第六章8 『routeM 16』
犯人に電話を掛けてこれから会う約束をした俺は、指定された場所へと足を向けた。
場所は校庭。
つまり俺はほとんど移動する距離なんてないようなモノで、犯人が来るのをただただ待つ形となった。
逸美ちゃんと晴ちゃんは先に家に帰らせた。俺の気持ちを汲んでくれた逸美ちゃんと晴ちゃんには感謝しつつ、俺はいまもこうして犯人の登場を待っていた。
どうせなら、校庭の端でごちゃごちゃ話をするよりも真ん中でしたいと思い、校庭の真ん中を陣取って空でも見上げて立ち尽くしていた。
まったく。なんて澄んだ空だろう。星だって見える。
これが気分も気分なら黄昏そうな空だ。
この前逸美ちゃんと張り込みしたときに聞いたスピカはどれだろう。一等星だから一番明るいやつだったか。
足音と共に、
「こんばんは」
ようやく、犯人が到着したらしい。
「ここには俺しかいない」
そこで言葉を切る。
スピカを見上げていたその顔を犯人に向けて、俺はしっかりと見据える。
「それより、まさかそんな危ないモノ持ったまま来るなんて」
手には短剣だかナイフだかが握られている。刃には血がこびりついていて、一度は拭ったのだろうけれど、生々しかった。
「で」
向かい合って、俺は言った。
「俺の推理に付き合ってもらえますか? 浅野前さん」
刺すような俺の視線にも動じることなく、北高の制服姿に身を包んだ浅野前まひるは、髪を結ぶ赤いリボンをゆらゆらと揺らして明るい笑顔を見せた。
制服に血が付着していない様子を見ると、着替えてきたのか、さらに上に着ていたジャンパー類を脱いだのか、といったところだろう。刺しただけならほぼ返り血がないかもしれないしな。正直どっちでもいい。浅野前まひるは手袋をはめた手でナイフを持ち、その手をお行儀よく身体の前で組んでいる。
「むろんです。そのつもりで来たと言っても過言ではありません。ぜひ聞かせてください。どうぞ、明智さん」
浅野前まひるはまるで殺人など犯していない普通の女子高生のように笑った。
質問したいことは山ほどあるが、まずは順序立てて質問しないとまともな会話にならない。まあ、人を殺したという話をしている段階ですでにまともな会話とは思えないけれど。
まずは質問に答えてもらおうか。
「蒲生郷里を殺した理由は、怨恨で間違いありませんか?」
「はい。恨みです」
浅野前まひるは即答した。
「蒲生郷里さんに積年の恨みがあったからですよ。と、それだけ言っても意味がわかりませんね。あ、でも、わかってるんでしょう? 明智さん」
怨恨で間違いないと聞けば、あとは推理を披露するだけだ。しかしどうしたものか。連続放火事件から片づけるか、蒲生郷里殺害事件から片づけるか。じゃあ、筋道立てて、順番につまびらかにしていくか。
「さて」
考えをまとめて、話しはじめる。
「連続放火事件は廃工場が最初でした。次にワールド・オブ・システム。世間ではこの二件目からが連続放火事件として扱われているようですけど、それは関係ない。蒲生郷里さえ気づけば問題なかった。なぜなら、この連続放火事件が蒲生郷里への殺害予告だったからです」
浅野前まひるは黙って聞いている。
「そもそもなぜ犯行を企てたのか。それは、いま確認した通り怨恨が原因だった。ではその怨恨がどんなモノだったのか、それは――殺されたお兄さんの復讐。今朝、あなたは言いましたよね、家が放火されて兄が死んだと。それは事実でしょう。そして、その放火を起こした犯人が蒲生郷里だった。違いますか?」
「そうですよ。誰かに聞いたんですか? この話は誰にもしていないはずですけど」
「いいえ。誰にも聞いていません。ただの辻褄合わせでしかありません」
そう、起こったことに対して辻褄を合わせていっただけの、それだけの推理だ。ただ閃いただけだ。すべてはもう後の祭り。だからこんなの推理とは呼べないのかもしれない。そんな大層なもんじゃない。
浅野前まひるは俺の反応をうかがうように、
