第三章10 『魔術師と世界の選択』
「愚問だね」
不敵な笑みでそう言った凪は、俺の反応を見ずに言葉を継ぐ。
「ぼくはキミに選択を迫る」
「選択?」
急になにを言い出すんだ。
凪は俺に手を差し伸べるように、その手のひらを向けた。
「ぼくと組まないか? 相棒」
組む、と言ったか。
「また昔のように、いっしょに事件に挑もうぜ」
まったく、なにを言うかと思えば、そんなことか。
選択。
凪と組むか、組まないか。
もし凪と組めば、その雑学的な雑多な知識と謎の情報力で俺を助けてくれるだろう。しかし振り回されもする。こいつといっしょに関わった事件では、いつも振り回されてきた。それだけじゃない。加えて、犯人候補のこいつと共に行動することになるのだ。こいつが犯人なら、誘導もあるかもしれない。危険で面倒で、けれども解決できる可能性を飛躍させてくれる。
もし凪と組まなければ、凪から得られる情報の一部が、開示されないかもしれない。組まなかったことによって凪からの信頼を得られなかったら、それは当然だ。こちらも端から信用しなかったことになるのだから。信用しようとする姿勢すら見せなかったことになるのだから。ただし、危険かもしれないこいつに関わらないという意味では、安全性はある。
いずれにしろ、簡単にどっちがいいと言えるほど、軽々しい天秤ではない。
俺は悩んでいた。
この事件に関わり始めてから、一番悩んでいた。
ここでの選択は、俺の未来を、いや……、誰かの未来さえ変えると思ったから。
昔みたいに凪といっしょに行動するのは、正直うんざりだ。振り回されてばかりだし、迷惑かけられるし、探偵事務所では逸美ちゃんと二人きりになれないし。
でも、ただそれだけだったろうか。
違う。
確かに凪と過ごした時間は、それだけじゃなかった。楽しいこともたくさんあって、凪のおかげで解決できた事件もあって、しかし振り回されもして。
今回に関してはどうすればいいんだろう。
俺は凪を、心の底からはまだ信じていない。
けれども俺は、凪を信じたいとも思っている気がして……。
ここで、凪が言った。
「迷うことは悪くない。思慮深いのがキミ美点だ。大いに悩み、答えてくれ」
次回から、ルート分岐します。SFギミックを使っているので、2つのルートを読み比べながら楽しんでもらえたらと思います。