の姿をしていると問題あるのか?」
「龍の方がかっこええからやないの?」
「そうかもな」
ふと、絵画が売っているのに気付く。ブライトの部屋に飾ってあるものと似ているが描かれている人物が違う。鋭い目つきをしているが龍神らしく威厳がある。銀色の髪がとても美しく、ブレイヴはすぐ気に入った。
「これ土産にいいな」
「なぁ……この絵の龍神さま、なんかブレイヴはんと似てないか?」
「………」
言われてみれば龍神は銀髪に青い瞳。顔立ちも何処となく、ブレイヴと似ていた。だからといって、龍神が父親だとは考えられなかった。いくら変化したとはブレイヴは人間の姿をしている。龍神は純血とはいえ、別格の存在であり人間を妻に娶るとは思えない。黙っていると玄人がさっさと買って包装してもらってしまう。
「あまり考えすぎるのはよくない。まずは王様の話を聞かなきゃいかんな」
「そうだな」
玄人に土産をもってもらって城に入った。眼帯を着けていると外されるように言われる。王室では国王が玉座に座っていて、笑みを浮かべていた。
「っ……」
眼帯を外していることで国王の心が読めてしまう。龍神は実父であり、殺したのは国王。その話を国王がしようとしている。国王の笑みが勝ち誇っているように見えて、ブレイヴは怒りを覚える。ナイフを取り出し、国王へ向けた。
「父を殺した自慢をするんですか?」
怒りに任せ、ナイフを突き刺す。国王は抵抗することなく胸を刺される。床に倒れ込み、薄く笑みを浮かべた。再び心が読め、愕然とする。
国王は快楽で殺したわけではなく、狂った化け物として退治した。国王はそれを話そうとしていた。生き絶えた国王に縋り付き、涙を流す。しかし、これ以上いると国王殺しで捕まってしまう。償いをするためにも逃げなければなかった。王室を出て、玄人との待ち合わせ場所へ向かう。走りながらナイフについた血を拭きとった。玄人はすでに待ち合わせ場所にいて、焦っているブレイヴの様子に首を傾げる。
「そないに急いでどうしたん?」
「何でもない。早く帰ろうぜ」
玄人に説明することなく、ブライトのいる自分の国へ帰る。国王の殺害に使ったナイフをベッドの下に隠し、平常を装う。そして、ブライトへ土産を渡す。ブライトはとても気に入り、絵画を見つめて玄人と同じことに気付く。
「なんか今の兄さんと似ているね。銀髪なところとか」
「あぁ、龍神は俺たちの父親だった」
突然なことにブライトは戸惑う。しかし、ブレイヴは絵画を指差し静かに語る。
「龍神は国王に殺された。だから、俺たちは今の母さんに預けられた。俺たちを育ててくれた母さんは本当の母さんじゃない」
「嘘だ」
「何で嘘だと思うんだ。俺だって母さんが本当の母さんじゃないことは悲しい。でも、俺たちの母さんには変わりないだろ」
ブレイヴの言葉にブライトは頷く。
「そうだね。ありがとう」
「ブライト、俺は罪人になった。その理由はすぐに分かる。俺は家を出る」
「えっ……ボクを置いていくつもり?この家に留まってよ。兄さんと離れるなんて嫌だよ」
外に出られないブライトにとって、ブレイヴがいなくなることは大きな変化であった。ブライトは大切な弟であるが、その理由だけでは留まれない。
「連れていってやりたいが、お前の体は旅には耐えられ体じゃない。それに母さんを一人にするな。今まで俺たちを育ててくれたんだ」
「だったら!」
「文句を言うな!俺はここにいちゃいけないんだ。あとのことを任せたぞ、ブライト」
ブライトは泣きそうな顔で見つめてくる。しかし、構っている場合ではない。国王を殺したことを気付かれ、捕まる。そうしたら、母親やブライトに迷惑がかける。
準備ができ、家を出ていこうとした。しかし、玄人がドアの前を立ち邪魔をする。
「退けよ」
「あんさん、お金がないのにどうやって旅をするつもりや?今出ていっても、飢え死にするだけやで」
「うるさい!」
玄人が言っていることは間違っていない。しかし、金銭の問題だけで旅の出発を遅らせるわけにいかなかった。玄人を睨みつけ、言葉を選び言う。
「野生の動物でも捕まえて食べる」
「武器もなしにどうやって?あんさんは無計画すぎる。それに、あんさんは外の世界を知らん。死ぬのがオチやで」
「じゃあどうすればいいんだよ!旅に行くなって言うのか!?」
ブレイヴの言葉に玄人は笑みを浮かべる。
「全てを解決するのは簡単なことや。わいと一緒に旅をすればえぇ」
「お前とか!」
「そや。わいはこの国の住人じゃあらへんし、ずっと色んな国をまわってる。資金調達だって出来るで」
玄人の提案はいいものだったが、ブライト同様迷惑をかけたくないとブレイヴは思う。しかし、今はそんな甘いことを言ってられない。
「わかった。一緒に行こう」
振り返り、ブライトへ微笑む。
「母さんのことを頼んだぞ、ブライト。きっとまた会いに来る」
「兄さん……」
「そんな顔するなよ。一生会わないわけじゃない。また会おうな」
別れを告げ、母親に会うことなく家を出た。