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台無しの決意

「ふわぁ~」

 あくびを押さえて外に出ると、そこにはまだ誰もいなかった。

 まぁそりゃそうだ。みんなまだ寝てるだろうしな。

「ん?」

 ふと机のパネルを見ると、「暇だろうから、遊具をオープンしといたよ」とメッセージが表示されていた。

「遊具? オープン?」

 首をかしげていると、続々と他のメンバーも起きてきた。

「ほはひょ~」

 あくびをしながら言う鈴ヶ森。うん、おはよう。

 ええと、1、2、3、……数は……揃っている。

 ――少なくとも、『悪魔』は動いていないってことか。

「早いな小川。……妙な顔をして、どうした?」

 八幡不知が朝を感じさせない理知的な顔つきと、それに似つかわしくない寝癖だらけの頭で言う。

「ああ、なんか遊具がオープンしたとか書いてるが……」

「遊具だぁ?」

 今度は犬鳴峠が眠そうな目で言った。眠そうな目は人のこと言えないけど。

「どこにも見あたらねーぞ」

「まぁ、そうだよな……」

 いつものテーブルの他は、四角いパネルに覆われた壁が昨日と同じままあるだけだ。

「あ、わかったかも~」

 そう言ったのは、朝からバッチリ髪を整えていた泉だ。彼女は壁のパネルに近づくと、そのパネル下端の縁を掴み、一気に引き出した。

「当ったりぃ」

 にぃと笑った彼女の歯から、矯正のブリッジがきらりと光る。

「……いっけね」

 気にしているのか慌てて口元を隠す泉。いや、どっちかと言うと、その素の口調の方を画すべきだったんじゃ……。

「なるほど……引き出しだったわけやな」

 泉が引っ張り出した1メートル四方のそのパネルの裏は、奥行きも1メートル程度の収納になっており、中には確かに色んな遊具が収められていた。

 後ろから見た限り、バドミントンのセットやソフトバレーのボールなどがあるようだ。

「遊具より、他のパネルも開くか調べるべきだろう」

 八幡不知の言うとおりだ。パネルが収納なら、他にも何か入っているかもしれない。

 そんなわけで、全員で手分けしてパネルが開くか確認したところ、反対側のもう一か所だけ開いた。

 そこには、保存食が詰まっていた。乾パンとシリアルを中心に、調理をせずに食べられるものばかりが揃っている。菓子も多い。水はないがコップがいくつかあり、水は部屋から汲めといったところか。

「これを食えゆーことかいな?」

「あっ、『きのこの森』もありますよ! 『たけのこの林』は無いけど当然ですね」

 そうか累ヶ淵はきのこ派か。っていうかたけのこないのかよ……。

「んー、野菜はないんだね……」

 鈴ヶ森は残念そうだが、不満の声を上げるほどではないようだ。まぁ、シリアルにはドライフルーツも入ってるし、ビタミンが足りなくなることはなさそうだが……。

「なんでもいいや、昨日の夜は何も食ってねえから、ハラへったぜ。なんでもいいからオレにも食わせろや」

「待て!」

「ああ?」

 ガンを飛ばす犬鳴峠と、それを涼しい顔で見つめ返す八幡不知。

「……そもそもこれを食べて大丈夫なのか?」

 その言葉に、全員の顔が曇る。

「……毒が入ってるって言いてえのか?」

「かもしれない、だ。こんな所に他人を閉じ込める連中のやること……少なくとも、穴が開いていないかなどは調べるべきだろう」

「さ、さすがぁ……そこまで考えてるんだねえ」

 鈴ヶ森が間の抜けた声で言うが、実際、この場のメンバーはある種の信頼を八幡不知に覚えているように思う。この僅かな時間でリーダーシップを取れるのは、正直に言ってすごいことだ。