「では、どうしてわかったんです?」
「蒲生郷里を殺した理由が恨みであるなら、その可能性はひとつというだけです。ここまでは間違いありませんか?」
「はい。大正解です。確かに他には考えられないのかもしれませんね。蒲生さん、わたしの家に火をつけてしまったんですよ。そこで一人助からなかったのが、わたしの兄でした」
俺がそれに対してなにを言うでもない間に、浅野前まひるは言った。
「明智さん、続きを聞かせてください」
「そうでしたね。続けましょう。あなたのお兄さんが亡くなられて――なにかしらの方法で蒲生郷里が放火したことを知ってしまったあなたは、計画を立てた。蒲生郷里を殺害する計画を。でも、その前に執行猶予を与えましたね。この連続放火事件が罪を犯した自分へ向けられていると気づき、反省すれば許すことも考えていた。罪を思い出させるための放火だったんです。そのためにあなたは放火現場として、蒲生郷里にゆかりのある場所を選んだ。しかし蒲生郷里は気づかなかった。だからあなたは殺すことにした」
そこで言葉を切る。
「タロットカード。あれは、蒲生郷里がタロットに関する知識を持っていることを利用したんですよね。犯行予告としてのメッセージ、それを受け取ってもらおうとした。まあ、これが一連の犯行であることを明確にするため、という意味もあったでしょう」
うなずく浅野前まひる。
「そうです。見てきたかのように言うんですね。でも、ひとつ間違いがあります。蒲生さんはわたしの意図に結局気づきませんでした。でも、いずれにしろ、わたしは殺すつもりだったんです」
結局、殺すつもり……。そうだったのか。少し驚いたな。まったく、読み切れないものだ。
俺は冷静を繕って、
「なるほど。確かにあなたの性格的には、そうかもしれません」
いかにも彼女のことをわかっている口ぶりで言った。
浅野前まひるは喜色を赤い唇に浮かべて、
「そうですね。明智さんはわたしのことをよく理解してくださっています。それはわたしも知っています。でも、驚かないんですね。予想外の事実であるはずなのに」
「どんなことがあっても、あまり驚かないタチなので」
さっきまで正気を失って茫然自失状態だったヤツがよく言う。
「そうですね。明智さんは、そういうヒトですよね」
そんな人間じゃない。浅野前まひるは知らない、俺がさっきまでまともに思考できる状態ではなかったことを。過呼吸に襲われ、吐きそうになって、正気を保つのに必死だったことを。そんなこと知っているのは、逸美ちゃんだけで十分だ。
さて。
「あなたは今日、蒲生郷里をここに呼び出して殺した。その手に持っているナイフでね。蒲生郷里を燃やすために、あなたはナイフで刺殺した。ただ、蒲生郷里を放火するために。これが、あなたのしてきたことだ。違いますか?」
「その通りです。明智さんのおっしゃる通りです。ちなみに、カードはすべて回収しておきました。すでに、そこで燃え尽きていることでしょう」
「手際がいいですね」
まあ、いつまでも残しておくもんじゃないよな、そんなモノ。
浅野前まひるは訊いた。
「ところで明智さん、いつから気づいてたんですか? わたしがやったって」
「確信したのは、タロットカードの話をしたときです。凪から聞いたタロットカードの話をあなたにしたときですよ。あなたは最初、『カードってなんですか?』って聞いたんです。それで俺は、ああ、この人はタロットカードについての情報を持ってないんだって思いました。覚えてますか? 俺はそこで、『タロットカードが、これまでの事件現場にあったんですよ。それが犯行予告になっていて、そのカードがある場所の周辺が、次の放火現場になるんです』と説明しました」
「ええ。覚えてます」
「で、次にあなたはこう言ったんです。『犯行予告のタロットカードですか……なんでそんなところにカードなんて貼っておくんでしょう』。おかしいですよね。壁にカードが貼ってあったなんて話、まだしてもいないのに、あなたは知っていた」
