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第五章2   『routeW 5』

 探偵事務所で、凪と鈴ちゃんを待つこと約三十分。

 ようやく、二人がやってきた。

「こんにちは」

「やあ」

 丁寧に頭を下げる礼儀正しい鈴ちゃんに対して、凪は久しぶりにここへ来たっていうのに情緒もない軽さだ。

 逸美ちゃんは嬉しそうに二人を迎える。

「二人共いらっしゃい」

「凪は久しぶりだよね? ここに来るの」

「うん。懐かしいよ。なんにも変わってない」

「変わったよ」

 凪にはずばりと言ってやる。

 鈴ちゃんは物珍しそうに事務所内を見回して、思い出したように手に持っていた包みを俺に渡した。

「あの、これからあたしと先輩がお世話になるので、お近づきの印にどうぞ」

「ありがとう。わざわざいいのに」

「いいえ。気持ちですから」

「あら~。悪いわね。でもうれしいわ。開けていい?」

 逸美ちゃんに聞かれて、鈴ちゃんは、

「はい。中身はお菓子ですので、召し上がってください」

 俺が白いリボンを外して開けてみると、綺麗な洋菓子が並んでいた。中身が見える箱にしたほうがいいのにってくらい宝石みたいにキラキラしている。さすが、良家のお嬢様が選ぶ物は一味違う。俺と逸美ちゃんは「わぁ」と声をそろえて感激した。

「このあと、おやつのときにみんなで食べよっか」

 との逸美ちゃんの提案に皆がうなずき、お菓子はひとまずテーブルの上に置いておいた。手に持っていたリボンもテーブルの上にいっしょに置いておくかと思ったけど、凪が壁に手をかけたので、慌てて凪を止めにかかった。

「ちょっと待って」

 しかし時すでに遅し。

「さて、のんびり作戦会議でもしようか」

 そして、スライドさせて襖を開ける。前にも説明したけど、この探偵事務所には隠し部屋のようになった和室があり、以前凪がここに来ていた頃使われていたくつろぎの場だった。現在は、凪と出会う以前と同じく物置のようになっていた。

 ほこりをかぶった和室を見て、凪は呆れ顔で俺を振り返る。

「開、キミはいつもこんな部屋で過ごしてるのかい?」

「普段は使わないからな。だから待てって言ったんだ」

「せっかくの和室を使わないのはもったいない。これからはここがぼくらの基地だ」

「勝手に決めるな。まあ、応接間にいるよりいいけどさ」

 もしお客さんが来ても、和室のほうにいてくれたら、凪に相談の邪魔はされないからな。鈴ちゃんだって依頼人がいる前よりは、和室で仕切ってもらったほうがいいだろう。

「それじゃあ決まりね」

 逸美ちゃんが胸の前で手を合わせる。

「うん。逸美ちゃんがオッケーなら俺もそれでいいよ」

「では、あたしが掃除します」

 と、鈴ちゃんが意気込む。

「頼んだ」と凪。

「はい。て、先輩もやるんですよ。あたしたちはお邪魔させていただいている立場なんですからね」

「ぼくたちは手伝ってやる立場なんだぜ?」

「場所をお借りすることに変わりありませんっ。さ、掃除しますよ」

 鈴ちゃんはだいぶしっかりした子みたいだ。伊達にこのマイペースな変人の相手をできるわけじゃない。

 手に持っていたリボンはとりあえずポケットにしまい、ちょっとだけ腕まくりをして掃除をする準備をした。

 それから、俺と逸美ちゃんもいっしょに四人で和室の掃除を始めた。

 片付けが得意ではない逸美ちゃんが物置のよう使っていただけあって、あまり簡単に片付くとは言い難い散らかりようだけど、四人でせっせと働くと思ったよりすぐに綺麗になった。俺と鈴ちゃんの目を盗んでサボろうとする凪をちゃんと働かせ、約二時間で掃除は終わった。

 もう午後の三時半だ。

「ふう。やっと終わったね」

「そうね。みんなが頑張ったおかげね」

「お疲れさまでした。こう綺麗になると気持ちがいいですね」

 俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんがそう言うと、凪はゲーム機を引っ張り出してきた。

「掃除も終わったし、いまからおやつを食べながら親睦会をしよう。ゲームもしよう」

「凪、よく見つけたな」

 押入れの中に入れておいたゲーム機。これは俺と凪が中学生のとき、ここでよくいっしょにやっていた物だ。

「先輩、せっかく掃除したのにまた散らかすつもりですか?」

 じっとりした目で鈴ちゃんに見られても、凪は気にせず、

「ゲーム機が出ている状態は、たとえスペースを取っていたとしても散らかっているとは言わないんだ。団らんさ」

 適当な理屈だ。

「いいじゃな~い。わたしもやりたい。昔よくやったわよね」

「レースやっても、いつもぼくがぶっちぎりの一位で開と逸美さんは遅かったよね」

「俺もたまには一位になったよ。遅かったのは逸美ちゃんだけ」

「そんなことないわよ~。今日はわたしも負けないんだから」

 すっかり乗り気な逸美ちゃんと勝手に準備を始める凪。

 俺がふと鈴ちゃんを見ると、目が合った。やれやれ、とお互いにそんな目をして苦笑し合って、四人でゲームをすることになった。

 それから、どれくらいやっていただろうか。

 気がつくと、外はすっかり夕暮れになっていた。

「今日はこんなところかな」

「開くん、満足そうな顔してるね」

 うふふ、と逸美ちゃんが微笑む。

 俺はぽりぽりと頬をかいて、

「久しぶりに大勢でゲームして楽しかったしさ。でも、事件についてはなんにも調べたりできなかったね」

「いいんだよ、別に。ぼくたちが協力するんだ。これから、キミたち二人だけでは手の届かなかったところへも手が及ぶ。だろ?」

 ふわりと笑みを浮かべる凪を見て、俺は心が揺れた。

 こいつを――凪を、容疑者から外してしまってもいいかな? 仲間になったんだし、組むって言ったんだ。ただ、やはり、探偵はいつもクールに。可能性は摘み取らない。感情で考えちゃいけない。そう思う。

 凪は楽しそうに鈴ちゃんとこの探偵事務所の話をしていた。

 そんな凪を見て、俺は目をそらす。

 とにかく、早く事件を解決しよう。凪を信じたい。そのために、この事件をさっさと片付けたかった。

 逸美ちゃんが帰り支度をして言った。

「さあ。みんなで帰ろっか」

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