 ただ、それは諸刃の剣でもある。もし、八幡不知が『悪魔』なら、言われるがままに動いた結果、メンバーが全滅させられてもおかしくないということだからだ。

 が、そんな八幡不知を憎々しげに睨み返すのが犬鳴峠。

「……フン、気に食わねえな。リーダー気取りかよ」

「ちょ、ちょっとやめましょうよぉ~」

「まぁまぁ」

 険悪な雰囲気になりそうなところを、割って入ったのは金助だった。

「せやったら、ワイが食ってみたるわ」

「お、おい!」

 犬鳴峠すら止めようとしたにも関わらず、金助は構わずシリアルを豪快に口に流し込んだ。

 勢いがつきすぎてむせていたが、その後は急に笑顔で、

「な?」

 と言った。

 何が「な?」なのかは誰にもわからなかったが、少なくとも諍いはそれで止まった。

 みんな腹を空かせていたのだ。八幡不知が止めるのも聞かず、累ヶ淵や泉まで食べ始めている。というか累ヶ淵、菓子ばっかり食ってる……。まぁ幸せそうだからいいか。

「……仕方ない。何か盛られていても、俺は知らんからな。……だが、食べ終わったら、話がある」

「……」

 まぁ、そう来るわな。

 テーブルについて簡単な朝食を済ませた俺たちは、そのまま話を始めた。

「なあ、話ってのは、『悪魔ゲーム』についてだろ?」

 長引かせてもアレだ。世間話のように切り出してみる。

「……ああ」

 が、途端に空気が重くなる。

「……これは想像なのだが」

「いいからさっさと言いやがれ」

「……そうしよう。この『悪魔ゲーム』とやらは、人狼ゲームが元になっているのだろう? で、あれば、『占い師』や『霊媒師』などが居てもおかしくはない……そうは思わないか?」

「え? 『占い師』って?」

 鈴ヶ森がマイペースに言う。

 ……だが、それは……!

「気を付けて!」

 俺が止めに入るよりも早く、大声を上げたのは、累ヶ淵だった。

「あっ、その、あの……」

 彼女は、自分が声を上げた事に驚いているようである。

「す、すまん。これは私の不注意だった。先に注意喚起すべきだったのだ」

 頭を下げて謝ったのは八幡不知。

「ふぇ?」

 しかし、謝られた当の鈴ヶ森はわかっていない様子だ。

「いいか。これからは、自分の知らない役が出てきたとき、迂闊に反応してはいけない。役職を知らないという事は、それだけで自分の役を推理されやすくなる」

 そうなんだ。

 これで鈴ヶ森が『占い師』の可能性は薄い。その役の説明文しか、投函されていなんだからな。そうなると、『悪魔』か『村人』の可能性が高くなる。

「なぁるほど?」

 明らかによくわかっていない顔で鈴ヶ森が言う。

「フン、案外、その女のも演技かもしれねぇぜ」

 ……もちろん、その可能性もある。

 あるが……メリットが微妙だ。もし実際に『悪魔』なら、疑われやすくなるのだから意味がない。逆に『村人』なら、『悪魔』からしたらあと回しでいい。正体を見破る『占い師』のほうがよっぽど危険だ。

 ――と、そこまで考えて、思い至った。

 ……そういうことか。

「……」

 そもそもこの『悪魔ゲーム』に『占い師』は「いない」。

 それに相当するのは『賢者』だ。

 だが、その役の開示は、その「当人にしか行われない」。

 ――『悪魔ゲーム』とはよく言ったものだぜ……。

 確かにこれは人狼ゲームの亜種だ。

 相手が「人狼ゲームを知っていること前提」の。

 人狼ゲームに存在するどの役が含まれているか知らされていない中、より疑心暗鬼になりやすいよう、よりボロを出しやすいようにカスタマイズされている……!

 人狼ゲームの知識で、役名を出すという事は、『悪魔ゲーム』の本当の役を知らないということ。その逆に、うっかりこのゲームの役名を出せば、その役だと宣言するようなもの。

 たとえばもし、ここで『占い師』を名乗った者がいた場合、少なくとも『賢者』にはそれが嘘だとわかる。

 これは、人狼ゲームなら狼の戦略として『占い師』を騙るのはオーソドックスだが、『悪魔ゲーム』ならそうはいかない。

 そんな役職がない事を知っている人間からすれば、自分が狼だと言っているようなもの。

 何しろ、人狼ゲームにおける、『村人』を守ってくれる『狩人』が含まれている保証は無いのだ。

 しかも『狩人』に該当する役職は「名乗りだすことが出来ない」。

 名乗ろうものなら、最優先で『悪魔』に殺されてしまうからだ。

 つまり、『狩人』に守ってもらうために、『占い師』を名乗るという、人狼ゲームのセオリーが使えない。

 役の名前を変え、開示しない人狼ゲームがこんなに面倒な事になるのかよ……!

