盗賊討伐
2 盗賊討伐
国王からの依頼により、龍神とサブライムは王室へと向かう。サブライムは大会の優勝者として呼ばれたため、不本意ながら父である龍神と共に移動している。
龍神は青年の姿へなっていて、一目では誰も龍神とは気付かない。青い髪と瞳をした純血にしか見えない。龍神が歩きながら、サブライムへと話しかける。
「サブライム、今回はお前の実力を見せてもらう。ちゃんとした龍神として、お前が継げることができるかを判断する」
「勝手にしろ。我はいつも通りの戦いをするのみ」
王室に入るとそこには、数10人ほど体格のいい男たちがいた。その男たちに比べれば、龍神とサブライムはひ弱に見える。しかし雰囲気から男たちは、サブライムたちがただ者ではないことに気づき、顔を強張らせる。
しばらくすると、国王であるイクセスが現れた。いつもの国王の表情をし、声を発する。
「今回、君たちに集まってもらったのは他でもない。盗賊を討伐してもらう。見事、討伐することができたのならば、謝礼をさせてもらう」
他の者たちは、ほとんどが謝礼目的だった。しかし、サブライムは命をかけた戦いをすることにしか興味がなかった。そんなことをサブライムが考えていると気づき、龍神が眉間にシワを寄せる。
「おいサブライム、行為に人を殺すな。純血ということだけで反感を買うぞ」
「反感されようとも我には関係ない」
「お前……龍神になりたいのではないか? そんなことを言っている奴に、龍神の地位は与えられない」
龍神が何かとつけて、地位を与えようとしない気がして、サブライムは不快に思う。父親のことを無視して、イクセスに声をかけた。サブライムに気づき、イクセスは眉間にシワを寄せる。
「そんな顔をするではない。呼んだのは汝ではないか」
「私は国王なのだぞ。気軽に話しかけるな」
「ほぉ、リリーは特別ということか。国王とはいいな。自分の気分で相手を見下すこともできれば、友達のように接することができるとは」
嫌みを込めて言えば、イクセスが苦虫を嚙み潰したような顔をする。しかし、何かを思いついたらしく、不敵に笑う。
「まぁ、いい。お前には盗賊を討伐してもらえば、もう関わることはないだろう。リリーには近づくな」
「それは国王命令か?」
「どうかな。お前が決めればいい」
龍神の息子ということを知らないだけで、これほどまでに態度が変わることにサブライムは苦笑する。いや、よく考えれば龍神の息子と分かってもイクセスの態度は変わりそうになかった。盗賊のアジトを探すために、国王直属部隊を先頭にし、サブライム達は歩く。アジトの場所は既に見当がついているらしく、迷いの無い足取りだった。
そのことにサブライムは違和感を覚えている。アジトの場所の見当がついているのならば、直属部隊を動かす必要はない。それに龍神すら借り出すことがおかしいのだ。違和感は徐々に嫌な予感となり、サブライムは深くため息をつく。
「父よ、我は帰る。父がいれば、盗賊など10分であろう」
「どうしたんだ? 途中で気分によって変えることはいつもだが、戦いに関しては変えたことがなかっただろう」
「無駄話はいらぬ。ともかく、我は気分が変わった。あとは父に任せる」
そう言い龍神の引き留める声も聞かず、城へと戻る。城の中は静寂だった。いつもなら、城に仕えている者がいるはずで、物音が聞こえるはず。イクセスがこんな時に城を空けることも考えにくい。サブライムは走り、王室へと飛び込む。
いかにも不潔そうで盗賊にしか見えない男たちに、イクセスは口を塞がれているところだった。目の前の状況に、サブライムは思わず笑ってしまう。ゆっくりと歩きながら、男たちに喋りかける。
「我が思うに、汝らは直属部隊に仲間を潜入させていた。偽のアジトの場所へ、強い者たちを引き寄せ、国王を孤立させ、城の財宝を奪うつもりだったのだろう」
「その通りだ」
「ククク……」
サブライムが鼻で笑ったような笑い声を出す。何故、サブライムが笑うか分からず、馬鹿にされたと盗賊が怒りを露わにする。
「笑うな! 国王を殺されたいのか!」
「殺すならば、殺せばよかろう。その代わり、怨みの輪廻へと巻き込まれることになろう」
サブライムの難しい言葉の意味が分かっていないらしく、盗賊がナイフをイクセスの首へ突き立てようとする。それを阻止するべく、サブライムが得物を投げた。得物が見事に1人の盗賊の首と胴体を離別させる。
血が噴き出し服を赤く染める様子に、その場にいる者は恐怖に怯えた。しかし、サブライムはただ嬉しそうに笑う。
「許して欲しいか? 首を垂れれば、許してやろう。まぁ、我が許しても国王が許すとは限らないがな」
後に引くことができなくなった盗賊が、得物を持っていないサブライムへ斬りかかろうとする。そんな男たちの剣を避け、イクセスの元へ行く。見張りをしていた1人の男を殴り飛ばし、イクセスを縛っている縄を解く。ついでに壁に刺さっていた得物を抜き、盗賊たちの方へ向いた。
「我も得物を持った。これで立場が同等。さぁ、殺戮を開始しようではないか」
「くっそーーー!」
自棄になった盗賊が同時に攻撃してくる。その盗賊の首をサブライムが意図も簡単に刎ねた。
再び静かになった王室にサブライムの笑い声が響く。その狂喜に似た笑いに、イクセスすら恐怖を感じた。しかし、そのことを表には出さず、立ち上がる。
「サブライム、今回は感謝に値する。謝礼は何がいい?」
「そうだな。リリーでもくれるか?」
「やらん。というか、それはリリーの決めることだ。ふざけず、真剣に答えろ」
先ほどまで狂喜に満ちていたサブライムの表情が、いつもの無表情へと戻っていた。そのことに安堵しながら、助けに戻ってきたことに感謝する。
「お前が戻ってこなかったら、私は殺されていただろう。リリー以外ならば、何でも与える。それが私にできる精一杯の謝礼だ」
「我は何もいらん。我が欲しいものは汝には用意できないものだからな」
サブライムの言っているものが何か分からず、イクセスは眉間にシワを寄せる。
「国王に用意できないほどの物とはどんな物なんだ?」
「それは……汝に教えることではない」
「何だよ。強情だな」
「そのまま汝に返してやろう」
言い返しにイクセスが笑う。それにつられて、サブライムも少しだけ表情を和らげる。その顔を見て、イクセスが嬉しそうだ。
「お前も笑えるんだな」
「当たり前だ。ただ我は少ないだけ。喜怒哀楽など持っていても邪魔なだけだ」
「そんなことは無いぞ。楽しければ笑い、悲しければ泣く。そうすることで人は強くなる」
年下であるイクセスにそんなことを言われ、サブライムが笑う。
「その言葉、覚えておこう。それより、アジトに向かわせた者を呼び戻した方がよいのではないか?」
「そうだな」
イクセスがサブライムに背を向けて歩き出す。しかし、何かを思い出したように振り返る。
「先ほど何もいらないと言ったが、やはりお礼をさせてくれ。王として、感謝を忘れることは愚行へと繫がる」
「……したいのなら、すればいい。まぁ、用意すれば受け取ることもある」
「偉そうだな」
苦笑しつつ、イクセスは再び背を向けて歩き出した。