第六章4 『routeW 12』
だらだら坂を登ると、探偵事務所が見えた。
浅野前さんの話では、凪はもうだらだら坂を登って探偵事務所に向かっているとのことだった。
しかし鈴ちゃんはどうだろうか。もう来ているならさっそく四人でファミレス前に行ってみてもいい。
二人のことを考えながら階段を上がって事務所内に入ってみたが、逸美ちゃんがソファーに座って読書をしているのみだった。
「開くん」
「あれ? 凪は?」
「凪くんなら和室よ」
あ、そうか。昨日掃除もして、和室を使うことになったんだっけ。中学時代はいつも凪と和室で過ごしていたのに、一年も経てばそんな習慣など簡単に忘れてしまうものだ。
俺は和室を開けた。
「来たぞ、凪」
「や。開か」
凪は顔の上に雑誌を置いたまま仰向けに寝転がっていた。
和室に上がりながら俺は訊いた。
「ヒマで昼寝でもしてるの?」
「昼寝はしてるけどヒマではないよ。キミのための情報収集が終わって、ソースとなるホームページを開いてやったんだ」
凪の座る場所のこたつの上にはノートパソコンがある。探偵事務所にあるものは、応接間で逸美ちゃんが使う。所長の机のパソコンはデスクトップだから、このパソコンは凪のものなのだろう。
「サンキュー。それで、その情報っていうのは?」
「まあ、鈴ちゃんが来てないけど話してもいいか」
と、凪は顔の上に置いていた雑誌を手に取って起き上がった。
「わたしも聞いておいたほうがいいことよね?」
逸美ちゃんも和室に上がって尋ねる。
「うむ。ぜひ」
ということで、俺と逸美ちゃんが凪を左右から挟むように座ってノートパソコンの画面を覗き込んだ。
「鈴ちゃんはリアクション担当兼雑用係ってところだから、話を聞く必要もないだろう。でだ、キミたちに見せたい情報はこれさ」
どこかの誰かがファミレスの壁に貼られたタロットカードを珍しがって写真に収めてネットに上げていたようだ。よくこんな、この人の仲間内しか見なそうなところまでリサーチできるものだと感心する。しかし画像は少し小さく荒い。
「この詳しい画像はいま見る必要はない。ぼくらでこのあと見に行く」
「そうだな。探偵として、直接見ないといけない」
「また、情報として気になったのはこれさ」
そう言って凪がマウスを操作して見せたのは、蒲生郷里――郷ちゃんの、幼き日の写真だった。