第四章1 『routeW』
決めた。
立ち尽くして迷うこと、どれくらいだったろうか。
凪からの選択肢はどちらも悩ましいけど、俺は選んだ。
そして、告げる。
「俺はおまえを信じる。組むよ」
「フッ」
凪は小さく笑った。
「なんだよ?」
「いや、こっちの話。ちょっと安心しただけさ。またよろしくね、相棒」
そう言って、凪は俺に握手を求めように手を伸ばした。
俺は凪の手を握り、握手を交わす。
「うん! よろしく!」
こいつが犯人かどうかなんてわからない。
でも、俺は凪と組むことにしたんだ。
凪にはこれまで出会ってからいっしょにいた時間、ずっとずっと迷惑をかけられ続けてきた。だけど、それ以上に楽しい時間が多かったんだ。それだけじゃなく、ふと凪との思い出が、どっと頭の中に流れてよぎった、そんな気がした。
ゆえに俺は、友達として、凪を信じてみようと思う。
いや、凪の言うように、これから先はただの友達でもなく相棒だ。
凪は握手した手を引っ込めてコートのポケットに入れると、くるりと背を向ける。それから、顔だけこちらに向けて言った。
「キミに紹介したい人がいる」
紹介したい人?
「まずは会ってもらおうか。大丈夫、いいやつさ」
急な申し出に、俺はなんて言ってよいかわからずただうなずいた。
「わかった」
「うむ。では、ついてきてくれ」
歩き出す凪。
「え、いまから?」
「当然さ」
「そうは言っても、もう夜だぞ。明日でもいいだろ?」
「善は急げだ」
俺からの問いかけがあってもまったく歩を緩める気配もなく短く答える凪。勝手なやつめ。仕方ない、いまからでも会ってやろうじゃないか。
「でもその前に、逸美ちゃんもいっしょじゃないと。だろ?」
「むろん」
凪は顔だけ俺に振り返り、短くきっぱり言った。
「逸美さんは、さっきキミが言っていたサインポールの前にいるのかい?」
「まあ、その近くだ」
「オーケー」
凪は俺の前を歩きながら鼻歌を歌っている。
「機嫌がいいみたいだな」
「ん? そうかな? いや、そうでもないのかもしれないぜ」
自分のことなのに曖昧な返答をするやつだ。
少し歩くと、逸美ちゃんがいた。
凪は飄々とした素振りで逸美ちゃんに手を上げる。
「やあ」
「あら、凪くんじゃない。開くん、いっしょになったのね」
「うむ。ぼくたちは一心同体でいっしょになったんだ」
すらすらとくだらないことを口走る凪の背中を小突いて、訂正する。
「どこも一心同体じゃねーよ。それより逸美ちゃん、ちょっと来てほしいんだけど、いまから大丈夫?」
「逸美さんにも、会ってほしい人がいるんだ」
と、凪が説明の補足をした。
逸美ちゃんは片目をつむって、薄く微笑む。
「にも、ってことは、開くんにも初めて会わせる相手なのね。開くん、凪くんとなにかあったの?」
ご明察。さすが俺の探偵助手。
「まあね。その説明はこれからするよ」
「わかったわ。うん、わたしは大丈夫だから行きましょう?」
凪は二歩、三歩と進んで、俺と逸美ちゃんを振り返った。
「サンキュー。じゃあ、行こう。おいで」