 これは下手に喋り出せないぞ……。

「お詫びと言ってはなんだが、代わりに情報を開示しよう。俺は『村人』だ」

 八幡不知がそう言ったからだ。

「それが何でワビになんだよ。人狼ゲームなら。誰だって『村人』だって名乗るだろうがよ」

「……ち、ちがいます。そうとは限りません」

「あっ!」

 累ヶ淵の言葉に、俺も思わず声を上げてしまっていた。

「や、役なしのことを『村人』というかすら、現段階ではわからないんです。……だから、それを最初に発言するのは、勇気がいることです」

「で、でもぉ、『悪魔』だって、『村人』を襲え、くらいは知らされてるんじゃあないですかぁ? そもそもルール説明でも『村人』って言ってましたしぃ……」

「ち、違います。「全く能力の無い役」があるかすらわからないんです。その役になった人しか。『村人』だと説明で言っていたとしても、実は何らかの権限を与えられているのかもしれないんです。だ、だから、名乗ってもし違ったら、同じ役の人には簡単に嘘がわかってしまうんです……」

 ……あ、こりゃダメだ。

 その時、「わかって」しまった。

 いや、累ヶ淵がボロを出したとかそういうことじゃない。

 むしろ、感心したくらいだ。

 俺には、そこまで考え付くことが出来なかった。

 それに、切り出した八幡不知もそこまで考えてたって事だ。

 こいつらと、知恵比べしても、俺は「勝てない」。

 パーティの偉大なる魔法使いエルビッヒに知恵を借りっぱなしだったツケが来たな……。

 ――ともかく。

 俺は、そもそも大きな思い込みをしていた事に気づいた。

 なに、「ゲームに参加しようとしていた」んだろう、と。

 そうなんだ。

 その必要は「ない」。

 そこから先は、みんなの会話を適当に流していた。

 どうせ、このルールなら、全員『村人』を名乗るほかないんだ。そしているかどうかもわからない『狩人』をアテに、『占い師』は『悪魔』を探す。『狩人』はいるかもしれない『占い師』を守る。誰かがボロを出すのを待ちながら、ハラを探るだけだ。

 そんな話を打ち切ったのは、金助だった。

「……自分らな、ええ加減にせえや」

「……どういう意味だ?」

 八幡不知が睨むように見据える。

「そのまんまや。何、雰囲気に流されとんねん。お前ら本気で殺し合いするつもりか」

 正論だった。だからこそ、全員が息を飲んだ。

 俺たちは、まだ「閉じ込められただけ」だ。

「今、差し当たって命の危険はないやろ。ワイには、みんながまるで殺したがってるように聞こえるで」

「……そう楽観的になれるだろうか? 参加者がそう言いだすことくらい、主催者は読んでいると思う。ここまでの仕掛けをしたんだ。おそらく……殺人に駆り立てるための、何かの手を打ってくる」

 それも正論だった。

 閉じ込めた「だけ」で済むはずがない。

「だとしたら、その時に考えればええやろ。そもそも会議は夕方のはずやんか。何で今はじめてんねん」

「……そう、だな……それも一理ある。正直なところ、会議までに少しでも多く情報を集めたかったのだが……」

 八幡不知の言い分もわかる。あまりに不確定情報が多すぎる。一晩たった今のタイミングで情報を持ち寄るのは悪い考えじゃない。

「そんなに知りたきゃ教えたるわ。ワイは『占い師』や!」

「……!」

 咄嗟に全員の表情を見たが、一様に驚いており、そこから何かを読み取ることはできなかった。

 ……だが、これでわかったことがある。

 金助は、嘘をついている。

 このゲームに『占い師』はいない。『賢者』のはずだ。

 それを知っているとしたら、俺か『賢者』本人だけ。嘘をついている前提だとすれば、『狩人』に守られたがっているということでもある。しかも、このゲームに『狩人』がいるかはわからないのだから、『悪魔』に確実に狙われることになる。

 つまり、それでも『占い師』を名乗るなら、『悪魔』の可能性が高い……!

「……バカなことを……!」

 八幡不知が絞り出すように言ったのも、もっともだ。

「ええからええから。そんな事より、遊具あるんやろ? それやろやないか」

 金助は立ち上がると、周りの視線などどこ吹く風、遊具の引き出しへ向かって行った。

 本当に何を考えて……いや、この流れは悪くない。

「乗った!」

 俺も、何か遊具が使えないか調べてみよう。

「そ、そう……ですね。私も、も、もう少しお菓子食べたいし……」

「確かにこのままだと頭がおかしくなりそうだしぃ……それもいいかもしれませぇん」

 続々と席を外していく一同。

 結局、全員で遊具を漁る事になった。

「おっ、サッカーボールあるやないか」

「あってもどうすんだよ……リフティングくらいしかできねえだろ」

「わぁ、トランプがあったよ! 大富豪しない? あ、みんなのとこだと大貧民?」

 トランプでここまでテンション上げれる鈴ヶ森がすごい。誰も参加しようとしなくてリアルに凹んでたけど。

 ……ん? トランプ?

 文字通り『切り札』が手に入ったかもしれない。

 俺は、トランプをそっとテーブルの下に忍ばせた。

 よし、ならもう、準備万端だ。

 この茶番を終わらせるとしよう。

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