第五章5 『routeW 7』
凪の言っていることが真実なら、事件が起こる前日に貼られるタロットカードが見つかったということになる。これまでも、犯行予告のカードが貼られた翌日に事件が起きたのだから。
「タロットカードが見つかったのか?」
俺の問いに、凪は首を横に振った。
「いいや。見つかってない」
「え? じゃあなんでわかったの?」
少しばかり驚いた俺だけど、凪はその幼さの残った顔に薄い笑みを張り付ける。
「原因がぼくにあるから。と言ったら、どうする?」
「どうもこうも、問いただすだけだ」
まさか、こいつが犯人だってことなのか?
「そう怖い顔しないでくれ。そんな顔して聞く話じゃないぜ、相棒。ぼくはただ、明後日に火事が起こると誤情報を流したんだ」
「誤情報?」
「ああ。通常通りにいけば、次に放火が起こるのは、明後日からの二日間くらいになるだろう。そこを、明後日ってぼくが決めた。明後日と情報が流れている中、犯人も明日いきなり放火はしないさ」
「おまえってやつは……」
「先に手を打っておいたんだ。そのほうが、準備もしやすいってもんだろ? 探偵王子」
「その探偵王子ってのやめろ」
しかしこいつ、そんなことをしていたのか。
「ぼくが探偵事務所に来る前に情報は流しておいた。あとは勝手に拡散されてゆく。事実、もう浅野前さんや蒲生さんも情報をつかんでいる」
その二人とのやり取りも済ませているとは、いつのまにそんなことをしていたんだ。
「凪、それはわかった。でも、準備ってなにをするつもり?」
「それはキミが考えることだ。それがキミの役割。ぼくはキミのサポート。そうだろ?」
ああ、そうだった。これまでだってそうだった。そして、こいつのサポートとは名ばかりで、実際は邪魔ばかりするやつなのだ。
「考えてやるよ」
俺はせいぜい、やれやれって感情がわかるように言ってやった。
ふっと微笑む凪は小走りに次の角まで行き、振り返って俺に手を振った。
「頼んだぜ、相棒。それじゃあまた明日」