第四章2 『routeW 2』
「なるほど。最強の相棒コンビが復活したのね!」
凪からの組もうという申し出を受けたその一部始終を説明すると、嬉しそうな笑みを見せる逸美ちゃんだった。
「最強ってなんだよ」
ぽつりとそれだけつっこむ俺。
凪はこちらを見もせず先頭を歩く。
「いや~、長かったよ。でも、またこうして相棒に戻れるのはいいものだね」
「そうね~。二人共、よかったわね~。お姉ちゃん嬉しいわ」
表面的には、俺が凪を信用して仲間になった。だから、俺が『凪は犯人ではない』と認めた。逸美ちゃんはそう思っていることだろう。
昔よくうちの探偵事務所に来ていた凪を犯人ではないと思いたいって気持ちはわからないでもない。仲の良かった人が実は悪人だったと知ったら、ショックだしな。逆に、仲の良かった人の疑いが晴れたら喜びもある。
しかし。
とはいえ。
いくら、凪の「組まないか?」との誘いを受けたとはいえ、俺は凪を、完全に、全面的に、心の底から信じ切ったわけじゃない。探偵はいつもクールに。可能性を摘み取ってはならないのだから。
俺は凪の後ろに続きながら問いかけた。
「ところで、凪。俺に紹介したいって言うくらいだ、今回の事件になにか関係がある人物ってことでいいのか?」
「関係がないとは言わない。けれど、今回の事件のためだけに会うのではない」
「どういうこと? 凪くん」
逸美ちゃんが小首をかしげると、凪はさらりと答えた。
「端的に言えばぼくたちのこれからのためさ」
「随分端的だな。肝心な部分を全部省いちゃダメだろ」
「相変わらずつっこむね、相棒」
その相棒って呼び方、どうしても慣れないな。今回限りの相棒だとしても、こいつが犯人なら事件が終わる前にコンビ解消だしな。
「それで、そのこれからってのは?」
改めて聞くと、凪は事務的に言った。
「いまこの瞬間の話ではないということだ。言葉菜のままに素直に言うならね。もしいまその質問に答えるなら、ぼくは難しい言葉を並べなくてはならない。話すときがきたら話せば、キミも簡単に理解できる」
だからいまは気にするなってことか。
「でも、今回の事件に、そいつは関わってくるってことには違いないんだな?」
「ああ。違いない。そうさせる」
「そうさせるって、おまえ……」
「うん。ぼくたちが巻き込むべき相手さ」
巻き込む。
言い方がまどろっこしいが、つまりはまだ関わっていない人物ってことになるのか?
俺はもう一つ確認する。
「凪、おまえの言い方はいちいちわかりにくい。単刀直入に聞くぞ。その紹介したい人って、俺の味方ってこと?」
まだ事件に関わっていないかもしれないときたら、最も大事な部分である。
この質問には、凪は微笑みを浮かべて答えた。
「味方さ。ただのユニークなお嬢様だ」
味方。
お嬢様。
俺には、そんな知り合いはこれまでいなかった。
きっとその彼女とは、初対面だ。
「それで、そのお嬢様って人はどこにいるの? その人がいるところへ向かっているんだろう?」
先ほどの火事の喧騒から、だいぶ離れた場所に来た。
「うん。あいにく、ぼくらに特定の秘密基地みたいな場所がなくてね。でも、これで安心だ。明日からはまた探偵事務所をアジトにできる」
「勝手にアジトにするな」
考えたら、明日からは凪とそのお嬢様が探偵事務所にやって来るのか。毎日ではないにしろ、これから騒がしくなりそうだな。
「あ、そうそう。開」
「なに?」
次に凪がなにを言い出すのかと思えば、こんなことを言い出した。
「明日の蒲生さんとの約束、反故になったから。ぼくが連絡を入れておいた」
「は? 勝手なことするなよ。ていうか、いつの間に郷ちゃんと……」
「そりゃあ浅野前さんとも友達なんだから、蒲生さんと知り合いでもおかしくないだろう?」
と、凪。そんな当たり前みたいな調子で言われてもな。こいつに俺のあることないこと郷ちゃんに話されたらたまったもんじゃない。
「おい、凪」
と言いかけるが、これには逸美ちゃんが食いついてきた。
「なんの話? 蒲生さん?」
「明日、久しぶりにうちの母親に会いたいって言ってたんだ。まあ、郷ちゃんがまたあとでもいいなら俺は構わないけど、一応俺からも謝らないとな」
肩を落とす俺に、逸美ちゃんは嬉々として、
「そうだったのね。まあ、またあとでだね」
「なんで嬉しそうなんだよ」と小さくぼやき、凪に問う。「で、結局凪はどこへ向かっているの?」
「言ってなかったかい? ただのファミレスさ」
学生が、こんな時間までたむろしていることはいまや珍しくもないだろう。
どこのファミレスかと思ってついて行けば、それは北高からもそう遠くない場所にあるファミレスだった。
店内へ入る。
凪がぐるっと見回しているが、動きが止まる。発見したようである。
「あ、いたいた」
ん?
誰がその味方のお嬢様なんだ?
俺もそちらに顔を向ける。
凪が歩いて行ったその先にいたのは、四人掛けの席に座る、ひとりの少女だった。