「そんなことでわかっちゃいましたか。あっけないですね」
厳密には、それだけではない。目撃談などの証言もあってこそだ。そもそも、蒲生郷里への怨恨説を立ててから、事実を照らし合わせていき、そして蒲生郷里の死によって推論が正しいことが裏付けられた。これが真実だった。
「真実なんて、どんなに巧妙なミステリでもあっけないものですよ。それに、あれは占いの話をしていたときです。タロットの話になったとき、あなたは言いました。占いの『結果が良ければ信じますよ。悪かったらもう一回やって、いい結果を見てから、忘れるかもしれませんね』って」
「そして明智さんは言いました。『おみくじの結果が悪かったら、もう一回引き直す、みたいな感じですか』と」
「そうです。タロットはよくわからないと言っていたのに、そんなことを言っていたんです。タロットは素人でもその知識を持っていて、自分で占うものだと思い込んでるみたいに。普通は占い師に占ってもらおうと思うんですよ」
苦笑する浅野前まひる。
「明智さん、ホント細かいところに気づくんですね」
余計なお世話だ。仕事柄仕方ないだけさ。
「また、俺が気になったのはそれだけではありません。タロットの話題が出たとき、あなたは何度か蒲生郷里に繋げるような言い方をした。まるでタロットといえば、蒲生郷里だ、みたいに。それも考えてみれば、怪しかったんですよ」
浅野前まひるは後手を組んで、
「てっきりわたし、アリバイがあるからって、すぐに犯人候補から除外されているものと思ってました。歯科医院の犬の置物を燃やした八件目の事件のとき、明智さんと出会ったばかりだから、そこでまずは犯人の可能性が消えていたはずなんですけどね」
「それですか。蒲生郷里は言っていたんです。十一時五分から浅野前と電話していた、と。だから、放火があった十一時十分頃にはアリバイがあることになる。アリバイ作りのために電話したんでしょう? 確かに、現場から少し離れたところで電話をしていたという女子高生の目撃談を、歯科医院で聞きました。あれは逆に、あなたを安心させたことでしょう。その時間に現場にいなかったことになるんですから。でも誤算でしたね。十一時には火が燃えていたという証言があとから出たんですよ。新聞に載ったあとから」
「まさかですね。最初からつまずいていたんですね、わたし。このアリバイは役立つと思っていたんですが、そんな時間にあえて電話していたなんて、逆に怪しいというモノだったのかもしれませんね。しかも微妙に犯行時刻とズレてしまってはなおさらです」
浅野前まひるは、自分自身に呆れているような雰囲気だった。気持ちはわからなくもない。先手を打っておいたつもりが、無意味だったのだから。
俺は質問する。
「凪にタロットカードの話を教えたのって、浅野前さんですよね?」
どういう反応を見せるかと思っていたけれど、驚きや戸惑いはなかった。
「ええ。柳屋さんに確認でも取りましたか?」
「いいえ。凪からはなにも聞いてません。タロットカードが関連している、としか。俺は不思議だったんです、どうしてこの事件にことごとく凪が関連しているのか。あなたの犯行を手伝ったのが凪だったんじゃないですか?」
「鋭いですね。勘ですか?」
「そんなワケないじゃないですか。勘を働かせるのは俺の仕事じゃないんです」
それは逸美ちゃんの仕事だ。
「浅野前さん。情報というのは、一か所からだけでは信頼できないモノなんですよ。二か所以上の情報源から聞いてはじめて、その情報が真実だと確信するんです。だからあなたは、情報の流通のために柳屋凪を利用したんです」
浅野前まひるはくっくと笑った。こんな笑い方もするんだな。
「ご明察です。しかし誤算だったのは、明智さんへと情報が回っていったのはいいのですが、一般にはこの情報が回らなかったという点です。明智さん、お口が堅いんですね。いえ、秘密主義というんでしょうか。柳屋さんもです。もっと噂になってほしかった」
