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第六章5   『routeW 13』

 探偵事務所で凪に見せられた郷ちゃんの情報は、俺の記憶を補完するたぐいのものでもあったけれど、知らなかったこともあった。

 それらを頭の中にインプットしたあと、鈴ちゃんがやってきた。

 鈴ちゃんとは軽く挨拶を交わして、俺は立ち上がる。

「みんなそろったことだし、さっそくタロットカードを見に行かない?」

「そうね。行こうか」

 逸美ちゃんも俺に続いて立ち上がった。

 しかし、状況がわかっていない鈴ちゃんがリスのように頭をかたむけているのはともかく、凪は自分用に用意した座椅子に背中を預けて、

「少しだけ待ってくれ。タロットカードを見に行くのは帰りでみんないっしょに行けばいいだろう。悪いけどいまは休ませてほしい」

「うん。構わないけど」

 拍子抜けした俺はちょこんと座り直して、こたつに入ったまま横になった凪を見やる。

 凪は、情報を集めてきてくれた。だから昨日はあまり寝ていないのかもしれない。ちょっとくらい休ませてやろう。凪の言うように、タロットカードの確認はみんなで帰り道にでもすればいい。


 凪が眠っている間。

 逸美ちゃんは読書、俺と鈴ちゃんは勉強をしていた。

 くぅ、と凪が小さな寝息を立てているのを、鈴ちゃんは時折微笑を浮かべて眺めていた。

 もしかしたら、この子は凪のことが気になっているのかもしれない。異性として、凪に関心があるのかも。

 俺にとってはどうでもいいことだけど、これからもこの二人が来るとなると、無視できないだろうな。

 なんて、そんなことを考えていたら、もう夕方の六時になっていた。

「凪、起きろ。そろそろ帰ろう」

「そうですよ、先輩。起きてください」

 俺と鈴ちゃんに起こされて、凪は眠たげに目をこすった。

「そうか。じゃあ、タロットカードを見に行こうか」


 探偵事務所を出て、ファミレス前まで移動する俺たち。

 逸美ちゃんが前方を指差した。

「あ、学校だよ。ここに開くんは通っているんだよね」

 楽しそうではあるけれど、逸美ちゃんはどこかさみしそうな表情を覗かせる。

「いっしょに通えたら、もっと楽しかったろうな」

 現在、逸美ちゃんは卒表式も終えた高校三年生。通っていた学校は俺とは違う。女子高だったから、いくら幼なじみとはいえど俺があとから追いかけて入ることもできなかったけど、いっしょに通えたら楽しかったろうな、と俺も思う。

 でも、吐息を漏らすようにつぶやく逸美ちゃんの言葉には、俺はなにも返せなかった。逸美ちゃんは、同じく俺の幼なじみで姉貴分の郷ちゃんのことを想ったのだろうか。俺にはわからなかった。

「ファミレスは、ここから近いんですか?」

「すぐさ」

 鈴ちゃんの問いには凪が答えた。

 このまま通り過ぎてまっすぐ行けば、一分ほどで例のファミレスには着く。

 校門の前を通り過ぎながら思う。もし次のターゲットが学校なのだとしたら、どこを燃やすんだ。木だって生えているし、花壇もある。校舎を燃やすことだってできるだろう。徐々に大きくなる被害を思うと、寒さのせいかはわからないけれど、鳥肌が立った。

 凪と鈴ちゃんは俺と逸美ちゃんの前をおしゃべりしながら歩いていた。


 ファミレス前に到着した。

 確か、凪の見せてくれた画像によると、ファミレスの壁にタロットカードは貼られていたはずだ。

 先頭を歩く凪について行くと、タロットカードはあっさり見つかった。

 凪が見せてくれた画像でははっきりとはわからなかったけど、

「やっぱり、『世界』か」

「THE WORLD」

 と、凪がつぶやき、微笑みを浮かべる。

 月桂樹で作られた輪の中に一人の女性がいる。カードの四隅にはそれぞれ天使、牛、ライオン、鷲が左上隅から時計回りに描かれている。

 逸美ちゃんがカードを見て説明を加える。

「カード番号は21。最後のカードよ。それも正位置。正位置における『世界』の意味は、完成・完全・完璧・成就。カードの四隅――天使は風、牛は地、ライオンは火、鷲は水を表しているわ。四大元素ね。つまり四大元素が揃い、完成を意味しているのよ。『愚者』からはじまった愚者の冒険のストーリーは、『世界』を見て終わるの。けれど同時に、『0』に戻る輪廻であり、永遠を表してもいる。また、この構図は『運命の輪』にも似ているわ。四隅に描かれているシンボルが同じなのよ」

 愚者の冒険のストーリーか。それは確か、前に凪からも聞いたな。

 凪をチラと一瞥すると、凪は不敵な笑みを顔に張り付けて、

「輪廻も終わりにしてやるさ」

 と小さく言った。

 どういう意味なんだ?

 俺がそれについて聞こうとしたが、逸美ちゃんは解説を続けた。

「あと、真ん中にいる女性は、両性具有という説や、元は男性だったという説もあるの。わたしは両性具有だと思ってるんだけどね、男でも女でもない、どちらにも偏らない完全な存在だというふうにも言われているわ」

 実は俺は、カードの細かい意味はもうあまり関係ないように思っていた。これが最後。ただそれを表すためだけのカード。それが『世界』なのだろう。

「俺は、次が最後だと思う。みんなはどう思う?」

「わたしもそう思うわ」

「ぼくも右に同じく」

「あたしも、そうです」

 と、鈴ちゃんは挙動不審に凪と逸美ちゃんを見て言った。この子だけはタロットカードについてもよくわかってないだろうからな。しかし凪もなぜ鈴ちゃんを仲間に入れたかったのか。俺にはそれがわからない。

 いずれにしろ、次が最後だとするなら、放火犯を捕まえるという依頼を受けた俺たちにはしなければならないことがある――次で、犯人を捕まえることだ。

「犯人は最初に『愚者』をもってきた。はじまりを意味する『魔術師』ではなく、カード番号0番の『愚者』をもってきた。その犯人が『世界』をもってくるからには、これが最後だと思う」

「そうね」

 次に、なにかしらの決着がある。そう予感させた。

 逸美ちゃんが写真を撮ってくれている。

 俺は振り返って学校の校舎を見た。

 この場所からでもうちの高校の校舎は見えるのだ。

 目ぼしい場所は他にもある。けれど、学校というのは特別な場所だから、最後にするならここだろう。

 凪が俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんに言った。

「さて。それじゃあ今日は解散だ」

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