第六章7 『routeW 15』
「もしもし」
お風呂を上がった俺は、つらい記憶がよみがえってくるような、嫌な感覚がして、明日学校でしゃべるのも待ちきれず郷ちゃんに電話した。
『おお、開か。どうした?』
俺はなぜか、郷ちゃんの声を聞いて、ものすごく安堵してしまった。わからないけど、涙が出そうなほどだった。
「ううん、なんでも」
て、それは俺の目に涙が溜まってしまったことに対する返答になってしまっている。そうじゃなくて、今日の昼間にうちまで来てくれたことについて話さなきゃ。
けれど、うまく言葉出てこなかった。
『そうか。なあ、開。聞いてくれ。今日は花音のやつと久しぶりに話したぞ。わたしが引っ越したとき、あいつはまだ三歳とかそんなもんだったから、まだ赤ん坊のようなものでな。わたしたちのあとをくっついてきたがったが、それもできんかった。それがあんなに立派に成長して、うれしくなったのだ』
ようやく俺も声が出る。
「うん」
『それでな、わたしともだいぶフレンドリーに接してくれて、楽しかったのだ。また花音にも会いたいものだな。花音には……、いや、花音にも、普通じゃない不思議な魅力がある』
「あいつは普通だよ」
『ははっ。そうか?』
「うん」
『今日はおばさんにも挨拶できなかったから、また遊びに行くぞ』
「うん。来て」
『おう』
明日は、放火事件が起きる。
それが決定している。
凪の流した誤情報によってだ。
犯人も、タロットカードでも予告していた。だから、俺は犯人を捕まえ放火を止めるために張り込みをしないといけなかった。
だから、明後日以降だな。
『開、また明日な。おやすみ』
「おやすみ。また明日ね」
俺は電話を切った。
なんだか、すごくホッとした。
いや、完全には安心できない。そう警告している。予感が、感覚的な部分が、そう警告していた。
さあ。
明日に備えて、今日は寝よう。
少し早いけど、俺はもう就寝することにした。