「蒲生郷里は、知っていたんですか? この件にはタロットカードが関連していることを」
「当然じゃないですか。わたしが教えましたから。本当は柳屋さん経由ないし噂から彼女にタロットの情報が流れることを期待していました。しかしそうもいかなかったので、わたしが直接教えましたよ。蒲生さんから明智さんにその点に関しての質問がなかったのは、わたしがすでに話していたからということになっています。でもやっぱり、いくらどっち道殺すつもりだっとはいえ、残念です。蒲生さん、全然気づいてくれませんでしたから。タロットカードの意味についても、わたしからのメッセージも」
実はこれについて、俺は心の中で反論していた。本当に気づいていなかったのだろうか。もしかしたら、気づいた上で付き合っていたという可能性もあるんじゃなかろうか。しかしそんなこと言っても、いまさら確認のしようもないのだけれど。
俺は訊いた。
「この件を探偵事務所に依頼して、俺を巻き込んだのは、気づかせるためだったんですよね? 姉弟みたいな関係である蒲生郷里と明智開、それと蒲生郷里が放火によって殺したとある兄妹、それを思い出させるためだったんですよね?」
「だって、放火が起きただけで思い出しますよね? 普通。それが、タロットカードがあることを知っても首をかしげるばかり。なんて愚鈍なのかと呆れてしまいましたよ。だから、自分が殺してしまった人間と重なる要素をもってこようとしたんです。あの事件をまた、思い出させるために。自分の過ちを再度、思い出させるために。そこで、です。ちょうど柳屋さんから明智さんの噂を聞きましてね、せっかくなので巻き込ませていただきました。申し訳ないとは思っています。しかし許せないモノは許せない。もしもわたしが、あなたが起こした放火のせいでわたしの兄が死んだんです、と言ったら、わたしは彼女を許さなくてはならなくなります。蒲生さんが悪いヒトじゃないのは知ってるから。嫌でも許してしまうと思ったんです。きっと彼女は、できる償いならどんなことでもすると言ったでしょう。どんなことをも厭わなかったでしょう。自分が死ぬとまで言ったかもしれません。いいヒトですからね、彼女は。心の底からいいヒトですから。だから、こんな回りくどい方法を取ってまで、蒲生さんに気づいてほしかった」
「…………」
「でも、さっきも言った通り、殺すつもりだったのは変わりませんけどね。いくら反省したところで、そこで許したらいっしょです! 放火をして殺してしまった責任を取るには、自分が火に焼かれて死ねばいいんです! そうでないといけなんですよ!」
「随分と乱暴なやり方ですね。目には目を歯には歯を。ですか」
「はい。いくら反省したところで、本当にされた側のその相手の気持ちは理解できませんから。だから自分がしたことと同じことをされるべきなんです! 被害を受けたからには、糾弾する権利があります! 危害を加えたからには、処罰される責務があります! わかるでしょう? 明智さんにはわかりますよね? 大好きだった兄を亡くしたわたしがどんな気持ちだったのか。いまの明智さんならわかるはずです!」
浅野前まひるはもう一度、力強く言った。
「明智さんならわたしの気持ち、わかりますよね?」
浅野前まひるの気持ち。
兄を亡くした浅野前まひるの気持ち。
わかるさ。
それくらい。
俺がこれまで郷ちゃんと過ごしてきた日々を思い出す。
いっしょに遊んだりケンカしたり怒ったり泣いたり笑ったり。
まだまだ浅野前まひるには話していない思い出もいっぱいある。
けれど、わかっている。
俺が数えきれないほどの思い出を蒲生郷里といっしょに過ごしてきたのと同じく、いやそれ以上に、浅野前まひるは彼女の兄と星の数ほどいっしょに遊んだりケンカしたり怒ったり泣いたり笑ったりしてきた、たくさんの思い出があったことを。兄妹である俺と花音が現在進行形で積み重ねている数多もの思い出と、浅野前まひるの思い出が同じであることを。
