台無しの参加者
そうだそうだ。席に戻って寝たんだ。
で、今。気が付いたらこんなとこに閉じ込められてたわけだ。
こんなところ、というのは、正確にどんなところというのがわからないからだ。
目の前にあるのは、鉄の扉。
それに周囲を取り囲む鉄、鉄、鉄。黒鉄の個室だ。
うん、一番近いのは、監獄か?窓すらなくて、洗面台にトイレ、ベッドと机だけの構造も、まさに監獄って感じだ。でも、監獄に入れられるような心当たりはないしなあ。
あと、鉄の扉と言っても、鍵はかかっておらず開いていた。まぁ、内側からかけられる鍵だからどっちにしろ開けられるが。
扉にはよく見たら郵便受けのように外からものを入れられる箱があったが、中身はカラ。
とりあえずドアを開いてみると奥には広間というか、大きなテーブルだけ置かれた開けたスペースがあった。窓はなく、正方形の壁パネルに天井の灯りが淡く反射している。
そして、そこには人がいた。
一人や二人じゃない。ひいふうみい……男女バラバラの六人か。
全員学生服だし、年齢も高校生くらいに見えるが……。
「よう、ここがどこか誰か知らないか?」
俺はとりあえず一番近くにいて、目を丸くしていた男に声をかけてみた。
「あー?」
伸ばした金髪で長身の、いかにもバンドマンという感じの男だった。
「お前……も、知らねえってことか」
「ああ、まあな。ってことは、みんな知らないわけだ」
見渡すと、ドアが壁際に三つずつ、俺から見て左奥に一つ、右奥に一つ見えた。
出入り口が一つはいるだろうから、金髪の口ぶりからして残り七つは個室ってわけか。
「出口は……」
「ああ? 開いてねえよ。つい今しがた開けようとしたけどよ、鍵がかかってやがった。……んで、アンタんとこのドアが残ってたから向かってたんだ。そしたら――」
「俺が出てきた、と。ってことは閉じ込められてるってことか」
うわー、螺旋の塔で閉じ込められたの思い出すわ……。あれめんどくさかったなあ……。
「そうなるな」
割って入るように言ったのは、黒髪を眉の前まで伸ばした眼鏡の男だった。第一印象としては、とても勉強が出来そうだ……と誰もが思うだろう。顔つきには精悍さと意志の強さが見て取れた。
その男の言葉の後ろでは、女子たちの悲鳴にも似た叫びが聞こえたが、それも無理はない。
閉じ込められるなんて、俺でもなきゃ、そうそうあることじゃない。
「……ともあれ、状況はわかった。一旦整理したい。みんな集まって情報を出し合わないか?」
男は冷静に言う。金髪が仕切りだした黒髪に文句を言ったが、別に代案があるわけでもなし、みんなそれに従った。
ちょうどテーブルには椅子が七つ。椅子と言っても、新幹線の椅子のように背もたれとひじ掛けがあって床面に固定された、テーブルには似つかわしくない鉄製のものだ。
それに思い思いに腰かけて行き、俺も右端の席に座る。最後に余ったお誕生日席に黒髪が座り、話を切り出した。
「……それでは、言いだしっぺの私から自己紹介をしよう。私は八幡不知守生。都立孔明学園三年だ」
淀みなく言う。一コ上かー。堂々としてるだけあるな。まぁ、精神的にはタメだけどさ。
「んじゃ、次はワイが行くで」
八幡不知が促す前に、その左隣の猿顔の男子が手を挙げる。おかげで余計な緊張が走ることも無かった。彼が言わなかったら、右隣のオレが手を挙げるつもりだったけど。
「ワイは三途河原金助。市立国橋学園の二年や。サッカーやっとるで」
「……国橋学園と言えば、都内だろう? 引っ越して来たのか?」
「……そこツッコむ? ワイは生粋の江戸っ子よ。なんや、ガキんときにキャラ付けして人気者なろう思て始めたら、やめ時見失ってん」
悲しい告白だった。
それはともかく――
「ええと、じゃあ次は私かな……?」
次にその左隣の女子が手を挙げて言った。おでこを出したロングヘアという髪型だけ見れば、活発さを感じさせそうなものなのに、その表情は柔和そのもので、この異常事態を分かってないんじゃないかというくらい朗らかだ。
「私は、鈴ヶ森刑音。都立中原高校の二年です」
同い年かあ。一コ下くらいに見えるけどな……って、精神年齢的にはそうなるのか? なんかもうわけわからなくなってきた。
が、その隣は、更に幼く見える女子が居た。黒髪パッツンのツインテールに、大きなリボンの小柄なその女子は、どこかけだるそうに口を開いた。
「あの~……あたしはぁ、秋葉原工業高校一年のぉ、泉ですぅ」
甘ったるい声だが、不思議と不快感はない。
金助なんか鼻の下を伸ばしてるくらいだ。
というか、高一なのか。どう見ても中学生だが。
「泉というのは名字か?」
八幡不知がごく自然に切り出す。どちらかと言えば、場の空気的にはこんな乙女チックな子が工業高校って事に向いていたから、冷静な奴だなホント。
「せんぱぁい、聞きにくいこと聞くんですねぇ……名字はぁ、地獄谷ですぅ……だからぁ、みぃんな泉、って呼んでね」
地獄谷と来たか。そりゃ、名前で呼ばれたがるわけだ。
「はぁい! イズミちゃんね!」
金助は素なのかキャラなのか、大げさな声を上げた。
彼の声に、引いて小さく「ひっ」と言ったのは、泉の向かいに座っているちょっとポッチャリしたショートカットに眼鏡の女子だった。
それで注目が集まって、なし崩しにその子が自己紹介を始めた。
「あ、あの……その……累ヶ淵小皿です……真中高校一年……です」
絵に描いたようにおどおどする累ヶ淵。こんな状況じゃ無理もないが……。
「ふぅん、同い年! よろしくねぇ~」
泉がぱたぱたと手を振り、累ヶ淵はおずおずと手を振りかえす。
「……チッ……じゃあ次は俺かよ」
面倒くさそうに頭をかきながら言ったのは、俺の隣に座った金髪。その口ぶりとは裏腹に、人を苛立たせるというより、どこか映画スターのように絵になる仕草で、嫌味がなかった。
「俺は……あー、犬鳴峠轟。唐立高三年。……これでいいかよ?」
誰も悪いとは言ってないが。
しっかし、みんな変わった名字してんな。俺だけ浮いてないか?
