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それはそれとして、どうせ台無し

 話し合いは全く何の成果を出すことも無く、9時が近づいたので、俺たちは部屋に戻る事になった。

 その途中、一人立ち尽くしている鈴ヶ森が見えた。

「どうしたんだ? あと10分もしないで消灯の時間だぞ」

「そ、その……今更怖くなって」

 言うや否や、彼女はその場にぺたんとへたりこんでしまった。

 マイペースにもほどがあるが、これはまずい。

 このままだと彼女は殺される。最悪、俺だけ残って立ち回る分にはいいけど、彼女は無理だ。

「ちょっとゴメンな」

「へ?」

 返事も聞かず、鈴ヶ森をそのまま持ち上げて、彼女の個室まで運んでいく。

「えっ、えっ、えーっ!?」

 いわゆるお姫様だっこだ。

 さしもの鈴ヶ森も顔を真っ赤にして騒ぐが気にしない。

 こっちは本当にお姫様をだっこしたことがある身だ。本格派のお姫様だっこである自信はある。あの姫は、「妾をだっこするなど当然の事!」とか言ってたけど。

「あ、あの、これ、その……」

「いいから。部屋は向かいのあそこだよな」

 というか、そこ以外のドアが閉まってるからな。

「う、うん」

 時間も無いので、足早に向かって行く。

 別に時間切れになって、仮に武器を持ったやつが何人出てこようが別に大丈夫だが、鈴ヶ森を巻き込むのは避けたい。

 と、そこで――


 ぷぅ~、と音がした。


 今の音は……その……まさか。

 まさか……とは思いたいが、においが……その……。

「……」

 そして、この真っ赤な顔である。

「……忘れて」

「……ナ、ナンノコトカナー」

「……ならよし」

 そのまま、さっきのあれを無かったことにして部屋に入り、彼女をベッドの上に横たえる。

「……あ、ありがとう」

「気にすんな。そんじゃ俺はそろそろ……」

「あ、あの!」

 意を決したように口を開く鈴ヶ森。何だ?

「大川くん」

「違うねえ……小川だねえ」

「あっ、ご、ごめん」

 まぁ、他があんなに目立つ名前な中で俺だけ普通の名前だしな。

「で、なんだ?」

「……もう、忘れたよね?」

 し、しつこい。

「ナ、ナンノコトカナー……」

 じっとり見つめてくる鈴ヶ森の視線を背に受けながら、自室に帰ろうとしていると――

「あ、あの……」

 か細い声がした。

 それはあまりに小さかったので気のせいかとも思ったが、どうやら累ヶ淵が呼んだらしい。

 実際、彼女の部屋の前で、ドアは半分開いていた。

「呼んだか? 累ヶ淵」

「う、うん……」

 薄暗い部屋の奥から、今度は聞き取れる程度には返事が帰ってきた。

 そして、声から少し遅れて気弱そうな顔がひょっこり現れる。

「どうした?」

「も、もうすぐ出歩いたらアウトの時間なのに……小川くんは、凄く落ち着いてるから、き、気になって……」

「え?」

「そ、それに、こ、こんな、事態に巻き込まれてるのに、全然平気そう……」

「あ、ああ……」

 言われてみるまで気づかなかった。正直、ギロチン台に首を乗せられてるとか、魔王軍十万の軍勢に囲まれてるとか、そういう差し迫った危機でもなし、そんなに危機とも思ってなかったな……。

「まぁ、死にかけたことなんていくらでもあるし、今回は全然マシだ。あんまり気にしすぎるなよ。すぐ出れるって」

「そ、そうかな……わ、わたしは無理……たとえ、死にかけた経験があったとしても……」

 累ヶ淵は、どこか疑わしげな視線を向けて来る。

「大丈夫。俺を信じろ」

 サムズアップ!

「……あれ?」

 いつもなら、これでみんな笑顔になってくれるんだが……彼女は表情を曇らせたままだった。

「……そんな事、急に言われても……」

「……あ、ああ。すまん」

 そうなんだ。俺はこっちじゃ、別に勇者でもなんでもない。何の実績もない。

 そりゃ、そんなヤツを信じろと言われても困るわな……

「と、とりあえず、早く寝ろよ」

 取り繕うように言い残し、俺は自室に戻った。

 その背中に、最後までどこか……疑いの視線が向いていたように思う。

 自室に戻り、一息ついたら、ドアがロックされる音がした。それから数分後、そのドアから今度はガタッと音がする。

 郵便受けを覗いてみると、封筒が入っており、更にその中には紙切れが入っていた。

「ん……? 『ドッペルゲンガー』……?」

 紙切れに書かれていたのは「あなたは『ドッペルゲンガー』です。村人でも悪魔でもありません。あなたは悪魔が全て倒されるか、悪魔が村人を食べつくした際に生き残っていれば勝利です。あなたは正体が見抜かれると死亡します。そのため、『賢者』に正体を見抜かれたら、ゲームオーバーです。なお、この紙は部屋を出る前にトイレに流すように。破れば死」という文章。

「……くそ……! なんて性格の悪いやつらだ……」

 つまり、参加者に説明していない『役(、)』があるって事だ……!

 人狼でいうところの『妖狐』が『ドッペルゲンガー』で、『占い師』が『賢者』か……。

 『占い師』は、毎晩一人を指定して、相手が狼かを知ることが出来る役職だ。

 つまり七人のうち、『ドッペルゲンガー』と『賢者』を除く五人が、村人と『悪魔』になる。

 おそらく人数から考えて、『悪魔』は一人……最悪二人。人狼のオーソドックスなルールなら一人がベストだが、殺しを見るのが目的なら『悪魔』を増やしててもおかしくない。

「うーん……参ったな……」

 しかし、『ドッペルゲンガー』かあ……。

 もし『悪魔』が、刃物を渡されるなら、それを使って鉄の扉くらいぶった斬れる自信があるから、『悪魔』の方が俺には都合が良かった。

 鉄のドアが素手で破壊できるかは、やってみないとわからない。

 不可能ではないと思うが、ここに連れてこられた時に意識を失ってるのを見るに、睡眠薬は俺にも効く。ガスでも出されると面倒だ。最悪、無呼吸でも一〇分近くは動けるから、詰んでるというほどではないけど……。

 それに、さっきの累ヶ淵は、俺の平気そうな態度を疑ってたように見えた。

 もし彼女が『賢者』を引いていたら、いきなり俺を占ってもおかしくない。

 だとすれば、初日からゲームオーバーもありうる。

 起きてさえいれば何が来ても迎撃できるだろうから、とりあえず起きとくか。

 ……いや、ゲームは明日からだったっけ?

 『悪魔』が今日動けるかの解釈の余地が残ってるな……。

 よし、誰かが抜け出してないか様子を見て今夜は粘ろう。

 ドアは防音だが、振動の全てを消せるわけじゃない。床に耳を当てて振動に意識を集中させれば、外を出歩いている人間がいるかもわかるはずだ。逃げ足の速いゴールデンミニゴーレムを倒した時を思い出せ俺……!

 そんな感じで気を張り続けて――気が付いたら、朝だった。

 うん、普通に寝てた。結構早い段階で睡魔に負けたらしい。

 ……が、特に何事もなく、朝を迎えていた。

 ……まぁ、結果オーライ。

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