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第六章11  『routeW 19』

「開くん、お昼ごはんはまだよね?」

「まだだよ。逸美ちゃんは?」

「わたしもまだよ。開くんが来るの待ってたの。いっしょに食べよ」

 今日は終業式だからお弁当はいらない。だけど、母にはお弁当いるかどうか聞かれたので、いると言って作ってもらっていた。逸美ちゃんは自分でお弁当を作ってきたようで、二人でお弁当を食べた。

 ちょうど食べ終わったとき、探偵事務所のドアが開いた。

 来訪者はもちろんあの二人だ。

「やあ」

「こんにちは」

 凪と鈴ちゃん。

 二人が和室に入るのといっしょに俺と逸美ちゃんも和室に上がった。

 これから、このあと、放火事件の蹴りをつけにいかなければならない。

 そんな使命があるから、きりりと空間が張り詰めるかと思いきや、そうでもなかった。凪はゲーム機を引っ張り出してひとりでやり始めるし、俺や凪同様に今日が終業式だった鈴ちゃんは春休みになったのにさっそく英単語の勉強をしている。逸美ちゃんはいつもと変わらず読書中。

 みんなマイペースなものである。

「凪、俺たちも準備したほうがよくないか?」

「俺たち? ぼくらの他に、誰か準備してる人でもいるの?」

「犯人とターゲット」

 俺と凪の会話が始まると、逸美ちゃんと鈴ちゃんも俺と凪に注目した。しかし凪はゲームをしているテレビ画面から目を離さない。

「平気さ。ぼくが手回しは済ませておいた。キミはダメ押しの一手でも考えておいてくれ。キミの推理を聞いて、説得に応じる犯人かどうかはわからないしね」

「ダメ押しの一手か」

 それにしても、こいついつのまに手回しを済ませていたんだ。

「ところで、その手回しってなに?」

 逸美ちゃんに聞かれて凪は答える。

「開が言ったその二人を呼び出すことさ。今日の夕方六時に、北高に集合だ。だから開、キミに残されたタイムリミットは六時だぜ」

 それまでに、犯人が俺の推理と説得で最後の放火をやめなかったときのための、ダメ押しの一手を考える。

 実際、犯人の放火だけなら、力ずくでもなんでも止められる。けれど、それだけで解決させてはいけないのだ。犯人には、カタストロフではなく、カタルシスを与えて、心の底から放火をやめさせなければならない。

 さて、少し考えてみるか。

 考え始めると、すぐに言われる。

「すべての必要な駒は、ぼくが用意しておいた。参考にしたまえ」

 訳知り顔の凪に、俺は尋ねた。

「凪、おまえどうしてそんなにいろいろ知っていたり情報やコネクションを持っているんだ?」

 これは、ずっと聞きたかったことだ。

 俺は核心に迫った質問をしたつもりだった。

 しかし、凪はさらりと答えた。

「ぼくが情報屋だからさ」

「え? 情報屋?」

「キミのところの所長さんに頼まれて、ぼくは情報屋の仕事を始めた。キミと道を違えたのは、そこが主な理由になる。キミを対等の立場からサポートできる存在が必要だと、所長さんは考えたみたいだね。お姉さんの逸美さんには頼りっぱなってしまうからさ」

「わたし、開くんに頼られるの好きなのに」

 と、逸美ちゃんが不満そうに言うが、凪はうむとうなずく。

「逸美さんは際限なく開を甘やかすから、対等の存在がいなければならなかった。だから、ぼくが用意されたんだ。そして、ぼくが鈴ちゃんを用意した」

「あたしは先輩のために用意されたんじゃなくて、自分の意思で来ただけですよ」

 凪の言葉には素直にそうですと言わない鈴ちゃんである。

 だが、しかしこれで納得だ。どうして凪がこれまでありえないほどの情報を持っていたのか、やっとわかった。

 俺は凪に言った。

「よし。それなら、俺をサポートしろ。凪が持ってる情報をすべて見せてくれ」

「開は人使いが荒いんだから」

 と、凪は肩をすくめた。

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