そして大切なヒトを失う身も世もない気持ちを。
わかっている。
わかっているけれど、俺はそうは言わない。
「わかるはずがありません」
でも、おそらくこの瞬間、世界中の誰より、俺は浅野前まひるの気持ちがわかっていた。わかっていながら、そう言った。彼女だって、気づいていたはずだ――唯一俺が、彼女に寄り添うことができる存在だと。
しかし、わかるはずがないと、そう言ってしまったが最後、俺は彼女に寄り添うことはできない――そう言ったことに等しい。俺は彼女を許さないと、そう言ったことに等しい。彼女を突き放したも同然だった。そういう意味での問いかけだったのだから。
「…………」
そして彼女は答えない。
……まったく。俺は彼女に対して、嘘をついてばかりだ。なにも彼女に対してばかりじゃない。彼女は本当のことを洗いざらいしゃべっているというのに俺ときたら本心を隠し、ただ言葉を選んでいるだけだ。まったく、すべてが真っ赤な嘘だった。
しかしホントに、俺には逸美ちゃんがいてくれてよかったと思う。逸美ちゃんが隣にいるだけで、立ち直れる、立ち向かえる。
けれど、浅野前まひるには、そんな相手がいなかった。もし仮に、癒してくれる兄弟が……いや、せめて、傷を舐め合える兄弟がもう一人だけでもいれば、彼女はこうはならなかっただろう。それは逸美ちゃんのように頼りになる存在でなくていい、頼りにならない弟や妹でいい、そんな相手を、彼女は求めていたのだろう。俺と蒲生郷里を見ながら。俺と花音を見ながら。俺と逸美ちゃんを見ながら。
しばし、俺と浅野前まひるは無言で対峙した。
彼女に確認したいことも、もうほとんどなくなってきたな。そろそろ終わりが近い。
「浅野前さん」
俺が言葉を続けて質問をしようとすると、それを遮って、いまにも消えてなくなってしまいそうな弱々しいかすかな笑みをして、彼女は告白する。
「あなたはわたしがどんなわたしであっても、どんなわたしのままでも受け入れてくれるヒトに思いました。それがうれしかった。でも、こんなことをしたいまでも受け入れてもらおうなんて、虫が良過ぎですね。もしも時間がもう少しあれば、わたしの気持ちも変わったかもしれません。明智さん、放火事件に関しての話じゃないときでも、あなたはわたしの話をちゃんと聞いてくれましたよね。もう少しあなたと話ができていたら、わたしは変われたのかな? なんて。いまの言葉は忘れてください。こんなにいろんな話ができて、わたし、明智さんといっしょにいて、楽しかったんですよ」
楽しかった、か……。
「なんだか、蒲生さんを見ていて、ちょっと考えてしまったんです。明智さんがわたしの弟だったら、弟みたいな存在になってくれたら、わたしの傷は癒えたのかなって」
「……」
どうなんだろう。俺は、なにも言葉を返せなかった。
さて。
連続放火事件は、収束した。
そろそろお開きとしようじゃないか。ここでの問答にどれほどの意味があるというのだ。カードの意味については所長に聞けば答えを導き出してくれるだろうし、俺も大体わかっている、その解答をいま聞くのは野暮ってモノだ。
俺は言う。
「最後にひとつ。浅野前さん、逃げるつもりはないですよね? 自首するつもりで、俺に会ったんですよね?」
「はい。本当は放火を起こして蒲生さんを殺してしまったわたしを、明智さんに殺してほしかったんです。でもダメですね。明智さんのその罪はわたしが許すからいいとしても、明智さんは優しいですから、自分がヒトを殺したという罪悪感を抱えてしまうことになります。ケジメのつけ方として、間違っていますからね」
「それを聞いて安心しました」
そんな本心まで言ってくれた浅野前まひるだけれど、なにか意味ありげに微笑んで、
「では、最後にわたしからもひとつ言わせてください」
「どうぞ」
浅野前まひるは、少しだけ泣きそうな顔で言った。
「好きですよ、明智さん」