第四章2 『routeM 2』
凪と別れて、逸美ちゃんと再び落ち合うと、放火現場の状況を報告してくれた。建物が燃えていて、パチンコ屋のときよりも大きく焼けたそうだ。
消防車が来る前に俺と逸美ちゃんも現場から去り、面倒そうな尋問にあわないようにと避ける。
帰り道。
時間も時間だから家の電気はどこも消えていて、街灯と月明かりだけに照らされた暗い夜道を歩く。
俺は凪を見かけたことを話した。
「ふぅん。なるほどね。開くんはどう思ってるの?」
「どうってこともないよ。容疑者であっても、犯人と特定するには証拠がないんだから。どうしたもんかな」
「いまは、推理のための情報を集めるしかないんじゃない?」
まあ、今日でまた情報が増えたことは確かだけれど、かといって決定的なモノがないのもまた、確かだった。
逸美ちゃんの横顔をうかがうと、俺の視線に気づいた彼女はにこりと微笑んだ。
「今日は張り込み、お疲れさま。開くん、明日はどうするの?」
「明日? 明日は、郷ちゃんがうちに来るんだよ」
逸美ちゃんの笑顔が固まった。いや、笑顔のまま逸美ちゃんが固まったという感じだろうか。石膏像のようにぴくりともしない。
「逸美ちゃん?」
我に返ったように逸美ちゃんは口を開いた。
「あ、えっと。それって、開くんの家に蒲生さんが行くってことよね?」
「うん。郷ちゃん、久しぶりに来たいだろうと思ってさ。郷ちゃんも挨拶したいって言ってたし。それに、うちのお母さんも喜ぶと思うな」
「挨拶……お母さん……喜ぶ……」
どうした。ちょっと様子が変だぞ。
「へ、へー。明日……」
「逸美ちゃん、どうしたの? なんか変だよ」
軽く呼びかけたが、聞こえていないようである。逸美ちゃんにとってはそれほど重要なことなのだろうか、郷ちゃんがうちに来ることが。
「開くん」
「ん?」
「明日、蒲生さんは何時に来るの?」
「一時だよ。昼の」
まさか自分も来るとか言い出すんじゃないだろうな、と思ったけれど、さすがにそんなことはなかった。
「そう。楽しんできてね」
きてね、と言われても、俺の家なんだけど。
逸美ちゃんが心配だ。心配性なお姉ちゃんが余計なことを考えたりそれを実行したりしないか、俺のほうがちょっと心配になる。普段は郷ちゃん以上にドンと構えているところがあるのに、俺のこととなるとすぐにこれだ。
まったく。やれやれだ。