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天使よ俺を巻き込むなっ!  作者: 小麦
水の天使ガブリエル
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ああこれが、走馬灯ってやつか

 拝啓、成田様・咲良様・ラミエル様。お元気にしておりますでしょうか。俺、天使操は今謎の天使ガブリエルを名乗る女の子に水の弾でひたすら追い回されています。

「おいおいそんなに避けるなよ。一思いにやられた方が楽だぞ?」

「俺は死にたくねーんだよ!」

 しかし、手紙の書き方のような文章を考えられる辺りは俺もまだ余裕があるのだろうか。いや違うな。単純に現実逃避したいだけだな。さっきからガブリエルの使う水の弾が俺のすぐ真横をすり抜けては町に壊滅的な被害を出してるし、どう考えても人間が相手にするようなもんじゃない。

(にしても何をどうやったらあの威力になるんだよ!)

 水の弾と言えば聞こえはいいが、実際はコンクリートに穴を開けるくらいで済めばいい方で、酷い場合になるとアスファルトが爆発したような音を立てて辺りに飛び散るほどの威力を誇っていた。おそらく彼女の持つ力の能力もあの水の弾の中に含まれているのだろう。でなければ手のひらほどのサイズの水の弾でここまでの大災害は起きない。公園の地面も溶岩でも噴出したように穴だらけだし、ここが本当に日本なのか疑いたくなるような光景だった。

「しかし、何でこんなに酷いことになってるのに誰も気付いてねーんだ……?」

 これだけ辺りに被害が出ていれば誰かは気付きそうなものだが、まるで誰かが来そうな気配もない。すると、そのくらいなら答えてやるといったようにガブリエルが丁寧な解説を始めた。

「貴様は知らんだろうが、私たちには人除けの能力がある。天界の者が人間界に降りてくる時にはその能力を使って他の人間に見えないようにしておくのだ」

 今ガブリエルがしているのはその応用で、俺と彼女が存在している場所を他の人間が認知できないようにしているのだという。先ほどの青い光がそれらしい。俺に解説している余裕がある辺りがまさに格の違いというやつだろう。

「つまり、貴様が今この場で死んだところで貴様の死に気付くものも、悲しむものもいないということだ」

「えっ、俺誰にも気付かれないまま死ぬの!?」

 何ということだろう。つまり、俺が今まで築いてきた友人とか恋愛関係も……あれ、俺友達なんかいなかったな。成田は別に悲しんでくれるような奴でもないし、咲良も何か恋人とかそういうのとは違う。家族も普段会わない分、別に俺がいなくなったところであんまり悲しんでくれなさそうだし……。あれ、これ俺って結構悲しい人生だったんじゃ?

「いやいやいやいや。まだ俺は死なない。こんなところで死んでたまるか。読みたいラノベもあるし、やりたいギャルゲーだってあるんだ。何より楽しい人生だったと思える前にお前の水の弾なんかに負けてたまるかよ!」

 人生を一瞬走馬灯のように思い出した俺は改めて生きる決意を固める。そうだ。少なくとも俺の死を悲しんでくれる奴が現れるその日までは、俺はギャルゲーとラノベに生きるんだ。死ぬことであんな楽しいものを味わえなくなるなんて考えられん。

「……何か厄介なものを思い出させてしまったようだな。さっきよりお前が怖くなってきたよ。何だか強そうにも見えるしな。これが生への渇望と言うやつか」

 ガブリエルはため息をつく。

「仕方ない。面倒だがこちらも本気で行くとしよう」

「……へ?」

 今までのは本気じゃなかったんですかガブリエルさん?

「あんまり人間界で大きな力は使いたくないんだ。避けてくれるなよ?」

 彼女は今まで1つずつしか作らなかった水の弾を両の指合わせて10発分一気に作り出した。あれ、その水の弾ってそんなに量産できるやつだったの?

「舞い踊るがいい。我が僕たちよ」

 しかもさっきと違って何か動きがくねくねしてやたらと避けるの大変そうなんですけど? 何あの蛇みたいな動き方? それが一斉にこっちに向かってきて……って実況してる場合じゃねー!

 ドカンとかバカンとかとにかく人生では絶対に体験しないであろう大きな音が俺の周りで響く。俺は当たらぬようとにかく必死で避ける。避ける。避ける。好きでそうしているわけではない。それしかできないのだ。10発全てを何とか避け切った俺が土煙の中から姿を現すと、ガブリエルは額に手をやった。

「……だから面倒だから避けるなと言っているのに、貴様も物好きだな? そんなに疲れたところでどうせ死ぬ以外の選択肢など残ってはいないのだぞ?」

「はあ、はあ……。だから、俺は死ぬ気はねーんだってば」

「……そうだな。この問答を何度続けたところで、お前は生きたい、私は殺したい。この相関関係に変わりはないし、聞くだけ無意味だろう」

 すると、ガブリエルは右手を天高くに掲げた。

「ならば、私も方法を変えよう。この空間全てを満たす、決して避けられない水の弾。これをお前が避け、生きることができたなら、その時は今回お前を殺すのは諦めてやろうではないか。私はこの空間から逃げることでその死を回避できるが、お前にその術はあるまい。何せ、天使にしか通り抜けることのできない空間だからな」

 徐々に徐々に大きくなっていく水の弾。つまり、避けようのない殺意。あの攻撃が通ったなら、間違いなく俺は死ぬ。窒息死なのか圧死なのか、あるいは形さえも跡形も残らない死なのか。それは分からないが、間違いなく生きては帰れない。

「さて、何か残しておきたい言葉があれば聞くぞ?」

「……最後なんかじゃねーよ。俺はまだ死なねーんだから」

 そう強がっては見るものの、実際には策などない。完全に万事休すである。

「そうか。まあ、人間にしてはよく頑張ったと思うぞ。少なくとも、私が出会った人間の中では一番強いと評価してやってもいい。それなりに楽しむことはできたからな」

 ちくしょう。あんなに勝ち誇られてるのに俺には何の策もない。俺の人生こんなところで終わりなのかよ。こういうのってフラグが立って生き残るってのが相場だろ? 現実でもそういうのないのかよ。

「さらばだ天使操。良い天界への旅路を祈っているよ」

 その声が消えるか消えないかのタイミングで大きな水の弾が放たれる。それは俺を押し潰そうと容積をどんどん増していった。

(ここまで、か)

 水が少しずつ体を侵食していく感覚を味わいながら、俺は死の絶望を味わっていた。

「……随分と早い諦めですね? 雷の烙印(パルスタンプ)、押して差し上げますよ?」

 どこかからそんな声が聞こえたような気がしたが、夢か現か、俺の意識はそこで途切れた。

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