「最後は俺か。俺は小川久。野原高校二年だ」
「なんや、お前だけフツーの名字やな。逆に偽名ちゃうんか」
「なんでだよ。俺からみりゃ、みんなの方がよっぽどペンネームみたいだぞ」
「ま、それもそやな」
「そんなことはどうでもいい。それより、ここまでの情報でわかった事がある」
金助を制したのは八幡不知。早くも、この場は彼が完全に仕切っている。
「まず、我々は全員違う高校の人間ということだ」
「それが何だってんだよ」
犬鳴峠の言葉は嫌味たらしかったが、他の人間も思っている事は一緒だっただろう。言ってくれた、というような空気を感じた。
「とても重要なことだ。みな、学生服というところから見て、ここで目を覚ます前は学校だったとみていいな? 違う者が居たら言ってほしい」
誰も、答えなかった。
「そういう事か……」
犬鳴峠がどこか悔しそうに言う。確かに俺もすぐには思い至らなかったけど、八幡不知が言いたい事はわかった。
「え? なに? どういうこと?」
鈴ヶ森は左右に顔を向けて答えを乞う。とりあえず隣の金助はわかってない顔してるから見てもムダだぞ。
「えっとぉ、それだけでも、わかることっていくつかあると思うんですぅ」
「なんや? 何がわかるんや?」
「それはぁ、きっとヤワティーに聞いた方がいいとぉ、思うなあ」
「ヤ、ヤワティーて……」
「呼び名は何でも構わん。……ともかく説明しよう。まず、高校が違うという事は、我々をここに集めた者は、一人ではないという事だ。とても一人でそんな事はできまい」
全員の息を飲む声が聞こえた。
うん、そうなんだ。状況から見て、俺たちがここに集められたのは間違いない。
「私は睡魔に襲われて保健室で休んでいたはずだが、目覚めたらここだった。食事に睡眠薬でも混ぜられたのだと思うのだが、いずれにせよ運び出すには、物理的なものもあるが、学校から生徒を運び出す不審さをとっても、並みの苦労ではあるまい」
「言われてみればせやな。同じクラスとか同じ部活とかなら、ダマして集める事が出来るかもしれんが……」
「も……もしかしたら……私たちは眠らされたんじゃなく、意識を失ったんじゃないでしょうか……?」
おずおずと口を開いたのは累ヶ淵。
「え? それに何か違いがあるの?」
屈託なく言う鈴ヶ森。若干、何も考えてないんじゃないか……とも思ってしまうくらいマイペースだ。
「い、いえ? そんな大したことじゃなくて……ただ、もしそうなら、救急車に偽装すれば簡単に運び出せるかな……って」
「ふむ。その線はありそうだな。だが、だとしても、それなりに大がかりな準備がいる。組織的な犯行とみるべきだろう」
「そ、組織的な犯行……って!」
累ヶ淵は気絶しそうなくらい目を見開いて悲鳴めいた声を上げた。
「もう既にこの時点で拉致監禁罪だろう。今更、犯罪ではない可能性を考えるのは現実的ではあるまい。芸能人のようなドッキリを我々に仕掛ける意味もないだろう」
「じゃあ、何が目的なんだ? 思いついてるのか?」
聞くだけ聞いてみたが……。
「それにはまず、この部屋の天井を見てくれ」
……まぁ、それだよな。監視カメラらしきものが四隅に見える。それと、天井近くには電源が入っていないテレビモニターが見えた。
「……チッ、そんな冗談みてえなことがあんのかよ」
犬鳴峠じゃなくても、吐き捨てたくなる気持ちはわかる。
「……えっとぉ……たぶん、みぃんなうすうす感じてはいたと思うんですけど……そういうことですよねぇ……?」
「え? 何が?」
おお、マイペースすぎるだろ鈴ヶ森。
「……せんぱぁい……流石にそれは引きますよぉ……」
「あんな、オサネちゃん、こういう映画とか漫画見た事あらへんか? 見ず知らずの人間が閉じ込められて……その……」
「その?」
「殺し合いをさせられるってことだよ! 『デスゲームもの』くらい見た事あんだろ!」
犬鳴峠が大声を上げると、辺りは水を打ったように静まり返った。
状況は、どう見てもそれだった。
『ハーイ、注―――目!!』
痛いほどの沈黙を斬り裂いたのは、明らかにふざけた色を湛えたボイスチェンジャーの音声だった。




